GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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2009年5月19日〜21日、ウガンダのエンテベにおいて開催された「アフリカの農民に農業バイオテクノロジーを届けること−経済的研究と意志決定に関連して」Delivering Agricultural Biotechnology to African Farmers-Linking Economic Research to Decision Makingと題された会議と、09年5月15日〜19日、イタリアのローマにおいて開催された「開発との関連において食品安全保障のための遺伝子組み換え作物」Transgenic Plants for Food Security in the Context of Developmentというタイトルのローマ法王庁科学アカデミー(the Pontifical Academy of Sciences)による研究週セミナー研究週セミナー について、今回は触れたい。
ウガンダでの会議を共催したのは、米国ワシントンD.C.に本拠を置く国際食糧政策研究所(IFPRI:the International Food Policy Research Institute)、ウガンダの国立科学技術委員会(UNCST:Uganda National Council for Science and Technology)および生活と発展のための科学財団(Scifode:Science Foundations for Livelihoods)である。
この会議の目的は、アフリカにおける遺伝子組み換え(GM)農作物の経済的影響と可能性、あらゆるレベルにおいてバイオテクノロジーが直面している現在の反対と政策当局が前進するための方法を論じることだ。ステークホルダーとして、政策当局、公的研究機関の科学者、産業代表者、学者と国際機関が参加している。
セッション(1)ではGM作物の査定を焦点とし、既存のケーススタディ、社会経済学的研究、政策分析の調査を通して、アフリカにおけるGM作物の継続的で可能性を持つ適切な採用と使用のためのレッスンを学ぶ。そしてセッション(2)では、バイオテクノロジーの研究や社会経済学、政策分析と意志決定の間のリンクを強化するための知識プラットホームを提供する。で、結果はというと、
https://proxy12345.appspot.com/africasciencenews.org/asns/index.php?option=com_content&task=view&id=1279&Itemid=1
TITLE: Low agricultural yields could hinder Africa meeting development goals
SOURCE: African Science News Service
DATE: 2009年5月21日
アフリカの低い農業生産性が、2015年まで途上国における飢えを半減させる国連ミレニアム開発計画のゴール達成を妨げているという指摘には反論の余地がないだろう。実は食糧は余っている、分配の問題にすぎないという良く聞く反対派の主張は、では、どうするのか?という次のステップで完全に思考停止する。
GMを伴うバイオテクノロジーまたは遺伝子工学が、これらに対処する1つの可能な方法だというのがこの会議における結論だが、ここには異論のある向きもあるだろう。目的や主催者から明らかなように、(1)のややいいとこ取りや(2)のGM、バイテク推進姿勢は致し方ないし、下手に中立を装うよりは潔いとも言える。
筆者が注目するのは、らちのあかないEUを迂回しての米国官・民一体のGMアフリカシフトだ。前回少し触れたSB384(世界食品安全保障法令)や、米Monsanto社はじめ各企業の開発パイプラインにはこの方向性を志向する作物開発が花盛りだ。バイテク業界が嫌悪していたカルタヘナ議定書を、多少妥協しても早く纏めてしまおうとする動きもこれと無縁ではないだろう。
議定書最大の論点であり付属議定書とすることが決まった(10年10月の名古屋COP10/MOP5で採択されればナゴヤ議定書と呼ばれるだろう)第27条「責任と救済」に対し、大手バイテク業界が万一の場合の弁済に関するフレームワークを提案したCompact(契約補償連盟)を提出し、対立から融和へ舵を切ったのは良い例だ。
現在、アフリカにおけるGM商業栽培国は南アフリカ、エジプトとブルキナファソの3カ国に留まるが、ワタ、ダイズ、トウモロコシ、バナナ、ソルガム、サツマイモとキャッサバなどに各国は興味を示し、研究開発も一部諸国で活発であり、ここに多国籍企業が割って入ることに対し反対派は警戒色を露わにする。この種子支配などの特許権問題は、食糧危機とは切り離して論じるべきなのだが、現実はそれを許しそうもない。
この会議の結論が、09年7月のアフリカサミットにどう反映されるのかは今後注目される。またセッション(1)とほぼ同じような趣旨に基づいたFAO(国連食糧農業機関)主催の電子メール会議が、「過去から学ぶこと:直近20年にわたる途上国の農業バイオテクノロジー採用による成功と失敗」と題され、6月8日から7月5日まで開催されており、非専門家からの意見も拝聴できよう。
アフリカンアグリGMの障害が、農産物輸出先であるEU諸国の頑なGM拒否姿勢にあり、人道上それはちょっとマズいのでは、というEU識者の意見もトレンドだ。アフリカ農業は、高額で輸出できるオーガニック農産物に振るべきという意見もあり、むしろGMとの共存の途を探るべきなのに、GM vs.オーガニックという対立構図が短絡的に形成されてしまうことも問題だろう。
さて、そのEUであるが、GMを巡る情勢はフリーズしたままだ。GMポジの姿勢を貫いてきた欧州委員会は、フランスに続くドイツのMON810栽培禁止(09年4月)やポーランドのGM栽培禁止を地方のGMフリー運動として認めさせられる(09年5月)など、政治絡みの強固な反抗に遭い、任期間近で力尽きた感もある。
その欧州委員会が熱心に祈ったかどうかは不明だが、思わぬ所から神の恩寵がもたらされる。ローマ法王庁科学アカデミーの研究週セミナーが、GM農作物が食料の安全性と安全保障、より良い健康状態と環境の持続可能性を提供することに同意し、GM作物への支持を表明したからだ。
http://www.newscientist.com/article/mg20227114.200-genetically-modified-crops-get-the-vaticans-blessing.html
TITLE: Genetically modified crops get the Vatican’s blessing
SOURCE: New Scientist
DATE: 2009年6月4日
セミナーは17カ国41名の科学者たちによって組織されているが、昨08年4月に公表されGM作物の飢え救済ツールとしての可能性を否定したシンクタンク「開発のための農業科学技術国際評価(IAASTD:International Assessment of Agricultural Science and Technology for Development)」報告書 とは真っ向から対立する見解が示された。
同じくセミナーでは厳しすぎる規制が、国際大企業だけにGM作物の承認申請を許しており、貧しい人たちを救いたいと望むNGOには道が開かれていない、という突っ込んだ指摘もなされている。これは、このセミナー議長を務めたゴールデンライス開発者でもあるIngo Potrykus教授(ドイツ、研究組織はスイス)の意向が強く反映されたものと思われる。
法王庁内部にも、多国籍企業の種子・農業支配を懸念しGMに反対する意見もあり、そのような人々を外した一方的人選がセミナーではなされている、という批判もある。また、このセミナーの結論が、法王庁全体の公式見解となるのかはまだ微妙だ。
しかし、その意向が、日本では想像できないくらい大きなインパクトを西欧社会では持つが故に、従来からローマ法王庁はGMについての態度を明確にすることに極めて慎重だった。その内部組織がこれだけ明確なGM支持の結論を打ち出したことは注目されていい。
昨08年の食糧危機や穀物価格高騰は、GMO再評価の機運をもたらし、上記2つのイベントの結論への底流をなす。しかし、それは同時に反対派にも燃料を補給した。環境保護だけでは人命救済のアジェンダには対抗し難いため、一時解決済みと考えられていたGMの食品安全性問題を、反対派は再燃せざるを得なかった。
意外にも、これがいまだに有効だったのは、メディアが蔓延させてしまった「安心」に対する基盤の脆弱さを突かれるとGMの足下はまだ心許ないからだ。さらに、EUのように政治のポピュリズムがそこに絡むと一層ややこしいことになる。しかし、主戦場はアフリカに移りつつあるという印象を筆者は最近抱いている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)