GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
12月のEUは、図らずもGMOを巡る今年1年の縮図となった。GMO熱烈ポジの英国と欧州委員会+EFSA(欧州食品安全機関) Vs.慎重派のフランスと環境閣僚理事会+応援団NGOという分かりやすい対立的構図を描いてみるのは簡単だし、ちょっと面白い。例えば、José-Manuel Barroso欧州委員会委員長がまたがるトロイの木馬(英国)は、錠前師(EFSA)の作った合い鍵で城門(EU)のカンヌキを外しにかかる。慌てた衛兵隊長(フランス)がこれを押さえて城内の援軍(環境閣僚理事会)を呼び出し、城砦守備の傭兵部隊(NGO)も武器を片手に騒いでいる、という絵巻はどうだろう。
http://www.euractiv.com/en/cap/eu-ministers-back-gmo-free-zones/article-177557
TITLE: EU ministers back GMO-free zones
SOURCE: EurActiv
DATE: Dec. 9, 2008
2008年12月4日開催されたEU環境閣僚理事会 は、前回10月20日にはまとめきれなかった域内GMOフリーゾーンの設置の可否について、条件付きながらようやく合意に達した。
これらの背景として、2つのことは頭の片隅に入れておくべきだ。1つは07年11月の欧州委員会Stavros Dimas環境委員のGMトウモロコシBt-11と1507系統 の栽培承認を巡る反逆 であり、もう1つは08年2月のフランスによるMON810の栽培禁止措置 である。
ともかく、08年7月にEU議長国に座ったフランスは、GMO承認迅速化、リスク評価法などのレビューに関する作業部会を立ち上げ、これらの提案をベースに議論を重ねてきたのが環境閣僚理事会である。12月の議長国任期切れを前に、フランス提案は形としては合意されたが、その実効性については不透明なままだ。
環境閣僚理事会の合意内容を手短に箇条書きにすれば、以下の通りである。
1. 害虫抵抗性及び除草剤耐性GMOの中・長期の環境影響評価をモニタリングなどにより改善する
2. GMO導入の社会経済学(socio-economic)の基準を査定に含めるよう要求する(学術的に確立されていない分野との説もあることに注意)
3. EFSAのGMOリスク評価に加盟国の専門家を活用する(EFSAによる絶対的リスク評価の弱体化が狙い)
4. 播種用種子へのGM種子混入に関する閾値を設定し表示する(すでに検討されてきた事柄)
5. ケースバイケースで現在は禁止されている域内GMOフリーゾーンを認める(ただし、科学的な環境影響評価が必要とされる)
フランスと環境閣僚理事会の目論見は、EFSAのリスク評価のみに基づき、可否を決し得ない閣僚理事会の審議に毎度不毛な時間を費やした後に、結局は欧州委員会のデフォルト認可に終わる現行のGMO承認システムに対する閉塞感をなんとか打破しようということだから、それ自体悪いことではない。一部の暴れるGM反対派NGOのガス抜き効果も認められる。
実効性が不透明なのは、これらが直ちに指令や規則(法律)の改正を意味せず、かつこれらの施策が現状打破に繋がる保証もないということだ。投げられたボールは欧州委員会にあり、欧州委員も当然なんらかのリアクションを採る必要はあるだろう。すでに、欧州委員会とEFSAは環境影響評価の見直しに取り組んでいる。しかし、この段階で環境閣僚理事会の合意を骨抜きにしてしまうことも、欧州委員会側には可能だろう。
任期末期の欧州委員会には、本格的な法律改正に取り組むつもりなど毛頭無いから、結局は現行のGMO承認システムは、部分的に手直しは行われても、本質はほとんど変わらないのではないかというのがEU内関係者の一致した見方だ。
欧州委員会側の反撃の具体例を上げていくと、先ず環境閣僚理事会合意と同じ08年12月4日に、欧州委員会は米Monsanto社のRoundup Ready 2ダイズに対し、時間的には認可史上最速の輸入承認 を与えている。
EFSAも、12月1日に米Pioneer Hi-Bred International社のGM掛け合わせトウモロコシ59122xNK603には健康・環境リスクはないと結論 した。
また、12月4日にはGMトウモロコシ MON810 とT25にセーフガードを適用して輸入禁止にしているオーストリアには科学的妥当性がないと、欧州委員会に答申している。
そして、欧州委員会に同意したECJ(欧州裁判所)が、フランスに対しそのGMO関連国内法整備の遅れに対する1000万ユーロの罰金を課した のは12月9日だ。「決めるのはこっちだ!」と言わんばかりの挑発にも見える。
Barroso欧州委員会委員長が隠密裡に組織した域内GMO受容を推進する全27カ国のシェルパ会議(首脳会合の準備担当者による会議)については、08年10月26日付の英国Independent紙がその存在をスッパ抜き、GreenpeaceなどはBarroso委員長に対する不信感 をあらわにしている。
EUのGMOの規制と受容に関する歴史は、簡単に言ってしまえば強く規制するから安心して受け入れなさいというものだった。その姿勢は承認モラトリアムの解除と表示やトレーサビリティの義務付けをトレードオフしたことなどによく表れている。
しかし、これはイソップ寓話「北風と太陽」の通り、常に裏目に出た。無理からぬこととはいえ、公衆は強力な規制が必要なほどリスクが高いものだとGMOを誤解したからだ。これは、我が国のGM食品義務表示制度を決めた農水省が「安全性ではない、消費者選択に資するためだ」とその目的を説明したが、結局は消費者の不安と食品業界の不信を煽る結果になってしまった失敗と同じである。
一度建ててしまった法律の改正はなかなか難しいし、食品安全性に対する後退と取られかねない規制緩和措置を求めることも困難な時代である。食糧危機に起因するパラダイムシフトの時代を迎えて、GMOの安全性と受容、規制と経済や市場原理の間にバランスを取ることの困難さの証が、EU両陣営の暗闘なのだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)