GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
前回のGMコムギ模様に続けて、コメも書きなさいという編集部のお達しである。それは、結局のところ最近書いた中国 になるし、「またかよ!」の2008年7月30日にリリースされたニュージーランドにおける中国Bt63混入製品リコール事件から説き起こすのもいかがなものかと、暑い中グダグダしていた。しかし、ややマクロな視点に振った米国Hudson Instituteの研究者による論説が出たので、中国の二番煎じになるのはご容赦いただき、コムギ同様これを中心にGMコメ模様を眺めてみたい。
TITLE: China Releases Biotech Rice, Bars Biofuel to Protect Food Supply
SOURCE:NewsByUs by Dennis T. Avery
DATE:July 28, 2008
「中国は、世界的な穀物需給逼迫から遺伝子組み換え食用作物への遺伝子工学の広範な使用を保証し、全国的な遺伝子組み換えイネの展開を促したと発言している。中国の育種家が、10億人以上のために高騰したコメ輸入の資金を調達するより、遺伝子組み換え農作物によって高い反収をあげることが確実だと述べる。
穀物供給を守るために、さらに中国は過去2年間穀物ベースのエタノールに消極的だった。エタノール向けトウモロコシの需要増加が、国内のコメと畜産品の価格を高騰させる恐れがあったからだ。
世界が次の30年にわたり食料と飼料の生産を2倍にしようと努力する時、バイオ燃料の有無にかかわらず、これらの戦略は急速に発展途上国のモデルになるかもしれない。
西欧のバイオ燃料への傾斜が、不幸にも2005年から世界穀物価格を2倍以上にした。トウモロコシ価格が、最近の1ブッシェルあたりおよそ5.50ドルに落ち着く前に、2ドル以下から7ドル以上にまで急騰した。畜産業界は、バイオ燃料によるこれから先のインフレがそれ以上の食料価格を招来するのを依然として警告している。
中国は、すでに害虫と病気に抵抗性のある遺伝子組み換えイネの品種を開発している。同様に、肥料の使用を半減させる効率的に窒素を利用するイネを実験している。この新しいイネは生産コストを削減し、生産されたコメ1トンあたりの温室効果ガスの発散がはるかに少ない。このイネは、特定の除草剤(訳者注:ベンタゾン)に対し極めて敏感であるようあらかじめプログラムされたから、遺伝子組み換えイネの「エスケープ」問題は起こさないだろう。
中国は、すでに遺伝子組み換えトウガラシ、トマトとパパイヤの栽培を認めており、ばく大な生産量のワタの大部分が、害虫抵抗性に遺伝子組み換えされている。バイオテクノロジーは、世界中でパパイヤ生産に猛威を振るうリングスポットウイルスを克服し、トマトとトウガラシにウイルス抵抗性を与えた。 もう1つの遺伝子組み換えが、中国の劣悪な道路事情と冷却方法の欠如が原因のより長い輸送の遅延からトマトを生き残らせる。
中国が試験中の窒素を効率的に利用する遺伝子組み換えイネは、育種家が干ばつ耐性作物を探していた時、カナダアルバータ大学で発見された(訳者注:2002年)。温室で偶然施肥するのを忘れたのにもかかわらず、作物の1つのセットがちゃんと成育していたのだ。それらは窒素肥料が半分でも高い反収を維持する窒素取り入れのための新しい、さらに効率的な経路を見い出していた。
米国Arcadia Biosciences社は、中国のイネ栽培者とオーストラリアのコムギ栽培者と連携して、窒素を効率的に利用する農産物を上市しようとしており、さらにトウモロコシでも新しい窒素効率を開発しようとしている。同社は、すでにインドのMaharashtra Seed社との使用許可契約書に署名している。
Greenpeaceは、試験圃場からこっそり持ち込まれた遺伝子組み換えコメが、すでに(中国)政府の承認なしに消費者市場で売られ、おそらく輸出されたと主張する。しかし、世界のコメ価格が最近レコードに達するという状態で、誰もこのことを気にかけているようには思われない。
昨今の問題は、1人あたりの農地が減少する中で十分な食料をどうやって生産するかだ。加うるに、肥料工場に供給されてきた天然ガスが発電所へ回されたことにより肥料価格が高騰し続ける。
世界のリーダーたちが、同じくサハラ以南のアフリカで初の高反収の農業のための革新された緑の革命を起こすBill and Melinda Gate財団の努力を歓迎している。」(記事抄訳終わり)
記事中のArcadia Biosciences社は、02年にEric Rey氏がカリフォルニア州で起業したバイオベンチャーだが、なかなかユニークな活動ぶりなので少し補足しておく。同社で有名なのはリノレン酸の含有量を高めたGMサフラワー(油)だが、窒素を効率的に利用するGMイネについても、そのゴールはかなり意表を突いたものだ。
中国の農家にこのGMイネを栽培させることにより温室効果ガスを減少させ、その炭素クレジットを排出権取引に利用しようというのが同社の計画である。世界の温室ガス放出の約14%は農業部門が占め、これは輸送部門より大きな比率にある。その農業部門の温室効果ガス排出の多くは窒素肥料に起因する。中国は肥料の最大のユーザーであり、かつ世界最大のコメ生産国だ。
ここに目をつけたRey氏のアイデアはなかなかだと思うが、知的財産法が脆弱な中国でのビジネスはよろず難しい。GMワタのレールを敷いた米国Monsanto社も今や種子販売地域を限定され、レール上を爆走しているのは中国産のBtワタである。国家のGMイネ志向という第一関門はクリヤーしたが、巨額の排出権取引に割って入ろうとするArcadia Biosciences社の先行きはまだ不透明だろう。
話変わって、GMコメのベンチャーと言えば、本稿でも時々取り上げてきた米国Ventria社のGM製薬イネ のニュースも久方振りに登場した。08年7月18日付のビジネス短信は、GMイネ試験栽培を受け入れたカンザス州が、同社に対し375万ドルの資金提供を行ったと伝えている。
これにより07年5月にUSDA(米国農務省)から認可された契約栽培農家によるGMイネの試験栽培はさらに拡大され、同社は年内にも商品化計画を始動すると述べている。順調に行けば、上市される初のGM「医療食品」となる可能性が高い。
00年に発表されて以来あまりにも有名であり、GM推進派などからの期待を一身に担うゴールデンライス開発の方はどうだろうか?途上国の子供を盲目から救うという触れ込みのビタミンA強化GMコメであるゴールデンライスに対しては、一時Greenpeaceさえ反対するのをためらった。
現在、様々な研究機関により改良が競われているゴールデンライス開発の総元締めであるフィリピンベースのIRRI(国際イネ研究所)は、今年Bill and Melinda Gate財団から2千万ドルの寄付金を受け、11年には農家に種子を提供できる見込みと発表している。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)