GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
日本は暑いがオーストラリアも熱い。2003年7月と12月にGMカノーラの商業栽培を連邦遺伝子技術規制局(OGTR)は認可したが、生産諸州政府によるモラトリアムにより実現していない。これらモラトリアムが近々期限を迎えるにあたり、GM(カノーラ)導入を計りたい連邦政府から次々打ち出される受容推進政策と、これに反発するGM反対派という構図が、同国メディアを連日賑わしている。
オーストラリアは1996年にBtワタの商業栽培を開始し、06年は20万ヘクタールと同国全ワタ栽培面積の90%を占めるに至った。日本サントリーの関連企業によるGMカーネーションの商業栽培も認められてきた。しかし、GMカノーラは前述の通り、クィーンズランド州を除く各州政府のGMモラトリアムが効いており、一切栽培されていない。
GMモラトリアムの期限は、ビクトリア州(東部)、ニューサウスウェールズ州(東部)および西オーストラリア州(西部)が08年3月まで、南オーストラリア州(中南部)08年4月まで、タスマニア州(東南部)09年11月までとなっており、各々見直しを迫られている。
このような状況下連邦政府は、州政府のGMモラトリアム解除に向けてあの手この手の圧力を強めており、東部のビクトリア州とニューサウスウェールズ州は農業グループと豪州連邦科学産業研究機構(CSIRO)の支持によりモラトリアム撤廃の可能性が高いと観測されている。
ここがオージーらしいところなのだろうが、連邦政府のモラトリアム解除を促す政策は、例えば権謀術策に長けた欧州委員会などに比べると、はるかにあけすけでストレートである。それは、世論形成を目指す官・民報告書のこれでもかの発刊ラッシュという形をなす。
先峰は、07年3月公表のABARE(The Australian Bureau of Agricultural and Resource Economics)報告書Market Acceptance of GM Canolaだ。この報告書は、日本、メキシコ、中国、パキスタンおよびバングラデシュなど輸入マーケットで、(カナダ産)GMカノーラが非GMカノーラと同レベルの価格で容易に受け入れられていると論じる。ABAREは、既に05年9年にGM不使用は次の10年間で最高30億豪州ドルの損失を農家に招くかもしれないと警告している。
次峰は、07年7月に連邦政府から公開されたGM Canola:an information packageで、経営コンサルタントのACIL Tasman Pty Ltd.が作成に当たり論点整理風味ながらGMカノーラ栽培ポジに振られており、Peter McGauran連邦農相はこの報告書を強く支持している。
副将は、穀物産業のための政府調査機関である穀物研究開発機構(The Grains Research and Development Corporation:GRDC)から07年8月7日公表のFutureCrop-Biotechnology and the Grains Industryだ。世界における最近のバイオテクノロジーの進捗を調査し、既に1000万人の農民がGM農産物マーケットを見いだしており、国外でさらに進められている開発を調査・紹介し、外堀を埋める。
大将は、農林水産省(The Australian Department of Agriculture, Fisheries and Forestry:DAFF)とGRDCとの下部機関SVGA(Single Vision Grains Australia)から07年8月9日に発表されたDelivering market choice with GM canolaが続く。世界でGM作物を栽培する農民は、10年以内に40カ国2000万人に達し、現在の2倍になるだろうと推論する。GMと非GMカノーラの分別管理は可能であり、GM花粉によるクロスポリネーションにより農家が従来のマーケットから追われることはないと勇気付ける。
これに呼応して、応援席も鳴り物動員で相当に激しい。07年1月には、西オーストラリア州からトランス脂肪酸発生を抑止したカノーラによる肥満リスク解消が喧伝された。07年3月には、OGTRがGMカーネーションの商業栽培を許可不要として規制緩和する。さらに07年7月には、GM食品受容に対する消費者のサポートが過去2年にわたり46%から73%に激増していると業界団体が発表する。GMのメリットを匂わせる内容のリリースが、今年に入って目立つのは一目瞭然だ。
実は、オーストラリアにとってGMカノーラは一つの呼び水に過ぎないと筆者は見ている。一昨年来未曾有の干ばつ被害に見舞われた同国政府の深部は、GMを始めとする技術革新なしで自国の農業経済は今後成り立たないと腹をくくったのだ。07年6月13日のOGTRによる、にビクトリア州政府に対する干ばつ抵抗性GMコムギ試験栽培認可は、象徴的出来事と見られる。
さて、我が国ではいつも通り空気が読めないGreenpeace Japanが、オーストラリア州政府にGMモラトリアム継続の請願書を送るサイバーアクションプランに大慌てである。組み換えDNAやタンパク質が分解除去された精製カノーラ油は、GMだろうが非GMだろうが品質に変わりはなく、製品からGM原料使用の特定も出来ないから表示も不要だ。
従って、いくら高額になっても非GMカノーラを買い続けるという一般生活者の感覚からは乖離した長期契約などの保証もせずに、単なる無知やわがままから他国の農業生産の将来を危機的状況に陥れてもいい道理はない。
さらに、Greenpeace Japanは「遺伝子組み換えトウモロコシMON863の即刻回収を!」とホームページに表示し続けているが、この根拠となるフランスの研究データが欧州食品安全機関(EFSA)により完全否定されたことには一切触れていない。不勉強で知らないのか、意図的に都合の悪い情報は隠蔽する体質なのか知らぬが、不正確な情報操作で社会不安を煽り続けるべきではない。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)