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米国GMコメ騒動第2ラウンド–BASF社が巻き込まれ、農家も大混乱

宗谷 敏

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 2007年3月5日、米国農務省(USDA)動植物検疫局(APHIS:Animal and Plant Health Inspection Service)は緊急処置通知を発行した。独BASF社が生産し、米Horizon Ag社が販売する非GM長粒種イネClearfield CL131に、独Bayer CropScience社製GMイネの成分が微量混入している疑いがあるため、種子の販売及び今季作付けを保留しろという内容だ。さらに、3月9日になると混入を確認したUSDA-APHISからCL131を禁止するリリースが出され、種子や既に作付けられたCL131のリコールに入る。いったい何が起きたているのか?

 この背景を調べ検証するためには、06年8月18日USDA公表のLLRICE601事故から辿り直す必要がある。アーカンソー及びミズーリ州で05年の収穫からLLRICE601(以下LLR601と略記)の微量混入が明らかにされたこの事故のあと、米国のコメ生産州はGMイネのコンタミネーションに神経質になり、州政府や業界があげて種子や製品検査に取り組んできた。

 民間検査の結果、2州以外にもミシシッピ、ルイジアナ及びテキサス州などの05年収穫のサンプルからLLR601の微量混入が発見され、ルイジアナ州立大学は、品種名Cheniereの03年収穫サンプルからLLR601の痕跡を発見した(04年は種子生産なし、05年はネガティブ)と、8月末に発表した。一方、ヨーロッパなど輸出先国からはコメ製品などからGM微量成分発見の報が次々もたらされ、米国コメ産業界にとって事態は深刻なものとなった。

 さらに悪いことには、APHISの追跡調査により、03年のCheniereサンプルからはLLR601のみならず、同じBayer CropScience社のGMイネであるLLRICE62(以下LLR62と略記、USDAがLLRICE06と共に99年規制緩和済み)由来のGM成分が発見される。USDAは06年11月24日にLLR601に対する規制を緩和(官報告示12月1日)し、未承認GMOという汚名を避けて突破を計る。

 コメ生産量全米一位のアーカンソー州は、06年12月28日、06-07年のCheniereの作付けを禁止する自主規制を行う。この時点で、GMイネ遺伝子混入が認められていた非GM品種はCheniereのみに限られており、混入したGMOはUSDAにより規制緩和済みであるから、事態は沈静化に向かうものと期待された(輸出先国の反応は、また別ではあるが)。

 07年1月に入ると州内で播種される可能性のある全品種を検査していたアーカンソー州コメ評議会のラボが、CL131の04年育種過程の品種からLLR62の痕跡を発見し、月末にAPHISに報告する。APHISは、調査中との中間報告を出すが、LLR62は規制緩和済みとして、表向き強い関心を示していない。

 しかし、アーカンソー州では思わぬ事態が進行していた。CL131は、GMを使わずに除草剤耐性を持ち、同州でも人気の高い品種である。そのCL131の販売元であるHorizon Ag社の自社調査により、CL131ラインから多くのLLの痕跡が発見され、それらがLLR601とも、LLR62やLLRICE06とも特定できないというのだ。CLの他の品種であるCL171や CL161からは、全くこの現象は起きておらず、Horizon Ag社は頭を抱え込む。

 こうして、本稿リード部分に示したとおり、慌てたAPHISの3月5日付緊急処置通知及びCL131を市場から回収するためUSDAに協力しているという同日付BASF社のリリースを経て、ついに商業化未承認LL(正体不明)の混入を確認したとする3月9日付リコールのUSDAリリースへとストーリーがつながっていく。BASF社によるCL131の種子の販売は禁止、既に作付けられた分は機械的又は他社除草剤により破壊されなくてはならない。南部稲作諸州でCheniereとCL131を合わせた種子のシェアは30%程度と言われており、農家も大混乱だろう。

 なぜBayer社のGM遺伝子がBASF社製品に混入したのかいまだに謎も多いが、これで米Dow Agrosciences社を除き、主要GM開発メーカーは種子管理の問題に起因する流出、コンタミ事故を起こしたことになる。規制する側のUSDAとしても、このところ司法から規制の甘さを突かれている。

 06年8月のハワイ地裁の製薬植物の試験栽培認可、07年2月のワシントンD.C.地裁の除草剤耐性GMシバ試験栽培認可及びサンフランシスコ地裁の除草剤耐性GMアルファルファ商業栽培認可の3件に対する違法・違反裁定だ。こういう情勢では、ある程度の規制強化は仕方ないのかもしれない。もちろん原因究明がキチンとなされることは前提条件であり、BASF社とBayer社はUSDAに協力して説明責任を果たして欲しい。

 本稿は、先週の拙稿に対するフォローアップになってしまったが、気になるのは先週も触れた3月中にパブリックコメントを募集中のVentria社製薬用GMコメに対するUSDA認可への悪影響である。ヒトたんぱく質を作るのが目的だけに、ヨーロッパを中心にGM反対NGOなどからは、フランケンライスといった口さがない批判が見られる。

 しかし、決して大きくはないベンチャー企業のVentria社には、途上国の下痢疾患に苦しむ貧しい子供たちを救うためにこのGM技術を生かしたいという強い信念があるように感じられる。無事に認可されるよう祈りたい。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)