GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
11月23日の感謝祭でダレるのではと思いきや、先週は注目すべきヘッドラインが並んだ。政策面では世界貿易機関(WTO)GMOパネル(紛争処理小委員会)のEUに対する裁定が確定、LLRICE601の米国農務省(USDA)による承認、技術面でも米国における綿実とコムギの品質改善などでニュースルームは大いに賑わった。
<WTO GMOパネルの裁定が確定>
TITLE: EU won’t appeal WTO ruling on GMO moratorium
SOURCE: Reuters
DATE: Nov. 21, 2006
2006年11月21日、EUはGMOモラトリアムに関するWTO GMOパネルの裁定に対し、控訴猶予期間の60日を迎え控訴を行わないと発表した。03年5月13日の米国、カナダ及びアルゼンチンによるWTO提訴、同年8月のパネル設置、延期を重ねた末に06年2月7日の予備裁定報告書、同年9月29日の最終報告書公表と、長きにわたった貿易紛争に一応の決着をみた訳だ。
筆者が気になっているのは上記最終報告書のところでも詳述したが、今回も同じトーンで貫かれたIATP:The Institute for Agriculture and Trade Policyのアナリストによる分析である。EUがこの裁定に控訴しなかった結果、WTO加盟国は多国間環境協定(MEAs)を遵守できない判例となってしまったという主張だ。
EUが自己弁護に援用した予防原則を、パネルの基礎とするには国際法上であまりにも論争的かつ不安定であるとし、予防原則を認めるバイオセーフティ議定書(カルタヘナ議定書)も提訴した3国が約定国ではない理由もあって、パネルにより共に退けられている。
<LLRICE601をUSDAが承認>
TITLE: Genetically Engineered Rice Wins USDA Approval
SOURCE: Washington Post
DATE: Nov. 25, 2006
06年8月18日の公表以来、世界各地で少量混入が見つかり大騒動になっているBayer CropScience社の未承認除草剤耐性GMコメ(長粒種)LLRICE601であるが、動植物検疫局(APHIS)による徹底的な科学ベースのレビューの結果、LLRICE601は環境に問題を来さず、規制なしに栽培が可能であると11月24日にUSDAが発表した。
本件に係わるUSDAの承認は、10月20日までパブリックコメントが実施されており、12月1日に官報告示される予定だ。食品・飼料安全性は、既に米食品医薬品局(FDA)が8月公表時点で問題なしとしており、これで「なんちゃってフル・アプルーバル!?」になるのだが、当然ながらBayerCropScience社は商業化の予定なしとホームページで述べている。
もちろん今回の措置はBayerCropScience社の違反の有無とは別であり、同社はミズーリ州やアーカンソー州のコメ栽培農家からの損害賠償集団訴訟にさらされているのだが、混入事故は農家と「神の御技」(不可抗力)が原因だと完全に開き直っている。
<栄養価を高めたコムギと食用可能な綿実の開発>
TITLE: Genetically-Modified Wheat, Cottonseed Offer Hope for the Hungry
SOURCE: Voice of America, by David McAlary
DATE: Nov. 23, 2006
コムギと綿実の品質改善については、スペースの都合から一まとめにした記事を貼る。ただし内容的にはイマイチなので、興味のある方は検索で他の記事も読み比べられたい。
コムギの方は、カリフォルニア大学デービス校、USDAとイスラエルのハイファ大学の科学者が協力して、たんぱく質や鉄と亜鉛を増やすことに成功したと「Science」誌06年11月24日号に発表した。
チームは、RNA干渉(RNAi:RNA interference)技術を用いて、野性のコムギに存在するGPC – B1と名付けられた遺伝子の働きを抑制する系統を作り通常品種と比較したところ、このGM品種はコントロールに比べ熟成が数週間遅れ、穀粒中のたんぱく質30%、鉄38%、亜鉛36%という顕著な減少が示されたという。
こうしてGM技術の利用によりたんぱく質や鉄と亜鉛増量に関与すると突き止められたGPC – B1遺伝子は、イスラエルに自生する野性種のコムギに存在しており、現在の栽培種中にもその存在は確認される。しかし、古代の育種過程でなんらかの事情によりその機能が失われたと考えられている。
将来の商業化にあたっては、MAS技術(DNAマーカー選抜技術)によりGPC – B1遺伝子を野性のコムギから米国で栽培されているコムギ品種に再導入し、GM技術は使われない予定だ。この結果、一部栽培種のたんぱく質が増え鉄と亜鉛も10%から15%増加すると見込まれ、パンやパスタ用に栄養改善されたコムギの誕生が期待されている。
一方、綿実の有害成分を減少させて食用化の道を開いたのは、テキサスA&M大学の研究者らで、the National Academies of Scienceの会報に発表された。綿実の色素腺には有害成分であるゴシポールが含まれ、臓器に害があったり男性不妊を招いたりするとされ、ヒトや動物の食用には不適とされてきた。
食用綿実油では精製過程における結合によりゴシポールは無害化されるが、タンパク分の利用はゴシポールの影響を受けない反芻動物であるウシやヒツジの飼料にしか従来使い道がなかった。
ゴシポールを減らす試みは、交雑育種によるグランド(腺)レスコットンなどもあるが、今度はゴシポールが防壁になっていた害虫被害を拡大してしまった。チームは、先述のコムギ同様RNA干渉技術を用いて、ゴシポールの生産に関与する遺伝子の働きを押さえ、ヒトが食しても安全なレベルに下げるのに成功したという。
グランドレスに対しこの技術の優れたところは、ゴシポールの減少を過食部位である綿実のみに留めたことで、葉や茎など害虫被害を受けやすい部位にはそのままゴシポールが発現する点だ。綿実粉を試食した研究者は、ヒヨコマメに似た味でダイズよりおいしいなどと評している。
今後、野外栽培試験や安全性確認などまだまだ実用化には時間がかかりそうだが、従来、捨てるか一部飼料用途にしか用いられなかった高品質なたんぱく質23%を含む綿実4400万トンが世界で生産されており、5億人の人々へのたんぱく質供給源となる可能性があると試算されている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)