GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
1996年GM作物の本格的商業栽培が始まってから10年の節目の年に当たり、次の10年を展望する試みが、USDA(米国農務省)とISAAA(国際アグリバイオ事業団)によりなされている。扱うスコープが米国と世界、各論と総論とに分かれるが、今週はこの2つのレポートを眺めてみよう。
参照記事1
TITLE: USDA ISSUES BIOTECHNOLOGY REPORT
SOURCE: USDA
DATE: Aug. 30, 2006
2006年8月30日に、USDAが公表したのは、諮問委員会であるGA21からのレポート「農業バイオテクノロジーの機会と挑戦:今後10年間」である。GA21は、03年から組織され、農務長官の委嘱を受けた農家、技術専門家、学識経験者、食品製造・流通業界代表者、消費者・環境保護グループ代表者などにより構成される。
委員会は、まず今までのGM作物が農民と環境に対して有益ではあったが、食品販売業者にマーケティングの利点を提供せず、栄養改善など消費者にアピールする要素に欠けていた点を指摘する。未知の危険がありはしないかという見解と、明白な消費者利益の欠如から、いくつかの国でGM作物に対する抵抗が生じ、表示などのリスクマネージメントが必要条件となった。
今後の新しい製品は、消費者に受け入れられなくてはならないことを委員会は認識する。委員会は、正確に次世代の新規GM動・植物を予測するのは不可能だが、可能性のあるリストを提示する。
それらは、ヒトの栄養を改善するよう計画された品種、例えばオメガ−3系脂肪酸を多く含むダイズや、より良い動物飼料を作るよう意図された農産物を含む。干ばつのような環境ストレスに対する抵抗性や、フサリウム抵抗性コムギ、胴枯病抵抗性クリ、プラムポックス抵抗性石果、さまざまな害虫抵抗性作物など、害虫と病気に対して抵抗する作物も同じくあり得るだろう。
また、ワクチンや免疫抗体などの医薬品や有用な酵素を作り特定の産業に役立つ植物や、バイオ燃料の原料をより多く含むよう計画される植物もあるだろう。一層論争的ではあるが、GM動物やサカナも可能性を有する分野だ。
参照記事2
TITLE: Ten years later: ISAAA reviews future of biotechnology
SOURCE: Food Navigator
DATE: Sep. 22, 2006
一方、06年9月17日から20日まで、サンフランシスコにおいてWorld Grains Summit: Foods and Beveragesが開催された。9月19日のセッションTen Years of Biotechnologyで、ISAAA のClive James理事長から「これからの10年:バイオテクノロジーの未来を再検討する」という発表が行なわれ、注目を集めた。
James理事長によれば、次の10年は国々が懐疑的になるのを止めて、有効性や利益に気がつき始めることにより、バイオ工学作物は倍増する。「2015年までに、控え目に見てもGM栽培国数は現在の21カ国から40カ国前後に、GM栽培農民数も850万人から2000万人に、GM栽培面積は2億2200万エーカーから5億エーカーに各々増大するだろう。
中国とインドにリードされたアジアでは、パキスタンとベトナムがこれらに続くと見られる。ラテンアメリカではブラジルが依然大きな可能性も持つ。南アフリカが独占的地位にあるアフリカでも、バイオ工学を採用する国が『控え目』に増加する。伝統的に新技術に懐疑的なヨーロッパ諸国でも、『ゆっくり、謙虚な』増大が期待される。
世界がバイオ工学に心引かれている一つの表れがある。ISAAAは、世界の加入者に月25万通の電子メールを送り、その数は月2000人のペースで増加している。同じくISAAA年次報告書は、メディアのカバーを通じて5億人に届けられる。88年当時は、発表される論文の約90%が否定的だったが、現在では95%がポジティブか中立であり、認識に巨大な変化が起きている。」(前半部抄訳終わり)
講演の後半は、「しかし、バイオ工学の普及は挑戦なしでは起きえない。」とし、改善されたコミュニケーションやバイオ工学農産物に関して知見データベースの必要性が述べられている。最後は「今日、世界最大の汚染物質は貧困であり、今後10年貧困を扱うためにバイオ工学は深い意味を持つ。この技術に関連する最大の危険はそれを使わないということだ。」と結ばれている。
話は変わるが、去る9月1日付朝日新聞「私の視点」は、米国エコノミック・トレンド財団代表のJeremy Rifkin氏による「組み換え作物は時代遅れに」という意見を掲載した。同氏は、本国では声の大きなGM反対活動家として有名でもあるのだが、そこには触れず「文明評論家」という肩書きのみが添えられていた。
マーカー利用選抜(MAS)技術の登場で、GM作物は時代遅れになり衰退するだろうという内容だが、MAS技術では種の壁は超えられない。GMにもMASにも各々長所と短所がある。各々を必要や条件に応じて生かして使い、選択肢が増えることは良いことだとは考えられないのか。一部の有機農業グループにも見られることだが、他の技術を誹謗中傷したり、技術を短絡的・対立的にしか捉えられなかったりすることこそが時代遅れなのであり、もう卒業すべき時だろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)