GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
毎年お盆の前後は荒れるというのが、GMOワールドの関係者間では定説になっているが、今年も米国で事故勃発である。USDA(米国農務省)とFDA(食品医薬品局)は、食品および環境に懸念はないが、市販されているコメ(長粒種)のサンプルにドイツBayer CropScience社の未承認GM品種が微量混入していたのを確認したと発表した。
米国内メディアはこぞってこの事故を報道しているが、下記のリリースからリンクされているUSDAの公式ステートメントとファクトシートを見てみよう。
参照記事1
TITLE: Statement by Agriculture Secretary Mike Johanns Regarding Genetically Engineered Rice
SOURCE: USDA
DATE: August 18, 2006
問題となっているGMコメ品種は、除草剤Liberty Linkに耐性を持たせたLLRICE601であり、1998年から2001年にかけて試験栽培が行われていたという。現在この開発ラインを所有するBayer CropScience社は、商品化の予定がないため、安全性確認申請はなされていない。
ところが、Bayer CropScience社により行われた商業化されているコメのサンプリング検査で、アーカンソー州とミズーリ州においてLLRICE601の微量混入が明らかになったため、同社は06年7月31日、規制当局にこの事実を報告した。USDA-APHIS(動植物検疫庁)とFDAは、利用可能な科学的データを再検討した結果、このGMコメはヒトの健康、食品・飼料安全性、環境安全性のいずれにも問題はないと結論したという。
この根拠となっているのは、同じラインに属するLLRICE62とLLRICE06が、これらも商業化はされていないが安全性評価済みであること、LLRICE601の組み換えDNAが発現するたんぱく質は、既に大量に流通している他の除草剤耐性作物と同一であり、EU、日本、メキシコ、米国およびカナダを含む諸外国において既に安全性が確認されているという点だ。
違反の有無については現在政府が調査中、LLRICE601の安全性確認も後追いで検討されている模様である。Bayer CropScience社は同社のリリースで、政府への全面協力と民間企業のためにLLRICE601検査法を準備するために複数のコマーシャルラボを支援していることを明らかにした。
原因は究明を待たなければならないが、05年3月のSyngenta社GMトウモロコシBt10事故と同じような経緯と展開である。しかし、純食料作物であるコメであるだけに輸出先国への影響を懸念して、米国政府もかなり慌てている様子が伺える。
既に、わが国厚生労働省は8月19日、米国産のコメ(長粒種のみ、中・短粒種は除く)の輸入を禁止した(06.8.19.朝日新聞、日本経済新聞など)。一方、韓国は農林省長官が、LLRICE601は輸入されていないというコメントを出すより穏やかな対応に留めている(06.8.20. The Korea Times)。
USDAによれば、米国のコメは100品種に達するがそのうち約半分が輸出され、その80%は長粒種である。米国は、世界のコメ貿易でタイ、ベトナム、中国に続く第4位に位置し全体の12%を占め、価格的には総額18億8000ドルと試算されている。せっかく解決の兆しが見えるビーフの次がライスでは米国も頭が痛い。
しかし、00年9月のStarLink事故の教訓は生かされているのか? というのも、LLRICE601が耐性を持つ除草剤は、StarLink事故を起こした旧ドイツAventis社の製品だからだ。Bayer社は、Aventis社を04年春に買収しているが、同じような過ちを繰り返したのであれば責任は重い。
荒れるお盆のGMOワールドでは、06年8月10日、オレゴン州において米国Scotts社が試験栽培していた除草剤耐性GMベントシバが付近の雑草と交雑しているのが、EPA(環境保護局)の調査により明らかになったばかりだ(06.08.11.Nature誌など)。
同日、ハワイ州でも連邦地裁が、製薬用GM植物栽培に違法判決を出している。開発メーカー群と01年から03年にかけてハワイ各地で製薬用トウモロコシやサトウキビの栽培を認めたUSDAを、EPA所管の「絶滅の危機に瀕する種の保存に関する法律(Endangered Species Act:ESA)」違反と判断したものだ(06.08.15.Reuters紙など)。
規制を短絡的に強化するのか、実リスクに応じた規制方法に改めていくのかは、大きく意見の分かれるところだろうが、開発メーカーによる同じような違反がこれだけ続くと、なんらかの善後策は、やはり必要となってくるだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)