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GMOワールド

時期は悪いが〜BASF社のGMジャガイモ英国で試験栽培を申請

宗谷 敏

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 案の定、大騒ぎになっている米国におけるドイツBayer CropScience社の未承認GMコメ混入問題を横目に、英国ではドイツBASF Plant Science社が耐病性GMジャガイモの試験栽培を申請し、こちらも英国内に波紋を投げている。英国内でのGM作物試験栽培は、政府が実施したFSEs(農場規模評価)以後の2003年以来、一切行われていないからだ。

参照記事1
TITLE: GM firm plans potato trials in Britain
SOURCE: Guardian
DATE: Aug. 23, 2006

 引用記事はGuardianだが、そのほか各紙報道を総合するとBASF Plant Science社は、このGMジャガイモの試験栽培を2007年春から4年がかりで行い、実用化は10年ほど先という長期プロジェクトに着手した。

 BASF Plant Science社のGMジャガイモは、菌により引き起こされるジャガイモ疫病(potato late blight)に抵抗性を持つ。メキシコにおいてジャガイモの近縁種から発見されたジャガイモ疫病に抵抗性のある遺伝子が組み込まれているという。

 ジャガイモ疫病は、1845年アイルランドのジャガイモ生産に壊滅的打撃を与え、チフスの流行も重なった結果、以後数年間で100人以上が餓死に追い込まれたと言われるジャガイモ飢饉(The Great Famine)の原因となったやっかいな病気である。

 BASF Plant Science社によれば、近年の英国においてもジャガイモ生産の5〜10%がジャガイモ疫病により失われ、被害額は年間5000万ポンド(7400万ユーロ)、さらにジャガイモ疫病対策で12〜15回散布される殺菌剤のコストが年間2000万ポンド(3000万ユーロ)かかる。世界中でのジャガイモ疫病被害総額も年間20億ポンド(30億ユーロ)に達する。

 2006年8月23日、環境・食品・農村地域省:DEFRA(Department for Environment, Food and Rural Affairs)に提出された試験栽培計画では、栽培される土地はケンブリッジシャーの国立農業植物学研究所(NIAB : The National Institute of Agricultural Botany)とダービーシャーの圃場の2カ所である。

 NIABでは、試験区域の周囲を2〜6mの休耕地で囲み、ほかの作物からは20m以上離す計画だ。トレイトは様々だが、GMジャガイモの試験栽培は、既にスウェーデン、ドイツおよびオランダで行われている。

 実は、ジャガイモ疫病で歴史的被害をこうむったアイルランドでも、BASF Plant Science社はこのジャガイモ疫病抵抗性GMジャガイモの試験栽培を申請した。しかし、環境省などの実施規制があまりに厳しすぎるとして、今年5月にこの計画を断念したばかりだ。

参照記事2
TITLE: BASF Drops Plan to Test GM Potatoes in Ireland
SOURCE: Reuters
DATE: May 25, 2006

 英国でも、早くも警戒感をあらわにしているFriends of the EarthやGreenpeaceなどの環境保護団体、有機農業の牙城である土壌協会など、GMに徹底抵抗する勢力は根強い。この試験栽培が認可されるとしても、紆余曲折を経ることが予想される。

 BASF Plant Science社についてはGMOワールドにも以前書いたが、プラントバイオへの参入は決して早くはなかった。しかし、ドイツ企業らしい着実さと粘り強さはなかなかのものだし、目の付け所もシャープだと筆者は思う。対干魃性コムギや、先々週触れたオメガ-3系油脂植物開発もそうだが、2006年8月23日付のフラボノイド強化GMトマトも注目される。

参照記事3
TITLE: Flavonoid-rich GM tomatoes could boost heart health
SOURCE: Food Navigator
DATE: Aug. 23, 2006

 このGMトマトは、TNO(オランダ応用科学研究機構)やドイツとオランダの2つの大学との共同開発であるが、マウスを使った実験で、体内で炎症や組織破壊が起きている時に増えるC反応性たんぱく(CRP: C-reactive protein)が減少したという。GMトマトの潜在的効果については予備実験的段階のようだが、ヒトの心臓疾患などを減らす可能性もあるという。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)