GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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2006年2月28日、農林水産政策研究所の定例研究会において主任研究官立川雅司氏の「アメリカにおけるGMO関連政策をめぐる最近の動向?規制、援助、地方政府」という講演 が行われた。この中で言及されている米国の連邦政府、州政府、地方自治体のGMO規制を巡る「ねじれ現象」は、筆者も一度整理しておきたいと考えていたので、これを機会にまとめておく。
地方がGMO栽培禁止やGM食品表示を勝手に決めてしまわないように、これらを連邦政府レベルで統制してしまおうという究極の頂上作戦が、H.R. 4167と呼ばれる「食品法令の国家統一」法案である。連邦下院におけるこの法案審議は3月2日に予定されていたが、1週間延期された。下院は通っても上院は無理だという予想もあるが、先行きは不透明だ。
参照記事1
TITLE: House Delays Vote on Anti-Consumer Bill; ’National Unity for Food Act’ Would Kill Strict State Food Safety Labeling Laws
SOURCE: U.S. Newswire
DATE: March 2, 2006
以下、具体的にねじれを起こしている地方毎に、争点などを簡単に紹介する。
カリフォルニア州:既に3つの郡と2つの町が住民投票または地方行政措置によりGMO栽培禁止などを決議しているカリフォルニア州では、04年11月8日ソノマ郡においてGMO栽培10年禁止令(Measure M)に関する住民投票が行われた。投票率69.64%の結果は55%対45%でMeasure Mは否決された。
「カリフォルニア現象」と呼ばれるこうした地方の動きを規制する州法1056が、同州上院で準備されている。このような優越規制が導入もしくは準備されている州は、ペンシルベニア、アイオワ、ジョージア、ノースダコタ、サウスダコタ、アリゾナ、アイダホ、オクラホマ、テキサス、カンサス、インディアナ、オハイオ、ミシガンなど19に達する(立川氏)という。
オレゴン州:カリフォルニア州と共に、地方の乱の草分け的存在がオレゴン州だ。70%以上の大差をもって否決されたが、02年11月にはGM食品義務表示に係わる住民投票が実施された。05年8月、上院で討議され結局成立を見送られた法案570は、米国で初のバイオファーミング(製薬植物バイオ)の4年間禁止を謳う。今年に入っても、知事への諮問機関であるバイオファーミング特別委員会による、州内バイオファーミングの可否に関するレビューが継続している。
バーモント州:ここも激しい紛争地帯である。厳格に実施はされていないようだが、04年4月には州法によりGM食品に表示を課した。次いで、04年からGM作物の交雑などで被害を蒙った農家への弁済を、GM農家ではなく開発メーカー・特許権者に行わせようとする画期的な農民保護法令が、両院で審議されてきた。
この法案は、紆余曲折を経たが既に両院を通過している。しかし、上院が厳格な賠償責任の所在を求めたのに対し、下院では運用に修正が加えられいわゆる骨抜きにされた結果、両院代表者による調整の話し合いが現在も進行中である。
ハワイ州:GM規制を巡り、今もっとも熱い州の一つがハワイだ。3月2日、州議会上院の委員会は、GMが行われる可能性が高い二大産品、タロイモとコーヒーについて2011年までの試験栽培モラトリアムを決議した。野外圃場での試験栽培を禁ずるが、温室は対象外となる。
囲い込みが容易な島という地理条件から、製薬GM植物の栽培は全部ハワイに持っていこうという議論も一時なされた。自州への経済効果を当て込んだ中西部諸州の反対でこれは放念されたが、これ以来ハワイのGM反対派は警戒を強めている。
ニューヨーク州:ニューヨーク州議会は、GMおよびGMを含む全ての播種用種子に対し表示を求める法案を審議している。
メイン州:ブルックリン町では、町をGMフリーゾーンにする住民投票に向けた動きがある。GMフリーゾーン宣言は、4月2日開催される町民大会に付託される模様だ。
アラスカ州:上・下院を通過し、05年8月州知事が署名した上院法案25は、GMサカナ(主な対象はサケ)と貝を含む全食品に表示義務を課す州法である。現状、対象となる商品が皆無(FDAはGMサカナの商業化申請を長らく認めていない)ではあるが・・・。
以上、紛争地帯を駆け足で見てきたが、冒頭のH.R. 4167はこれらすべてを灰燼に帰す潜在力を秘めた核兵器並みに強力な地方行政規制法であり、今後の推移が注目される。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)