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世界に広がるバイテク作物の輪〜ミネソタ大学レポート

宗谷 敏

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 世界のバイテク作物の栽培状況研究については、毎年継続的に観測結果を発表している国際アグリバイオ事業団(ISAAA)が有名だが、米国ミネソタ大学の国際食糧・農業政策センターからも、「植物バイオテクノロジーの世界的な普及–2004年の国際的商業化と研究開発」と題された研究報告書が公表された。

参照記事1
TITLE: Plant Biotechnology Has Gone Global With Research and Production Underway in 63 Countries
SOURCE: Council for Biotechnology Information
DATE: Dec. 8, 2004

 03-04年度にバイテク作物を商業栽培した国は18カ国あり、うち上位5カ国が全栽培面積67.5百万ha(ヘクタール)中の98%、商品価格ベースでも全440億ドル中の439億ドルを占めている。
 それら5カ国の内訳は(1)米国(トウモロコシ、ワタ、ナタネ、ダイズ、パパイヤ、タバ)コなど42.8百万ha=63%、275億ドル)(2)アルゼンチン(ダイズ、トウモロコシ13.9百万ha=21%、89億ドル)(3)カナダ(ナタネ、トウモロコシ、ダイズ4.4百万ha=6%、20億ドル)(4)ブラジル(ダイズ3.0百万ha=4%、16億ドル)(5)中国(ワタ2.8百万ha=4%、39億ドル)となっている。
 残りの13カ国はトウモロコシ、ダイズ、ワタなどの合計で0.6百万ha=2%、1億ドルを分け合うが、それらの内訳は(1)南アフリカ(トウモロコシ、ダイズ、ワタ40万ha)(2)コロンビア(ワタ5000ha)(3)ホンジュラス(トウモロコ1000ha以下)(4)メキシコ(ダイズ、ワタ少量)(5)ウルグアイ(ダイズ6万ha及びトウモロコシ)(6)オーストラリア(ワタ10万ha)(7)フィリピン(トウモロコシ2万ha)(8)インド(ワタ10万ha) (9)インドネシア(ワタ面積未確認)(10)ルーマニア(ダイズ7万ha)(11)スペイン(トウモロコシ3.2万ha)(12)ブルガリア(トウモロコシ数千エーカー)(13)ドイツ(トウモロコシ少量)となる。
 実は、この報告書のスポンサーは、米国におけるバイテク企業が中心の連合体であるCBI(Council for Biotechnology Information)である。しかし、上記データの根拠は、ISAAA、国連FAOおよび米国USDAなどによるものであり、突っ込めるような部分や要素はない。ちなみにこの論文に引用されているデータは、これ以外にも極めて充実しているので、興味のある方は是非原文も参照して頂きたい。
 では、将来展望に関してはどうか?なんらかのバイテク作物について研究開発が行われている国は、既に現在63カ国に達する。内訳は、アフリカ・中東6、アジア・太平洋12、ラテンアメリカ15、西ヨーロッパ15、東ヨーロッパ13および北米2である。
 ミネソタ大学の論文執筆者の予測では、今後10年間およびそれ以後も、植物バイテクの商業的可能性は増大し続け、10年後の商品価格2100億ドルに達するだろうと見積もられている。発展途上国がバイテク作物を商業化すると、それら途上国のGDPを2%押し上げる可能性も指摘されている。
 今後、これらの拡大に推進的役割を担うと目されているのは、アジア、ラテンアメリカ及び一部アフリカ諸国だ。研究開発に熱心に投資している諸国としては、中国、南アフリカ、インド、アルゼンチン及びブラジルなどが上げられている。
 GMコメの商業化が間近であると最近メディアを賑わせた中国は、農業省関係者からあと2年以上はかかるであろうという否定的見解が示された(04.12.2. China Dailyなど)。ただし、この国はあらゆる局面で常にワイルドカードなので、この種の将来予測はほとんど不可能である。しかしながら、ミネソタ大レポートでは、巨額な研究開発投資から推測し、今後10年で作物の半分がバイテク化されるかもしれないというシナリオも提示されている。
参照記事2
TITLE: Half of China crops may be biotech by 2014
SOURCE: Reuters by Randy Fabi
DATE: Dec. 9, 2004
 バイテク作物拡大の否定的要素は、やはりEUにある。EU諸国がかたくななGM食品忌避の姿勢を貫き、表示やトレーサビリティなど厳しい規制を課すなら、EU向けに農産物を輸出する諸国はバイテク作物導入に逡巡するかもしれない。しかし、WTOパネルを睨んでのモラトリアム解除に向けた欧州委員会の一連の動きは、この圧力を弱めつつあることもまた間違えないところだろう。
 とするならば、このレポート執筆者の「EUの姿勢は世界中の他国のバイテク作物導入を妨げることはできない」「仮にEUがこの分野での活動を制限し続けるならバイテクのグローバル化は遅れるだろうが、それを止めることはできない。一方、EUが植物バイテクに参入するなら国際的な拡散と商業化は更に加速するだろう」というコメントは説得力を持つ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)