GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
10月25日付け拙稿で触れた北米自由貿易協定(NAFTA:North American Free Trade Agreement)環境保護委員会(CEC:the Commission for Environmental Cooperation) のメキシコにおける野生種トウモロコシへのGM遺伝子のジーンフロー調査報告書が、11月8日ようやく公表された。
多面体の一面のみを強調したような報道も多かったが、下記の記述では生物多様性関連、ジーンフロー関連及び社会経済関連の3つのテーマ別に問題点および結論がよく整理されていると感じられた。
参照記事1
TITLE: Report on the effects of genetically modified maize in Mexico
SOURCE: checkbiotech.org
DATE: Nov. 9, 2004
簡単に要約してしまえば、「原因は特定できないが米国からの輸入と推測されるGMトウモロコシの成育が既に一部に認められる。しかし、それらの環境リスクはハイブリッドのような非組み換えの改良品種以上でも以下でもなく、GMトウモロコシがメキシコ土着のトウモロコシや近縁種に対し優占化を起こしたり、絶滅させたりする可能性も現在のところ高くはない」
「しかし、GMトウモロコシが輸入され続け、意図的・非意図的な栽培が続くならば、将来的にそれらのリスクは増大するから、GMトウモロコシ種子の輸入を制限し、より厳しく統制管理すべきである」というものである。報告書の表現には細心の注意が払われており、生物多様性、ジーンフロー問題についても、バランスの取れた科学的な内容だと評価できよう。
ところが同日、米国政府はこの報告書に猛然と噛みついた。EPA(環境保護局)とUSTR(米国通商代表部)が「この報告は基本的に欠陥があり、非科学的だ」とする共同リリースを発表した。CECは報告の前段で「影響はない」としながら、後段で「輸入規制を勧告」するのは矛盾しているのではないか、という過激な主張である。
参照記事2
TITLE: U.S. Says NAFTA Report on Genetically Modified Corn is “Flawed”
SOURCE: USINFO
DATE: Nov. 8, 2004
報告書の勧告には、輸入時にGMトウモロコシ(不分別)の表示を行ったり、発芽を避けるために粉に挽いたりすることを推奨する記述がある。どうやら、ここらあたりが米国政府や関連業界の逆鱗に触れたらしい。そんなことをすれば、GMトウモロコシに対する懸念を増幅するし、コストアップにつながるというのだ。
米国の本音を推測すれば、EUのモラトリアムもトウモロコシから解除されており、アジア・アフリカへのGM売り込みの先兵もトウモロコシである。アフリカの一部国家が援助物資のGMトウモロコシを拒否したために、国連が粉に挽いた先例はあるが、隣の国からそんなことを要求されてはたまらない。だいたい食糧・飼料として輸入したGMトウモロコシを安いからと勝手に播いたのはメキシコの農家ではないか、管理はそっちの国内でしっかりやれ、といったところだろう。
米国政府のリリースが国務省USINFOのEconomic Issuesに揚げられていることは象徴的だが、もはや環境論争というよりむしろ経済戦争である。傍目八目というか、英国のBBCがそのあたりを分析している。10年前成立したNAFTAであるが、農業補助金に守られた安価な米国産トウモロコシがメキシコに洪水的に流入(最近では年間約600万トン)した。メキシコ政府は、輸入関税などのセーフガード措置も発動せずに手をこまねいてきた。
参照記事3
TITLE: US maize ’threat’ to Mexico farms
SOURCE: BBC
DATE: Nov. 13, 2004
結果的に安価にトウモロコシを入手できたメキシコの都市に住む国民も、また米国農業補助金の受益者である、という事実も間違いではない。しかしその一方で、地方の小農業者は苦しんでいる。ひるがえってみれば、最近の我が国政府もあちこちとのFTA(自由貿易協定)締結にことのほか熱心である。もちろんメリットが多いことも認めるが、こと農業・農産品分野に関しては慎重熟慮が求められよう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)