GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
先週のGMOワールドはクアラルンプールを中心に回った。豊かな緑に囲まれたマレーシアの首都においては、生物多様性条約第7回締約国会議に引き続き2月23日から27日まで、約90カ国が参加してカルタヘナ議定書第1回締約国会議(COP-MOP/1)が開催された。
ところで、GMOに関する食品安全性議論に比べると環境安全面の話題は一般消費者の関心をあまり引かないためか、国内メディアの扱いも地味である。カルタヘナ議定書についても日本の社会では依然マニアックな扱いであり、正確に理解するための情報も乏しい。
そのような環境で、去る2月18日環境省が立ち上げた日本バイオセーフティクリアリングハウス(J-BCH)は、唯一まとまった情報が日本語で得られる貴重な情報源である。フレームなど本家BCHを真似たのかもしれないが、一般にごちゃごちゃした行政の情報提供サイトの中ではスッキリしていて見易い。
日本バイオセーフティクリアリングハウス(J-BCH)
Pilot Phase of the Biosafety Cleaning-House
ただし、議定書自体の国際的内容解釈・吟味に先立ち、大慌てで省庁間の縄張りを決めるために役所用語で難解な作文を積み上げた感もある国内法「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」は、何度か突っ返したと噂される内閣府法制局ならずとも、読んでいて頭が痛くなり、もう少しなんとかならなかったのかと思うのだが。
さて、Now back to Kuala Lumpur。締約国会議におけるいくつかの議題の中で、注目されたのはやはり議定書の第18条(遺伝子組換え生物等の)「取扱、輸送、包装、表示」に関する詳細な要件の検討である。
この18条第2項(a)「食料若しくは飼料として直接利用し又は加工することを目的とする改変された生物(FFPいわゆるコモディティ)に添付する文書」に何を、どこまで記載させるのか、文書の型式をどうするのかという点がキモであった。
例によって、記載内容は出来るだけ簡素にしたい米国など輸出国グループと、詳細に書かせたいEUや途上国グループとの論争である。書面は、現在輸出入貿易に一般に用いられている商用インボイスに追加記載するだけでよいという案と専用文書を添付すべきだ派に割れる。
ガチンコでこの問題を戦わせれば、徹夜はもとより一週間の会期で終わる訳がない。事務局は面倒な詳細要件はワーキンググループに先送りする玉虫色の議長案を用意し、その採択のみで乗り切ろうという作戦に出たが・・・やはり、モメた。
参照記事
TITLE:Victory over US claimed as rules agreed on GM export
SOURCE:AFP
DATE: Feb. 27, 2004
EUや途上国グループは、18条第2項(a)に係わるドラフト文書の修正を要求しこれが容れられた結果、輸出入業者はコモディティに含まれる可能性のあるGMOのユニークアイデンティフィケーションコードとともに通称、科学名、商品名などを記載しなくてはならなくなった模様である。
EUも表示制度実施の切り札と考えているユニークアイデンティフィケーションコードとは、OECDのGMOデータベースで個々のGMOに与えられているコードである。このデータベースはたしかによくまとまっているが、注記されているように「商業化されているすべてのGMOを含んでいる訳ではなく、記載されているすべてのGMOが商業化されている訳でもない」のである。
米国の表示なんぞ不要論と、グリーンピースなどの含まれるGMOを全部特定しろという主張は差し違えの両極端だから当然落とし所にはならない。しかしこのような状況下で、米国が表明している実行可能性への疑問は、負け犬の遠吠えというよりもっともな懸念であると言えよう。
いくら議論で勝っても、発展度合もまちまちの各国が揃って実行できなければ形骸化したお題目だけの制度になるだろう。穀物貿易を不必要に阻害することなく、一方でカルタヘナ議定書の実を上げるためには、BCHの情報や機能の充実と各国に対する信頼性や権威の構築が鍵になるのではないかと筆者は考えている。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)