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GMOワールド

「なんだ、またかよ」と「そうだろうな、やっぱり」

宗谷 敏

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 先週のGMOワールドは、EUの「なんだ、またかよ」と、英国の「そうだろうな、やっぱり」に尽きる。EU規定委員会は2月18日、GMトウモロコシの輸入認可にまたもや失敗し、英国政府は2月19日GM作物(トウモロコシ)の国内商業栽培を認める方向であると英国のメディアが報じた。

 まずEUの「なんだ、またかよ」であるが、昨年12月4日欧州食品安全機関(EFSA: European Food Safety Authority)の安全性評価を終えているモンサント社の除草剤耐性トウモロコシ(NK603)の輸入承認についてである。

 NK603のEU域内への輸入認可について検討してきたGMOの環境放出に関する規定委員会(環境理事会付属組織)は、QMV(特定多重多数決、詳細は03年12月15日付拙稿を参照)に基づく賛成に必要な票数(62)を得られなかった。

参照記事
TITLE:EDivided EU Fails to Lift Biotech Crop Ban
SOURCE:AP
DATE: Feb. 18, 2004

 これで、昨年12月8日のシンジェンタ社の害虫抵抗性GMトウモロコシ(Bt-11)の輸入承認失敗に続き、モラトリアム解除に向けた欧州委員会の指令2901/18/EC(02年10月17日)に基づく2度目のトライアルも一時的に挫折したことになる。今後は、Bt-11のケースと同様本件も欧州委員会から閣僚理事会へ送られ、そこで3カ月以内に結論が得られなければ、欧州委員会が最終的判断を下す。

 Bt-11とNK603とでは、かたやスイスベースのシンジェンタ社の食用スィートコーン、こなた米国フラッグのモンサント社の飼料用トウモロコシという相違がある。様々な思惑が複雑に交錯したであろうこの2つのアプリケーションに対するEU 15カ国のポジションを比べてみよう。

 先ず賛成国はBt-11の6カ国(QMV 33、以下同じ)からNK603の9カ国(53)へと増加している。Bt-11に賛成票を投じたフィンランド、アイルランド、オランダ、スペイン、スウェーデン及び英国の6カ国は、NK603にも賛成を与えている。

 Bt-11を否決した6カ国(29)から、NK603ではフランスとポルトガルが賛成に回り、反対はオーストリア、デンマーク、ギリシャ、ルクセンブルグの4カ国がポジションを変えず、棄権から反対に転じたイタリアを加えた5カ国(24)となった。

 Bt-11で棄権に回ったベルギー、イタリア及びドイツの3カ国(29)は、NK603ではベルギーが賛成、イタリアが反対、ドイツ1国(10)のみが棄権を継続と三者三様に分裂した。

 99年6月の環境大臣会議でGMモラトリアムを強く主張したのはフランスとギリシャである。そして、直ちにこれを支持したのがデンマーク、イタリア及びルクセンブルグ。後からオーストリアとベルギーがこれに合流した。

 このグループのQMV合計は全87中39を占めるため、可決に62を必要とされる現在の特定加重多数決制度では、この7カ国のいずれかがスタンスを変えない限り欧州委員会のモラトリアム解除に向けての提案はことごとく跳ね返される。

 今回の2つのアプリケーションに対する各国の心模様の分析は筆者の手に余るが、フランスとドイツについていささか粗雑な考察をめぐらせてみたい。

 反対から賛成に回ったフランスは、合理主義のお国柄でもある。4月からGM食品・飼料への表示と自ら主張し続けてきたトレーサビリティが施行される公算が確実になり、モラトリアム解除のために要求してきた当面の条件は満たされた。それに実は、GMトウモロコシの栽培試験も結構熱心に行なってきた。食用は抵抗感が強いが、飼料用ならまあ、いいかと考えても不思議ではないだろう。

 棄権を貫くドイツに関しては、EUでも技術に対して最も懐疑的な国の1つという見方もある。しかし、むしろ科学技術への信頼性は高く、故に完全性や厳密さを求めるのではないかと筆者は思う。2月11日に可決されたGMOの栽培・輸出のための法案で、風媒のリスクに対しゼロを求め、損害賠償まで規定しているのもその現れではないだろうか。

 さて英国の「そうだろうな、やっぱり」の方だが、事実関係としては「英ガーディアン紙の報道によると、英国政府は、遺伝子組み替え(GM)作物の商業生産について、認める方針を固めた。報道では、政府委員会報告書を引用しており、GMトウモロコシ生産の認可を来週にも発表する。GM作物の生産には、国民の反対意見が強い」というロイターの日本語報道がすべてだ。

参照記事
TITLE:GM crops to get go-ahead- Leaked papers reveal decision
SOURCE:Guardian
DATE: Feb. 19, 2004

 英国の一連のGMOに関連する動きを注視していれば、これは十分に予想できる帰結である。にもかかわらず英国国内メディアが競って後追い報道し沸騰したのは、これが流出した閣僚会議のメモを入手した「ガーディアン」のスクープであったためだ。

 この情報リークは、いわゆる観測気球として政府側から意図的に流された公算は大きい。GMに批判的であったために解任されたマイケル・ミーチャー前環境大臣も、世論の力を算定するために政府が公認して情報を漏洩したと信じると、ロイターに語っている。

 今週に入っても、英国メディアはこの話題やそこから発展したGMO関連報道で持ちきりである。それらを眺めていると「ガス抜き」という言葉がどうしても浮かんでくる。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)