GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
1月28日、欧州委員会がシンジェンタ社の害虫抵抗性GMスイートコーンのEUへの輸入販売を承認した件、及び1月22日発表された米国農務省(USDA)の遺伝子組み換え作物規制見直しをフォローした記事が、数の上で先週は目立った。
これらはGM食品・作物の食品安全性及び環境安全性にかかわる問題である。食品の安全性は既にヤマを越えており、今が旬の環境安全性もカルタヘナ議定書を求心的な原点として、リスクの程度に応じた規制の見直しや封じ込め技術の開発により着地点に向かいつつある。
そして、GMOを巡る論点は、知的財産権や特許に関連する問題に移行していくのではないか筆者は考えている。この関連から最近の報道を眺めてみると、まず1月20日カナダの最高裁で審理が開始されたパーシー・シュマイザー氏とモンサント社の係争(03年11月10日拙稿参照)が注目される。
さらに、南米におけるモンサント社のGMダイズ種子闇市場絡みでは、1月19日アルゼンチンでの同社によるGMダイズ種子の一時販売停止措置や、1月28日ブラジルのリオ・グランデ・ド・スル州が同社への特許権使用料支払いで合意に達した件なども目につく。
「GMOとその製造過程に知的財産権や特許が存在することにより、ラジカルな反バイテクNGOは企業の農業支配を憂慮し、多くのバイテク支持者たちも発展途上国の資源が乏しい農民が遺伝子革命のもたらす利益を享受できなくなるのではと懸念する。しかし、・・・」というのが以下の論説である。
参照記事
TITLE:GMO Patent Nonsense
SOURCE: By Gregory Conko, The Competitive Enterprise Institute
DATE: Jan. 27, 2004
「しかし、最初の3つのGM作物特許は、03年12月22日と今年1月16日に期限が切れた。そして今後数年のうちに、他の重要なバイテク特許の多くが期限切れを迎える。特許は単に一時的なものに過ぎない」。
「もちろん、まだ特許下にある技術でさえ発展途上国における生産的使用に提供されてきた。さらに自由・人道主義的免除により特許を有する技術使用を認められた公営の研究ラボが、世界中で発展途上国の農民のための産物を作っている」。
「例えば、ベータカロテンを強化したゴールデンライスの開発者たちは、試用段階で数人の異なる保有者からの70以上の特許に対する許可を必要とした。しかし、特許権所有者たちはゴールデンライスのために特許の免除を承認した」。
「ゴールデンライスの開発者の1人は、ゴールデンライスや他のバイオ強化作物が資源に恵まれない農民に届くのに時間がかかる理由は、特許ではなく『過剰なパラノイアに基づく規定による障害』だと語っている」。
「批判者たちが、資源に恵まれない農民の困窮を資本主義と知的財産権のせいにするのは容易なことである。このメッセージが多くの人々に効果的である理由は、特許について一般的に誤解が存在するからだ」。
「知的財産権の目的は、製品開発への投資者に財政的保護を提供したり、新技術の研究を奨励したりすることだと信じられているが、実はそれは主要なゴールではない。むしろ特許法の主要な目的は、新技術の知識が素早く公共の領域に導入されることが可能なように、情報の普及を奨励し続けてきた」。
「発明者は、特許の資格を得るために発明とそのプロセスを記述した書面を提出しなくてはならない。そして、特許期限が切れればその分野で技術を持つ誰もがその技術を複製することを可能にしている」。
「この『可能にしている開示』要件はすべての特許システムの根源であり、知的財産権保護と共に、それを妨げることなく公共の領域に新技術が行き渡る動きを速めたのである」。
以上が、米国の民間シンクタンクであるThe Competitive Enterprise Instituteに所属するグレゴリー・コンコ氏の特許に関する誤解を解こうと試みた論文の概要である。知的財産権や特許の話は、遺伝資源などさらに大枠になるとなかなか難しいトピックになるが、このコーナーでも今後折に触れて紹介していきたいと思う。
なお、1年前に開催された独行工業所有権総合情報館主催「国際特許流通セミナー」の「先端科学技術分野における知的戦略(2):バイオテクノロジー」というセッションで発表された特許庁審判部第23部門審判官加藤浩氏の講演資料は、よくまとまっているのでこの分野に興味のある方は一読されたい。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)