GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
ニュージーランドのGM生体(農産物及び家畜)に承認を与えるための試用試験に対する2年間のモラトリアムが、10月29日深夜をもって終了した。先週はこれを巡りおびただしい量の報道が流れたが、モラトリアムに至る背景から解除までの関連事項を、年代誌的に整理したのが次の記事である。
参照記事
TITLE:Event leading up to expiry of GE moratorium
SOURCE:Stuff
DATE: Oct. 30, 2003
これを見ていると、農業と共に牧畜業を基幹産業とするこの国らしくGM植物はもちろんだが、動物関連も多いことに気がつく。中でも、96年7月に世界初の体細胞クローンヒツジ「ドリー」を誕生させた研究に資金提供していた英国のベンチャー企業PPLセラピューティクス社に関するストーリーが目を引く。
同社は、医薬品であるα?1?アンチトリプシンを生成するためなどに、ヒトの遺伝子を組み込んだGMヒツジをニュージーランドに多数保有していた。また「ドリー」開発の目的も、新生児に必要なタンパク質α?ラクトアルブミンの安定的な供給を、より経済的に行うことだったという。
モラトリアム解除に反対するグループが、搾乳機をつけられた乳房を4つ持つ女性のヌードという超過激な立て看板を掲げたのには、このような背景がある。しかし、これらの件は食品からはちょっと離れてしまうので、興味のある方は下記の記事を参照願いたい。
参照記事
TITLE:End of moratorium too late for first GE farmer
SOURCE:Stuff
DATE: Oct. 30, 2003
参照記事
TITLE: Moms Battle Genetic Engineering
SOURCE: WIRED NEWS
DATE: Oct. 18, 2003
ところで10月31日、世界に冠たる米国FDA(食品医薬品局)が、体細胞クローン技術を用いた家畜の肉、乳製品などは、通常の食品と同様安全性に問題はないとする報告書をまとめた。販売する場合、クローンという表示も不要との見込みである。
02年8月、米国科学アカデミーがクローン家畜の食品にリスクは認められないとの報告書を出しているが、これまで安全性評価が不十分だとして、クローン家畜やその後代種の肉などの商品化には慎重だったFDAの今回の結論が与える影響は大きく、来年以降クローン家畜の商業化に向けた動きが加速するものと考えられる。
参照記事
TITLE: FDA says Cloned Animals Are Safe as Food
SOURCE: Washington Post, by Justin Gillis
DATE: 31 Oct. 2003
FDAの報告書に先立つ今年9月、動物バイオ関連では世界をリードし、常に話題を提供してきたPPLセラピューティクス社は経営に行き詰まり売却に出され、英国のメディアからは「先端科学をビジネスとすることの困難さ」(16 Sept.2003 The Times)と論評された。
「ドリー」については、世界初の体細胞クローンヒツジ誕生というリードだけが大きく世界を一人歩きした。しかし、合成困難で高価なα?ラクトアルブミンをミルクに含むヒツジを遺伝子組換え技術で作り、そのヒツジのコピーをクローン技術によって大量生産しようとした事業の研究課程で、「ドリー」が生まれたことはあまり報道されなかった。
クローンヒツジによって生み出されるミルクは、母乳を飲めない未熟児などに安価で安定的に供給されるはずであった。その後、「ドリー」は98年4月にメスのヒツジを正常に出産し生殖能力もあることを証明したが、03年2月に体調不良を理由に安楽死させられた。
PPLセラピューティクス社の旧経営陣は、どのような気持ちでFDA報告書のニュースを聞いたであろうか・・・(GMOウオッチャー 宗谷 敏)