科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

放射性物質とほうれん草〜検査結果はスポットではなく流れを見る

斎藤 勲

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 3月11日午後、東日本大震災が発生し、それに伴い東京電力福島第1原子力発電所での事故が立て続けに発生した。12日以降のマスコミ報道では震災の大被害とともに原発事故に関わる情報が緊迫感を持って伝えられている。当然のことだが、爆発による放射性物質が拡散し農産物、畜水産物を汚染している。かつて1986年のチェルノブイリ原発事故で日本が経験した輸入食品の暫定基準値370ベクレル/kgの比ではない汚染が起きている。

● 日本でのチェルノブイリ影響は、キノコに

 チェルノブイリの時は、近くの住民が大きな影響を受けたり、その結果と思われる小児の甲状腺がんの発生増加等が報道されたりした。放射性ヨウ素131→甲状腺被曝→小児の甲状腺がんという図式が皆の脳裏に焼き付けられた事故であったが、幸いにことにヨウ素131は早く消滅するため(半減期8日)、日本では問題とはならなかった。
 日本では同時に放出されたセシウム(134と137の合計、特に137は半減期30年と長い)の汚染が、ヨーロッパから輸入される食材のハーブ、月桂樹の葉、キノコなどから検出された。超過事例は1987,88年が主であったが近年でもキノコでは違反事例がある。長期的汚染ではキノコが問題となる。

● 国の公表している生データを分析してみた

 国内の福島原発影響に話を戻すと、最近は福島県産を除き農産物の基準超過事例は減少してきている。厚生労働省は都道府県等が公表した検査結果及び緊急時モニタリングの結果等を集約して、ウェブページで公表している。4月28日現在で2291件の検査結果が100ページに集計されており、水道水に関しては別途膨大な数が報告されている。基準値超過についてはコメントしてあるが他には何も触れていない、まさに生データである。どう使うかは皆さんの工夫次第ですよという感じである。

 そこで、この膨大なデータを使って小児の甲状腺がんを引き起こす可能性のあるヨウ素131について、半減期8日とはどんなものだろうかと調べてみることにした。農産物の汚染の主たるものは、3月15日頃放出されフォールアウトしたものだと考えると、当然ヨウ素の汚染放射線量は減ってくることになる。そういう結果が出てくるのか、最初に問題となった葉物の代表のほうれん草を取り上げてヨウ素の検出量とセシウムの検出量を比較してみた。

● 放射性ヨウ素のリスク低減は明白

ほうれん草中の放射性ヨウ素、セシウムの比率 当然のことながら、半減期8日のヨウ素と半減期30年と2年のセシウムを比べれば、分母(セシウム)はあまり変化しないので数値は減ってくるはずである。ほうれん草のデータを、暫定基準超過(ヨウ素、セシウム共又はいずれか)と100ベクレル/kg以上の値の物に分けて書き出した(あまり小さな値では参考にならないので、100ベクレル以上とした)。エクセルでその比率を時系列で集計した。それがこの図である。

 縦軸に比率の対数をとると良く分かるが、ヨウ素の比率が最初は数十倍高かったものが最近の基準超過事例では10分の1位まで、指数関数的に減少してきている。基準内の物でも全体的には右下がりであることは読み取れる。
 当初問題となったヨウ素131の問題はリスクとしてはかなり下がってきている。これからは土壌に吸着したセシウムの中でどのように農産物を育てていくか、暫定基準値と「検出せず」の間の商品をどれほど皆が許容できるか、長い戦いが始まるのである。しかし、対象が定まれば手立てはあるだろう。但し、もう原発は爆発しないというのが大前提だが。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。