虫愛でる爺
定年退職後も静岡県を中心に各地で害虫防除を指導している筆者が、虫の発生や生態、被害を受けた作物を見事にとらえた写真でつづる虫エッセイ
定年退職後も静岡県を中心に各地で害虫防除を指導している筆者が、虫の発生や生態、被害を受けた作物を見事にとらえた写真でつづる虫エッセイ
1941年静岡県生まれ。65~2001年、静岡県農業試験場、病害虫防除所などで農作物害虫の発生生態や防除法の研究に従事
自宅の草花や樹木に、毎年色々なアブラムシが発生します。新芽や新梢の生育を妨げるほか、アブラムシから出る大量の排泄物により、葉は汚れたり時にはすすが生じて黒くなったりします。この排泄物には花蜜と同様に糖分が含まれるので、甘露とも呼ばれています。
この甘露を求めてアリが集まることはよく知られているところですが、観察したところ、実に多種類の昆虫が集まってきます。夜間にはハスモンヨトウなどの蛾の成虫も見られます。それらを整理してみると、ちょっと興味あることがわかりました。
寄生蜂のアブラバチ、ヒラタアブ、テントウムシ、ジョウカイボン、クサカゲロウなどは、アブラムシを食べる天敵です。ヤドリバエ、アシナガバチ、スズメバチ、小さな寄生蜂は他の昆虫の天敵です。
カメムシ、タテハチョウ、夜間に来る蛾はいずれも植物(農作物)の害虫です。そのほか、天敵でもない害虫でもない多種類の昆虫たちもみられます。
アブラムシは、植物の生育に直接影響を与えたり、ウイルスを媒介します。排泄物にすすが発生して、葉や花が真っ黒に汚れたりして光合成を阻害します。農作物を栽培する上では、この上なく嫌われている害虫になっています。
ところが、自然界全体の中でアブラムシを見ると、アブラムシ自身は多くの昆虫の餌になり、排泄物は多種類の昆虫の栄養源になっているので、食物連鎖の重要な一員になっています。
故山下善平・三重大学名誉教授は「アブラムシは陸上のプランクトンだ」と称しましたが、現代の言葉で表現するなら、生物の多様性を底辺で支える昆虫と言えます。
本欄では、これまでアブラムシを害虫として扱ってきましたが、見方を変えると「アブラムシは全て害虫」と考えることは不適当のように思えます。
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1941年静岡県生まれ。65~2001年、静岡県農業試験場、病害虫防除所などで農作物害虫の発生生態や防除法の研究に従事
定年退職後も静岡県を中心に各地で害虫防除を指導している筆者が、虫の発生や生態、被害を受けた作物を見事にとらえた写真でつづる虫エッセイ