科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

池田 二三高

1941年静岡県生まれ。65~2001年、静岡県農業試験場、病害虫防除所などで農作物害虫の発生生態や防除法の研究に従事

虫愛でる爺

野菜のアブラムシは何処から来るのか?

池田 二三高

キーワード:

Brassica rapa

白菜の花が咲き出した圃場。向こう側には春キャベツが見える


Myzus persicae

白菜の開花直前の葉裏で大発生したモモアカアブラムシ


Lipaphis erysimi

白菜の莢で大発生中のニセダイコンアブラムシ


Brevicoryne brassicae

はね(翅)が生えたダイコンアブラムシの有翅成虫

 私の住んでいる静岡県では、今年の春の訪れは例年より遅れましたが、それでも4月に入ると収穫されずに畑に残されていた、色々な野菜の花が一斉に開花を始めました。白菜の花は黄色で開花も早いので、その菜の花にはミツバチやモンシロチョウ、ハエやアブも飛び交い、その後もその花が結実して熟した種子を求めて、小鳥たちが訪れました。あちこちで、一見のどかな春の風景が今年も野菜畑で見られました。

 しかし、未収穫の野菜は長期間無防除の状態に置かれていたと思われるので、低温に強いモモアカアブラムシやニセダイコンアブラムシは、白菜の開花時にはすでに葉裏でびっしりと増殖しています。硬い葉が好きなダイコンアブラムシは、キャベツの葉でわずかに越冬していますが、白菜やダイコンに移り、開花後に伸びて硬くなった莢で急速に増殖を始めます。

 アブラムシは大きなコロニーになると、ハネ(翅)の生えた有翅(ゆうし)虫が現れてきます。この有翅虫は、新しい作物を求めてそこから飛び出して行きます。写真の花の咲いた白菜の向こうには、これから収穫の春キャベツが見えます。当然そこへも移動して大発生をすることでしょうし、まもなく定植されるであろう、ナスやトマトなど夏野菜へも飛来して行くことが予想されます。

 その夏野菜も圃場に取り残されると、またアブラムシが大発生します。こうしてここの畑でも様々なアブラムシの発生が継続されて行きます。多種類の作物が栽培されている畑では、多種類のアブラムシが発生していると思われます。

 このように、圃場に残された作物があると、圃場全体でアブラムシを大量飼育していることになります。その他の害虫もほぼ同じでしょう。野菜を栽培した途端に多くのアブラムシの飛来にびっくりし、どこから来るのだろうと疑問を呈する方もいます。はるか向こうから風に乗って飛来することもありますが、発生源は直ぐ身近に存在しています。こうしたことから、農業指導者は、農作物の完全収穫、収穫残渣の処分、除草も含めて圃場環境の美化を徹底するよう指導しています。この作業は地味ですが、次作の作物作りでは基本技術です。

 私も家庭菜園の講師として招かれると、必ずもこのことを提案するのですが、いつも参加者から次の一言がありその対応に苦労します。「私は、トウがたってきた白菜はそのままにしておきます。蕾が出たら摘んで食べ、花が咲いたら切って食卓に飾ります。白菜は最後まで楽しめます」。次は何を栽培するのでしょうか。ここに、農業と家庭菜園の差があります。
(写真をクリックすると、大きな写真が見られます)

執筆者

池田 二三高

1941年静岡県生まれ。65~2001年、静岡県農業試験場、病害虫防除所などで農作物害虫の発生生態や防除法の研究に従事

虫愛でる爺

定年退職後も静岡県を中心に各地で害虫防除を指導している筆者が、虫の発生や生態、被害を受けた作物を見事にとらえた写真でつづる虫エッセイ