科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

メタボの道理

減塩は若いうちから始めるべき

佐藤 達夫

キーワード:

●食塩摂取量の理想は「一日3g(?)」

 前回、「血圧は低ければ低いほどいいというわけではなく、ほどほどがいい」と書いた。意外に思われるかもしれないが、血圧だけのことを考えると、低いよりも高いほうがいい。
 血圧が低いと肝心の体組織(たとえば脳など)に血液が運ばれず、すぐに“命に関わる”ことになる。逆に血圧が高くても、それだけで“命に関わる”ようなことは起こりにくい。長期間にわたって高血圧が続くと、血管に動脈硬化を生じ、その結果、血管が破れたり詰まったりして“命に関わる”ことになるのだ。メタボリックシンドロームの構成条件に血圧が入っているのは、「血圧が高い状態を長期間にわたって続けてはいけません」という意味だと理解すべきだ。

 血圧を上げる要因としては遺伝要因と環境要因の2つがある。遺伝要因のほうは自分ではどうにもならないので、環境要因とりわけ生活習慣について考えてみたい。

 血圧を上げる生活習慣として、食塩の過剰摂取、肥満、運動不足、カリウムの摂取不足、食物繊維の摂取不足、飲酒など、が指摘されている。最もよく知られているのが食塩の過剰摂取だろう。食塩摂取量を一日当たり3g以下にすれば、加齢に伴う血圧上昇は見られない。※1
 ただし、一日3gの食塩というのは「食材中に含まれている塩分」だけでイッパイになってしまうほど少ない量で、調味に使う塩分はない。それでは日本の食文化を壊すことになってしまうし、日本人の食生活が成り立たないので、厚生労働省はその点を考慮して、食塩摂取の目標量を「男性は一日9g未満、女性は7.5g未満」とした。※2

●生まれてから何gの食塩を摂取したか?

 日本人の食塩摂取量は『平成21年国民健康・栄養調査結果の概要』で見ると、男性が11.6g、女性が9.9g(いずれも一日当たり)だ。※3男女とも2g以上を減らさなければならないことになる。
 では実際には、一日2gの減塩をすると血圧はどのくらい下がるのだろうか?

 信頼できるデータによると、一日2gの減塩による血圧低下効果は約2mmHg程度である(30日間で、収縮期血圧133mmHg→131mmHg)。※4意外なほど少ない。定期的に血圧を測定している人ならわかるが、2mmHgなど“誤差の範囲”としか考えられない。
 そのわりに「一日2gの減塩」というのはかなり大変である。苦労が多い割には報われない、と感ずる人が多いかもしれない。

 そんな人の不安(?)に見事に答えてくれるのが、東京大学教授の佐々木敏氏だ。※5佐々木氏は、世界各国の食塩摂取量と血圧との関連を調べたデータから「一日当たり1gの食塩摂取で、血圧は1年間に0.058mmHg上昇する」ことを突き止めた。一日10gの食塩を摂取している人は、10年で約6mmHgだけ、血圧が上昇する。
 つまり、年をとると血圧が上がるのは自然な加齢現象ではなく、長年摂取し続けてきた食塩の影響によるということがわかる。

 減塩をするとすぐに血圧が低下するというわけではないが、低塩の生活を長い間心がけると、中高年以降になっても高血圧にならずにすむ確率が高くなるわけである。佐々木氏は「食塩摂取量は、一日何gに減らすかを気にするのではなく、生まれてからの合計で何gになったかが重要である」と指摘している。※6
 若いうちから低塩生活を心がけることが、将来の脳卒中や心筋梗塞などの致命的な病気の予防に役立つのだということを心得ておこう。

※1:Eastern Stroke Coronary Heart Disease Collaborative Research.Lancet、1998;352:1801-7

※2:「日本人の食事摂取基準」(2010年版)

※3:2009年国民健康・栄養調査結果の概要

※4: DASH trial.Sacks,et al.,N Engl J Med,2001;344:3-10

※5:東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻社会予防疫学分野 教授
※6:月刊『栄養と料理』第77巻第6号

執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

メタボの道理

生活習慣病を予防し、健康で長生きするための食生活情報を提供します。氾濫する「アヤシゲな健康情報」の見極めかたも