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執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

メタボの道理

肥満は“能力”である

佐藤 達夫

キーワード:

●ヒトは「食料保存能力」を極めた

 メタボリック・シンドローム(略してメタボ)を構成する最初の条件は「肥満であること」だ。今では、肥満が諸悪の根源であるかのように忌み嫌われているが、30~40年前までは太った大人は“恰幅のいい人”といってうらやましがられ、太った子どもは“健康優良児”とかわいがられたものだ。

 肥満こそ、豊かさの象徴であり、幸せの代名詞であった。いつ頃から肥満が悪者になったのであろうか。

 地球上に生命が誕生したのは(諸説あるが)10億年から6億年前だといわれている。私たち(生物学ではヒトという)が所属する【ほ乳類】が誕生したのは3億年前から2億年前らしい。長い年月をかけて、ヒトは進化・発展してきた。

 ヒトだけではなく、地球上のすべての動植物は、厳しい生存競争に勝ち抜いて、生き延びてきた。この間に、多くの生物が絶滅していった。絶滅を逃れて、現在、地球上に生存しているすべての生物は、それだけの能力を獲得してきた違いない。

 動物にとっては、絶滅から逃れるために必要な第一条件は「食料を確保する能力」である。

 食料を確保するために、ある動物は強靱な牙を持ち、ある動物はとてつもなく速く走る脚力を身につけた。他の動物が見向きもしない栄養価の低い植物を大量に食べることで生き延びてきた動物もあるだろうし、体躯を大きくすることでエネルギー効率を高めることに成功した動物もある。

 ヒトは、速く走る能力もなく、鋭い爪も牙も持たず、小さな体でしかないにもかかわらず、地球を支配するまでに発展し続けることができた。ヒトは、生き延びるために、他の動物よりも際だった「食料保存能力」を身につけたのだ。

●食べ物が豊富にあれば、必ず太る

 食料を保存する手段として最も単純な方法は「隠しておく」ことだろう。しかし、この方法では、他の動物に見つかって横取りされてしまう危険性もあるし、隠した場所を忘れてしまうという失敗もある。

 けっして他の動物に横取りされず、かつ、絶対に隠し場所を忘れてしまうことのない方法・・それは自分の体内に保存しておく方法だ。多くの動物はその方法を発達させてきた。ごくわずかでも食料を余分に入手できたときに、あるいは、それほどカロリーの高くない食料であっても、それを素早く体脂肪に変えて、自分の体内に保存する能力を高めることに成功した。

 億という長い年月をかけて、多くの動物は体脂肪を効率的に貯える能力、つまり肥満する能力を身につけた。その能力は現在も有効に機能している、皮肉にも、ヒト以外の動物においては・・・・。たった数十年という、動物の歴史から見たら“一瞬”としかいえないような短い年月の間に、ヒトだけに“計算外の事態”が発生した。

 それは「食べすぎて病気になってしまうほど食料が溢れる環境になる」ことだ。こんな事態は、他の動物に比較してはるかに知能が発達したヒトでさえも、想定しえなかったに違いない。そのため、ヒトには「太ることを予防する生理的メカニズム」はまだほとんど存在しない。

 私たちは“周囲に食料が豊富にある環境下で、無意識に(自然の欲求のママに)食事をすれば必ず太る”と、肝に銘ずるべきである。

執筆者

佐藤 達夫

食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員

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