メタボの道理
生活習慣病を予防し、健康で長生きするための食生活情報を提供します。氾濫する「アヤシゲな健康情報」の見極めかたも
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食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員
●“メタボ”と“デブ”の違い
ある調査によると(※)“メタボ”は、大人の4人に3人は知っている言葉なのだという。しかし、正確に知っている人は少なそうだ。
私の記憶では、メタボリックシンドローム、日本語に訳すと「代謝症候群」という言葉は、日本でも昭和60年くらいから専門家の間では使われていた。しかし、代謝という言葉の意味がよくわからないので、一般の人に広まることはなかった。
ところが10年ほど前に、日本の著名な肥満研究者がメタボリックシンドロームを「内臓脂肪症候群」と意訳してから、急速に一般の人たちの間に広まっていった。「代謝」ではイメージが湧かないが、「内臓脂肪」といわれれば何となくイメージはつかめる。
まもなくメタボリックシンドロームは“メタボ”と短く省略されて使われるようになった。よく「略されて使われるようになればホンモノ」だといわれるのだが、同時に略されて使われるようになると新たな誤解を生ずることになったり、差別の要因となったりすることが多い。メタボもその例外ではない。
メタボリックシンドロームの構成条件は2つある。1番目が、よく知られている「おへそ周りの腹囲が、男性で85cm以上・女性で90cm以上」であることだ。2つめが、それに加えて「軽い糖尿病、軽い高血圧症、軽い脂質異常症のうちの2つ以上を持っていること」だ。
この1と2の両方を兼ね備えていて初めて「立派なメタボリックシンドローム」なのだといえる。ところが、いわゆる“メタボ”は、1番目の腹囲だけに着目している場合が多い。おへそ周りの腹囲が基準をオーバーしているとそれだけで「アッ、メタボ!」などと言う人がある。それは明らかな間違いである。
腹囲が基準をオーバーしていても、軽い糖尿病や軽い高血圧症や軽い脂質異常症を2つ以上持っていない人はメタボではない。幸いにして、その人はただのデブだ。
●安産型はメタボになりやすい?
第1条件の腹囲に関しても、一部の専門家はある疑問を指摘している。それは、計測する位置が「おへそ周り」でいいのかどうか、という問題だ。自分で試してみればわかるが「おへそ周り」だと骨盤を含めた腹囲を計測することになる。これでは、内臓脂肪を正しく反映する腹囲にはならないのではないかということが指摘されているのだ。
とりわけ女性の場合では、骨盤を含めて計測すると、腹囲の値は骨盤の大きさによって大きく左右される。一言でいうと、安産型の女性はおへそ周りの腹囲は大きく出る。このため、腹囲の値が必ずしも「内臓脂肪の多少」を反映しない。多くの国では、メタボリックシンドロームの基準となる腹囲の計測位置は「へその位置よりも少し上(つまり骨盤の影響が出ない位置)」としてある。
メタボリックシンドロームの基準値は、5年ごとに見直しをすることになっている。今年がその5年目(最初の5年目)だ。このあたり(腹囲の計測位置)が見直されるのではないかと推測(期待)していたのだが、どうやらそうはならないようだ。
昨年2月に、厚生労働省研究班は「腹囲によって心筋梗塞や脳梗塞の発症リスクを明確に線引きすることはできない。さらなる研究が必要」という研究報告を発表した。しかし、その後の“さらなる研究”ともいえる保健指導への活用を前提としたメタボリック・シンドロームの診断・管理のエビデンス創出のための横断・縦断研究では、「メタボ健診は有効であり、腹囲径には科学的な裏付けがある」という報告が出ているからだ。
国際的な視点から、日本の“メタボ”の信頼性が落ちるようなことにならなければよいのだが・・・。
※平成22年1月、オムロンヘルスケア
食生活ジャーナリスト。女子栄養大学発行『栄養と料理』の編集を経て独立。日本ペンクラブ会員
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