知っておきたい食肉の話
世の中は空前の肉ブーム。でも生産や流通の現場はあまり知られていません。食肉一筋の畜産ライタ―が、お肉のイロハを伝えます
世の中は空前の肉ブーム。でも生産や流通の現場はあまり知られていません。食肉一筋の畜産ライタ―が、お肉のイロハを伝えます
食肉加工メーカー、養豚企業勤務、食肉・畜産関連の月刊誌等の記者を経て、現在はフリーの畜産ライター。
スーパーのハム・ソーセージ売り場でパッケージに「DLG金メダル」のロゴを貼った商品を手にしたことはないだろうか。通信販売やギフトのカタログでも「IFFA国際コンテストで金賞」と高品質をアピールするようなキャッチフレーズを見かける。DLGやIFFAとは何のことか、金メダルってどれほどのものか。
●100年以上前からドイツで行われている品質コンテスト
ハム・ソーセージの本場はヨーロッパである。特にドイツは食肉製品の種類が豊富でおいしいことは世界中の人が認める。それを支えている要因の一つがドイツと周辺の国で行われているハム・ソーセージの品質コンテストといえる。100年以上前から食肉加工技術者が腕前を競い、製品の品質レベルアップを目指して各地の食肉同業者組合を中心に実施されており、いまも連綿と続いている。
日本の食肉加工メーカーで初めてヨーロッパの品質コンテストでメダルを受賞したのは滝沢ハム(株)(本社:栃木県)だ。1976年オランダで開催された第21回国際SLAVAKTO(スラバクト)大会に4品を出展し、金メダル2個(ボンレスハムとジプシーサラミ)と銀メダル2個(生ハムとビーフパイ)を受賞した。これによって「ハムの金メダリスト」というキャッチコピーを使用開始しているが、以降、200を超える金メダルを受賞している。
以前はこのスラバクトほか、隔年で開かれる世界食品見本市である「ANUGA(アヌーガ)」(ドイツ・ケルン)や「SUFFA(ズーファ)」(ドイツ・シュトゥットガルト)の中で国際食肉加工品コンテストが行われていた。しかし、近年、日本のメーカーが出品できる欧州の国際食品品質コンテストはDLGとIFFA(イファ)の2つだけである。2011年の福島原発事故の影響や家畜伝染病の発生に伴い検疫が厳しくなったことから、今年の夏~秋にかけて本来ドイツで行われるこの2つのコンテストが特別に日本で行われた。
●今回で4回目DLG日本大会
一つはDLG(ドイツ農業協会:Deutsche Landwirtschafts-Gesellschaft)食品品質品評会で、10月5~7日の3日間にわたり神奈川県相模原市の麻布大学を会場に行われた。この「DLG」は、ドイツ農業協会が1891年より⾷品の品質基準の向上、農業や⾷品産業に品質基準の達成・維持・改善を促すことを⽬的に⾏われており、120年以上の歴史と権威のある⾷品品評会として評価されている。
ドイツでは毎年、⾁製品やハム、ソーセージ、パン、製菓、乳製品、惣菜、飲料など3万品目以上の製品が独自の⽅式に従い、最新の科学技術の情報を採り入れた審査基準に基づいて審査される。参加企業は出品した全製品を一つずつ評価され、高品質の製品には、⾦・銀・銅賞が授与される。受賞企業は、DLGメダルを通して製品の品質の⾼さを消費者に訴求することができる。EU加盟各国、とくにドイツでは広く一般消費者にも知られている。
日本大会は、前述のように原発事故により日本製品のドイツへの搬入手続きが煩雑になったため、SKWイーストアジア(株)(本社:東京都千代田区)が事務局となって特別に日本で実施することにした経緯がある。2012年に欧州以外では初めて開催して以降、2年に1回のペースで行われ、今回で4回目。初回はハム・ソーセージと肉惣菜が対象だったが、2回目からは製菓・ベーカリー、さらに今回からは乳製品部門も加わり、76社から過去最多となる586品目が出品された。
このうちハム・ソーセージ、肉惣菜部門の出品数は68社、560品目とほとんどを占める。大手・中堅の食肉加工メーカーも出品したが、大半は小規模な「手づくりソーセージ工房」。ドイツで修行を積んだ人が起業した工房、そこで学んだ人が独立した人、食肉店やレストランが業容拡大したものなどさまざまだが、ドイツ製法にこだわった製品が多い。
審査方法はドイツ本国と全く同じ。「DLG5点方式」と呼ばれる、ドイツ標準化庁によって認証された中立かつ公平な審査を保証する記述式の官能分析方式によって行われる。評価を行う審査員は、①審査員の試験を受けた有資格者であること、②定期的な官能トレーニングに参加していること、③対象分野(ハム・ソーセージ、製パン業界など)の業界で働いていることが必須条件となる。
審査員は、公平性の観点から銘柄が分からないようにする「ブラインドテスト方式」で製品を外観、内観、食感、風味、味の5項目について、項目毎に5点~0点で評価する。5点が最高品質となるが、この基準に満たない場合に減点され、すべての項目で5点を獲得した製品のみが金メダルを授与される決まり。
メダル受賞製品のパッケージにDLGのロゴを印刷するなどして品質の高さをアピールできるメリットがあるほか、評価の内容が出品社にフィードバックしてもらえるので品質管理に活用できる。自社製品がハム・ソーセージの本場であるドイツのスタンダードで評価されれば自分の製造技術のレベルを確認することができる、という意味もある。ちなみに前回(2016年)はハム・ソーセージ部門の出品(535品)の54%が金賞、30%が銀賞、14%が銅賞と、97%がいずれかの賞を受賞しており、日本の食肉加工技術の高さを示している。
●IFFAの品質コンテストは日本初の開催
もうひとつ、今年日本で開催されたのはIFFA。3年に一度、ドイツ・フランクフルトの見本市会場(Messe Frankfurt)で開催されるIFFA(ベーコン、ソーセージなどの加工品に特化した約130年続く食肉産業最大規模の食肉産業機械国際見本市)のメインイベントとして行われる品質コンテストだ。
今年は開催年だったが、日本国内でCSF(豚コレラ)が拡大。食肉加工品の輸出入が規制されたため、日本勢が出品できず、その救済措置として主催者であるDFV(ドイツ食肉連合会)が食肉加工機械を取り扱う(株)小野商事の協力によって日本で初めて「IFFAコンテスト」を開催することになった。
審査は8月27~30日の3日間、小野商事のテストルーム(千葉県市原市)で行われたが、審査員としてドイツから食肉マイスター8人が来日。1アイテムごとに外観・食感・風味・色味・味など120項目を厳しく審査した。DLGと同じように減点方式で採点し満点の場合に金賞、以下評価が高いものから銀、銅賞に選ばれ、メダルと証明書が贈られるほか、数多くの金メダルを受賞した出品者にはトロフィーが授与される。
メダル授賞式のために来日したEckhart Neun DFV副会長は日本の出品製品について「減塩など、日本人の好みに合わせた加工技術の高さに驚いた」と高く評価していた。
●金メダル累計1000個超えの出品者も
これまで欧州の国際食品品質コンテストで獲得した累計金メダル数が1000個に達したところもお目見えした。豚の育種から、精肉、ハム・ウインナーの製造・販売までを完全一貫体制で手がけ「豚のテーマパーク」を運営している(株)埼玉種畜牧場・サイボク(本社=埼玉県日高市)だ。
同社は1997年にオランダ「SLAVAKTO」ハム・ソーセージ部門に初出品して金メダル受賞を受賞したのを皮切りに、欧州の国際食品品質コンテストに23年連続して挑戦している。ハム・ソーセージに加え「調理食品」「デリカテッセン」「冷凍食品」「パン製品」など各部門でも金メダルを受賞している。2019年はDLG、IFFAとも出品した結果、23年間の累計で金メダル総数1000個以上の獲得(総受賞数:1521個、内訳:金メダル1045個、銀メダル349個、銅メダル127個)を達成。日本で初めての偉業といえる。
サイボクの笹﨑静雄社長は「素材や原料の味を生かすという日本の食文化をバックボーンに、世界に通用する商品を生み出してきた。今後、時代の流れに臨機応変に対応し、新たなニーズを創造していく必要がある。とくに高齢化社会に対応した商品づくりでは、世界に先んじたハム・ソーセージづくりが出来ると確信しており、取り組んでいきたい。種豚改良を含め、日本のお客様のために素晴らしい加工品を提供していく。1000個の金メダルは通過点であり、今後もレベル向上を図っていきたい」と語る。
DLG日本大会の運営で責任者を務めるSKWイーストアジア(株)のユルゲン・シュミットさんは「DLGは近年、日本でも高品質の証しとして認知されはじめている。このコンテストが出品者にとって、製品の差別化の役割を果たすことを期待している」という。
ただ、残念なことにDLGやIFFAに対する消費者の認知度はいまひとつ低い。出品・審査料や手続き等にそれなりのコストがかかる。受賞したからといってストレートに売り上げアップにつながるとは限らない。出品し続ける意義について、サイボクの笹﨑浩一専務取締役は「マーケティングのために参加しているわけではない。われわれのもの作りの方法、考え方、技術が正しいかどうかを確かめること。答え合わせのようなつもりで臨んでいる。われわれのもの作りに関して、特に品質へのこだわりが消費者に伝わればよい」と話す。
DLG、IFFAとも出品できるのは普段製造・販売している商品に限られる。メダル受賞商品が一定レベルの品質をクリアしている証しともいえる。商品選びの一つの目安にはなりそうだ。
食肉加工メーカー、養豚企業勤務、食肉・畜産関連の月刊誌等の記者を経て、現在はフリーの畜産ライター。
世の中は空前の肉ブーム。でも生産や流通の現場はあまり知られていません。食肉一筋の畜産ライタ―が、お肉のイロハを伝えます