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執筆者

近田 康二

食肉加工メーカー、養豚企業勤務、食肉・畜産関連の月刊誌等の記者を経て、現在はフリーの畜産ライター。

知っておきたい食肉の話

食肉の世界で起きていること① 「A5ステーキ」とは?

近田 康二

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ここ数年、肉にまつわる新しい言葉が次々と登場している。たとえば、肉フェス、肉バル、肉食女子、ドライエージングビーフ、ひとり焼肉、稀少部位、サラダチキン・・・…等々。

外食では「いきなりステーキ」が量り売り、立ち食いで人気を高めているし、「俺のフレンチ」を展開する外食企業が8月下旬にステーキ中心の新業態をオープンするなど、食肉のマーケットは活気を呈しているように見える。

しかし、実際の生産、流通の現場については、畜産関係者以外はあまり知られていない。消費者にも知ってほしい食肉を取り巻く話題を連載していきたい。まず、1回目は牛肉の規格の話から。焼肉店やステーキレストランで「最高級の『A5』の和牛肉」というPOPを見たことがあると思うが、どんな意味があるのだろうか。

●全国共通のランク付け

牛肉の枝肉

牛肉や豚肉は、食肉卸売市場や食肉センターで枝肉の形態で取引される。枝肉とは、と畜・解体して頭部、皮、血液、内臓などを除いたもの。枝肉は通常、後肢(アキレス腱)にフックをかけて吊るしている。骨がついているので木の枝のようにみえることから名付けられたようだ。

その取引の際、食肉の評価・品質をチェックするために公益社団法人日本食肉格付協会が全国共通のランク付けをする。これを枝肉の格付といい、格付は食肉が適正な価格で取引されるために必要不可欠なものである。

枝肉の格付けの歴史は古く、昭和36年に当時の農林省畜産局長の承認を受けて牛・豚枝肉取引規格が設定された。畜産農家が安定的に経営を持続できるように制定された「畜産物の価格安定に関する法律」(通称:畜安法)に基づき、相場(卸売価格)が一定の価格帯の中で推移するような仕組みができたためだ。

食肉中央卸売市場などで格付けされた枝肉がセリ販売により価格が決まり、等級ごとに加重平均価格が公表される。セリ取引が行われない食肉センター等では、食肉中央卸売市場などの価格を基準に取引される。こうした全国統一の規格があるため、「同じ品質のものは全国どこでも同水準の価格で取引される」ことになり、公平な価格形成と公正かつ効率的な取引が可能となり、消費者に安定した価格で肉を届けることができる。

●最下位のC1から最高位のA5まで格付けは15段階

さて、ここから本題。牛枝肉の格付けは「歩留」(ぶどまり)と「肉質」で決まる。歩留がA、B、Cの3段階、肉質が1~5の5段階、合計で3×5=15段階の等級になり、C1が最下位、A5が最高位の等級となる。

歩留とは、枝肉から骨や余分な脂肪などを取り除いて製造される部分肉(正肉)がどれくらいとれるかである。この部分肉は精肉に加工され消費者の元に届くことになる。歩留について大ざっぱにいうと、赤肉(筋肉)の発達が不良で皮下脂肪が厚く骨太の牛は歩留が悪くC等級に、赤肉の発達が良く脂肪が薄く骨が細い牛は歩留が良いのでA等級に格付けされる。

第6~第7肋骨間切開面の測定部位

判定は頭側から6番目と7番目の肋骨の間を切り開いて(第6~第7肋骨間切開面)行われる。ここはかたロースとリブロースの境目であり、この段階ではばらも付いている。ロース芯面積、ばらの厚さ、枝肉重量、皮下脂肪の厚さの測定数値を計算式にあてはめ、歩留の基準値を算出し、A、B、Cの等級を判定する。

一方の肉質等級は、「脂肪交雑(いわゆるサシ、霜降り)」、「肉の色沢」、「肉の締まり及びきめ」、「脂肪の色沢と質」の4項目で決まる。肉の色及び脂肪の色については判定が客観的に行えるように、シリコン樹脂製の模型によるスタンダード標本が導入されている。

「サシの入った肉は高級」というイメージがあるように、脂肪交雑は等級を決める重要なファクターの1つとなる。脂肪交雑の判定は、ロース芯(解剖学名は胸最長筋)と周囲筋の状態で判定し、B.M.S(牛脂肪交雑基準、ビーフ・マーブリング・スタンダード)で12ランクに設定されている。

脂肪交雑の等級

この脂肪交雑等級はB.M.Sの№1が一番低くて1等級、№2が2等級、№3~4が3等級、№5~7が4等級、№8~12が5等級となる。最高級ランクで肉質5等級に格付けされる条件は№8からNO.12まであり、B.M.Sで5つのランクがあり幅が広いことが分ると思う。

●和牛、国産牛、交雑牛の違いは?

さて、ここで牛肉の品種についても簡単に触れておく。日本で生産される牛肉の品種は大ざっぱにいって、和牛が4割、乳牛が3.5割、残りは交雑牛2.5割。和牛は4品種(黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種)あるが、ほとんどが黒毛和種だ。

乳牛というのはほとんどがホルスタイン種。酪農で雌が生まれた場合は搾乳用に仕向けられるが、雄が生まれた場合は子牛のうちに去勢して肉用として肥育農家に販売される。去勢しないと雄特有の臭いがあり、性格が荒々しいためだ。このホルスタイン去勢肥育牛は売場では「国産牛」という表示になる。

交雑牛というのは、ほとんどの場合がホルスタイン雌に黒毛和種雄を交配(人工授精)した「ハーフ」。牛肉の輸入自由化になる際に輸入牛肉の上をいく肉質を目指して登場した比較的新しいジャンルの牛肉といえる。

なお、いずれの品種でも雄は去勢しても、雄としての特性は残っていて、成長が速く、産肉性も高く、重量が大きくなることから、畜産農家にも食肉業者にも人気がある。

●サシ指向の牛肉生産

牛の品種と格付けはどのような関係にあるかをみてみると――

現在、乳牛(国産牛と表示されている多くのもの)は4等級で、5等級に格付けされる実績は殆どなく、8割以上がB2あるいはC2。歩留も等級も低い。交雑牛はB4が1割、B3が3分の1、B2が3割といった割合。歩留でAはないが、等級は4と高いものもがある。

一方、和牛はA5:33%、A4:36%、B5:0.6%、B4:2.7%と、“高級”とされている4、5等級が7割を超えている。このデータは昨年1年の統計数字で、10年前は約5割だったので、近年の上昇ぶりは目を見張るものがある。

マーケットが脂肪交雑の多い牛肉を高く評価することに応じて、全国和牛登録協会、生産者、畜産技術者、研究者らが育種価(その牛が持っている遺伝的な能力の度合いを数字で示したもの)を活用して、黒毛和種の脂肪交雑に関する遺伝的能力の改良を推進してきた。また、エサについても高品質な牛肉生産のための飼料内容の見直し、ビタミンの制御・投与技術の開発などの飼養管理の改善が行われている。こうした積み重ねにより、現状ではサシ指向の牛肉生産が続いているわけだ。

しかし、一方で行き過ぎの傾向もある。平成21年発行の『日本飼養標準・肉用牛』で「黒毛和種の牛肉の脂肪交雑は年々増加している。現在までの20年間を比較すると、1988年ではBMSナンバー8に格付けされた枝肉の胸最長筋内の粗脂肪含有量は23%であったが、1998年では37%であり、2005年では41%に達している」と報告。さらに「近年では粗脂肪含有率が50%を超えるものもあり、現行のBMSでの評価が難しくなってきている」と指摘している。

ただし、B.M.S.№の判定においては脂肪交雑の形状(粗い、細かいなど)も加味されるため、脂肪含量の多寡と必ずしもパラレルするわけではない。ナンバー12がもっとも脂肪含量が高いということではなく、きめ細かく入っていることも評価される。

焼き肉店で宣伝されている「最上のA5肉」は、サシ志向の高まりから今や和牛の3分の1を占め、脂肪含量とサシの入り具合によってさらに5段階に評価されるほどランク付けが進んできた。

しかし、最近はサシの行き過ぎに「待った」をかける傾向が出て、赤身牛肉が評価され始めている。詳細は第2回「変わる牛肉のおいしさ評価」に続く。

参考文献

『日本飼養標準・肉用牛(2008年版)』(独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構)

『牛枝肉取引規格の概要』(公益社団法人日本食肉格付協会、平成26年1月)

『牛枝肉格付結果』(平成29年次)(公益社団法人日本食肉格付協会)

執筆者

近田 康二

食肉加工メーカー、養豚企業勤務、食肉・畜産関連の月刊誌等の記者を経て、現在はフリーの畜産ライター。

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