科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国オバマ政権の「国家バイオエコノミー青写真」10分間早わかり

宗谷 敏

キーワード:

 2012年4月26日、米国Obama政権は、「National Bioeconomy Blueprint」 を発表 し、 Obama大統領による2011年9月16日の公約 を具体化した。再選への切り札として、保健科学、農業、工業バイオテクノロジー、進化したバイオ燃料などの進歩を牽引車とする米国経済復興への戦略構想を描いてみせたということになる。

 Blueprintは48ページある。全部を読むのは面倒だよという向きのために、バイオ燃料の業界紙「Biofuels Digest」がたった10分間でその内容をご紹介しましょうというなんだか親切な企画を掲載しているので、ホントかどうかこれを読んでみたい。

<論理的根拠>
 冒頭のページに、政権が書きます:「何十年にもわたるライフサイエンス研究と生物学のデータを入手し、利用するための強力なツールの開発は、以前は想像もできなかった未来の入口の近くまで私たちを運びました:排出されたCO2から直接生産される“すぐ燃やせる”液体燃料、石油からではなく再生可能なバイオマスから作られた生分解性プラスティック、特別な食事の必要条件を満たすオーダーメイドの食品、患者自身のゲノム情報に基づく個別医療、環境をリアルタイムでモニタリングするための斬新なバイオセンサーなど。」

 「必要とされる科学と社会のチャレンジを解決し、未来に影響を与えるであろうエキサイティングなオプションを求めて、科学者とエンジニアが他の科学的な分野からのアプローチとも一体となって生物学研究をますます増大させたいと思っています。」

<Bioeconomy の巨大な実態、今日でさえも>
 Blueprintで、政権が報告します:「USDA(米国農務省)によれば、2010年の遺伝子組み換え作物によるか米国の収益は約760億ドルでした。農業を越えて、最良の入手可能な見積もりに基づけば、産業的なバイオテクノロジー-燃料、素材、化成品と遺伝子組み換えシステムから生じた産業用酵素-からの2010年の米国の収益が約1000億ドルでした。」

 Blueprintは、同じく昨年420億ドルの貿易黒字を産んだ米国農業の国際的な成功を指摘します。

<5つの戦略目標: Bioeconomy Blueprint から>
 National Bioeconomy Blueprintは、経済成長を生み出し、社会の必要性に対処する可能性があるbioeconomy のために5つの戦略目標を説明します。

1.未来の米国 bioeconomyの基礎を提供する研究・開発投資を支持してください。

 「米国の bioeconomy 関連の研究活動の調整は、効率性と投資の有効性を改善でき、予算成長に制約があるときは特に重要です。組織的な戦略上のプログラムと目標を定められた投資が、生物学の研究と技術分野における進歩を速めます。このことは結果的に米国の bioeconomy のための発見を促進させます。」

前進するために:組織的な、統合化された研究・開発への取り組みが、National bioeconomyの研究開発アジェンダの戦略的具体化に役立つでしょう。

2. 基礎研究から応用分野までの研究と規制科学に対する重視を含めて、生物学的発見の研究室から市場への移行を促進してください。

 「もしbioeconomyが成功し繁栄するなら、米国の必要性に対処する新製品とサービスの常流になるでしょう。この流れを保証するために、政策が発展されなくてはなりません。納税者の税金は、発見、革新と商業化を支える生態系を保持するために、責任を持って使われなくてはなりません。」

前進するために:基礎研究から応用分野までの研究重視への確約が、研究所から市場への生物学的発見の移行を速めるでしょう。

3.障壁を減らして、規制プロセスのスピードを速め予測を増やして規制を発展させ改革し、ヒトの健康を守り環境を保全しつつ、経費を削減してください。

 「規制は、ヒトの健康と環境を守り、技術誤用の可能性と結び付けられる安全と安心に対するリスクを減らすためには不可欠です。しかしながら、不注意に策定されたり、時代遅れになった規制は、革新と市場拡大への障壁なり、投資の妨げとなります。」

前進するために:改善された規制上のプロセスが、迅速、安全に未来の bioeconomy の約束を達成するのを助けるでしょう。

4.教育プログラムを更新して、教育機関のインセンティブを国家労働力が必要とする学生の教育に一致させてください。

 「地域の高い失業率にもかかわらず、科学技術関連のビジネスでは多くの求人が満たされないままです。仕事を変更するために、あらゆるレベルにおける教育的取り組みが存在しています。」

前進するために: 連邦政府機関は、未来の bioeconomy が持続可能であり、適切に教育された労働力を持つことを保証する措置を講ずるべきです。

5.公共-民間によるパートナーシップの開発と前競争的な協調関係-競合者が成功と失敗から学ぶリソース、学識と専門知識を共有すること、の機会を明確にし、支持してください。

 「パートナーシップは、民間企業、行政機関と教育機関がアイデアについてリソースと専門知識を共有することを可能とし、成功のチャンスを劇的に改善します。 多くの企業が、直ちに収益をあげられそうもないという理由から初期のアイデアに投資しません。こここそ、政府が決定的な役割を果たせる場所です。」

前進するために:連邦政府機関は、公共-民間のパートナーシップと前競争的な協調関係が、広範にbioeconomy に役立つための動機を提供すべきです。(引用終わり)

 以上が総論部分であり、以下の記事はこの業界紙の性格上、バイオ燃料と工業バイオテクノロジーの詳細と、このBlueprintを歓迎する産業界のリアクションに触れているのでこれらは省略する。

 筆者も含め、おそらくはFoocom読者の大部分が関心を抱くのは、アグリバイオに関する部分だと思われるが、それはエネルギー利用植物の開発やオーガニック農法の改善などを除き、iPS細胞研究などを初めとする保健医療科学、工業バイオテクノロジー、バイオ燃料分野等に比べて、著しく少ないという印象を受ける。

 そして、農業の国家収益や農産物貿易の黒字などの現状の数値を挙げることにより、アグリバイオは既に達成された政権の業績としてトロフィー棚に祭り上げ、選挙を前にして敢えて論争的な分野(耐性雑草・害虫発生懸念などの環境影響問題、遺伝子組み換えサケの食用認可問題、遺伝子組み換え食品表示問題など)に踏み込むことを回避したという見方が可能なのかもしれない。

 「Biofuels Digest」紙は、記事の最後に参考資料に、EUが2012年2月13日に公表した「Innovating for Sustainable Growth: A Bioeconomy for Europe」へのリンク を貼っている。米国と比較して、EUのBioeconomy成長戦略は気候変動対策を、かなり重要な挑戦として位置づけているのが特徴的だ。

 さて、我が国では、2002年12月に小泉首相官邸の肝煎りで、バイオテクノロジー(BT)戦略会議が「バイオテクノロジー戦略大綱」 を纏めた。「暗澹たる気持ち」と引き換え覚悟でネットを検索すれば、中間達成状況や見直しも見ることができる。

 どの国、地域でも口先の青写真を描くのはたやすいことかもしれない。それをどこまで実行できるのかは、トータルな国力にかかってくる。Obama政権は、少なくとも何をやりたいのかという政策を理由とともに有権者に示し、米国メディアも(批判も含め)一生懸命解説している。具体的使用目的が曖昧なまま消費税増税に猛進する野田政権と、政局追っかけ報道だけに熱心なメディア、国家の品格とは何かを改めて考えてしまう。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい