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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

中国の未承認GMコメ混入製品問題~EUが怒る

宗谷 敏

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 2011年11月14日、ブリュッセルで開催された欧州委員会フード・チェーンおよび家畜衛生常任委員会(SCoFCAH: Europe’s Standing Committee on the Food Chain and Animal Health)は、中国の未承認GM(遺伝子組み換え)コメ混入製品(主に製麺や米粉)に対する規制を強化すると発表 した。

 既に08年4月から、EUは中国政府に対しコメ製品中にGMコメイベントが混入していないという輸出前検査報告を提供するよう要求し、輸入先のEU加盟国側では、検証のために無作為抽出検査を実施することで対応してきた。

 今回の決定は、中国の輸出前検査義務は維持し、EUにおける無作為抽出検査を全輸入コメ製品に拡大強化する。中国に潜在的に存在している可能性のある最高26品種のGMコメを検出できるスクリーニング法を使用し、向こう6カ月間実施される。

 この決定は、欧州委員会健康・消費者保護総局(DG SANCO: Directorate General for Health & Consumers)の食品・動物検疫局(FVO: the EU Food and Veterinary Office) が11年3月に実施した訪中ミッションの監査報告書(11年11月23日公表)と、食品および飼料に関する早期警報システム(RASFF: EU’s Rapid Alert System for Food and Feed)による警報とに基づく。


 FVO監査報告書は、「中国原産か、又は中国からの輸入原料を用いたコメ製品に混入したかもしれないGMイベントのレベル、タイプと数は不確実であり、このようなコメ製品に未承認GMOがさらに導入されるリスクがあることを示す」と述べている。

 EU加盟国において食品・飼料に関するリスクが発見された場合、欧州委員会が全加盟国に公開速報するRASFFは、06年から11年11月までに120件以上、10年だけでも47件にも及ぶ中国の未承認GMコメ混入製品に対する警報を発している。

 中国の未承認GMコメ問題は、中国の研究所と種子会社が不法に未承認GMコメの種子を農家に販売しているのを発見したと、Greenpeaceが05年4月に告発したことに端を発する。中国政府は種子会社を罰し、問題の圃場を破壊した、と伝えられた。

 しかし、その後も試験圃場からの流出も含めて、米Heinz社が中国国内で販売したベビーフードをはじめ中国の食品連鎖全体にGMコメのコンタミネーションが、湖北、湖南、江西州などにも広がっていることがGreenpeaceなどにより度々指摘されてきた。

 混入が発見されているGMコメは、昆虫病原細菌Bt(バチルス・チューリンゲンシス)由来のチョウ目害虫抵抗性遺伝子Cry1Acを含むBt63系統がもっとも多く、Cry1AcとCpTI(トリプシンインヒビター)遺伝子を導入したKeFeng6や、Cry1Abを導入したKMD1などだ。このうちKMD1は、Bt63やKeFeng6が長・中粒種なのに対し、00年に浙江省と福建省の水田で圃場試験が行われた短粒(ジャポニカ)種である。

 11年1月に中国農水省は「試験圃場以外にGM穀物は中国で栽培されていない」と宣言した。しかし、11年4月には、環境省当局者が「4つの政府部門による共同調査の結果、非合法のGM種子が脆弱な管理のためにいくつかの州に存在している」と中国国内週刊誌に語っており、11年6月14日付AFP もこの問題を取り上げたが、AFPの釈明要求に対し農水省は回答していない。

 我が国においても、05年のGreenpeace告発を受けて、厚労省が中国産ビーフン等を調査したところ、未審査GMコメの混入を発見したと05年4月公表 (07年2月改訂)している。また、つい最近でもモニタリング検査により、ベトナム産タピオカ入りライスヌードルからCry1Acを検出したと11年10月20日に発表した。

 気になる動きはこれだけではない。インド・パキスタンで栽培されているバスマティイネは、優れた芳香を持つ長粒種の香り米品種として有名で、GMに対しても非常に神経質な管理が行われてきた。11年11月16日付RASFFは、ベルギーから出荷されたバスマティコメからPubi-cryプラスミドを発見したと伝えた。Pubi-cryは、中国においてはKeFeng6に含まれている。

 ただし、これらの原因をすべて中国に求めるには、証拠が不足している。ベトナムはGMトウモロコシの商業栽培開始寸前の状況にあり、当然ながら試験栽培も実施されている。これらが、Cry1Acを含むかどうかは定かではないが、こちらからのコンタミネーションや輸入GMトウモロコシ製品との工場における交差汚染も理論上は考えられるからだ。同じく、 EUのバスマティコメからPubi-cryも、検査結果やサンプリングが適正だったとして、様々な原因が推測されるため、これだけでKeFeng6に結びつけることは出来ない。

 GMコメ混入製品は、既に他の作物への導入で安全性が確認されているGM遺伝子が見つかっているのだから、直ちに健康危害を及ぼすものではないだろう。しかし、国内外で未承認のGMコメが混入しているイメージは非常に悪い。

 AFPの記事にもある通り、13億人以上の人々の基本食糧であるコメは、中国にとってあまりにデリケートな問題であることは確かだ。同時に、01年にWTO(世界貿易機関)に加盟した中国は、今日まであらゆる種類の食品安全管理上の問題を起こし、貿易相手国の心胆を寒からしめて来たことも事実だ。超大国や自由貿易を標榜するなら、掛け声だけではなく実効性のある改善姿勢を早急に示すべきだろう。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

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一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい