科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

お国柄GM圃場破壊活動の罪と罰-Part 1

宗谷 敏

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 GM(遺伝子組み換え)作物反対派の活動家たちによるGM圃場破壊活動が、世界各地で頻発している。これら動きを2回に分けて追ってみよう。先ず、大きく報道されているオーストラリアと米国の事件などから。2011年7月14日未明、Greenpeaceが、ニューサウスウェールズ州で試験栽培中のGMコムギ全てを破壊したパフォーマンスと、同年7月18日深夜に起きたハワイ州の商業栽培されていたGMパパイヤ樹木切り倒し事件である。

TITLE: Greenpeace destroys GM wheat
SOURCE: ABC Canberra
DATE: 14 July, 2011

 被害に遭ったのは、CSIRO(オーストラリア連邦科学産業研究機構)が、09年にOGTR(遺伝子技術規制局: The Office of the Australia’s Gene Technology Regulator)の認可を受けて進めていた首都キャンベラ近郊の試験栽培圃場1haだ。
 ここで試験栽培されていたGMコムギは、生活習慣病(2型糖尿病、肥満、心臓病など)を防ぐことを目的に、血糖指数(glycemic index)を下げるようデンプン成分を改変し、繊維質を増やしたタイプで、仏Limagrain社が開発に協力している。

 このGMコムギは、既にラットとブタによる3カ月間の給餌試験を成功裡に終え、次のステップとしてOGTRからヒトへの治験が認められていた。Greenpeaceは、11年7月7日に報告書“Australia’s wheat scandal: the takeover of our daily bread” を公表して反対する理由をあれこれ述べているが、どうやらこのヒトへの治験が逆鱗に触れたようだ。

 YouTube にも流された破壊活動は、防護服に身を固めた3名が完全に隔離された圃場に侵入し、ガソリンエンジン駆動の芝刈り機でコムギをなぎ倒した。被害総額は30万豪州ドル(約2,600万円)と見積もられている。このうちの2名は女性で、そのうちの1名が実名でメディアのインタビューに応じている。

 彼女の主張は、「このGMコムギは研究室から野外へ出るべきではなかった。科学を理解しないアホママ扱いされることに、もう私はうんざりだ。自分にとっては家族の健康が一番大事だが、GMコムギは安全ではない。政府が私の家族を守れないのなら、私が自分で守るしかない」というものだ。まあ、アホママ扱いされたくなかったら、今ではメディアも騙されず、バレバレのパフォーマンスにしか見えない全く無意味な防護服など着るべきではなかったのだが。フェンスもさぞやよじ登りにくかったろうに。

 ともあれ、Greenpeaceの過激な違法行為は、直接被害を受けたCSIROのみならず、広く社会から批判を招いている。支持を表明したのは奇特なシェフ2人と、「目的は手段を正当化する(時には違法行為も許される)」とコメントした緑の党くらいのものだ。

 7月21日、警察はGreenpeaceのオフィスを強制調査したが、まだその時点では逮捕者は出ていない。次回、本稿Part2で取り上げるヨーロッパでは、思想犯罪という考え方からGM圃場破壊への法的処分はかなり甘い。オーストラリアがどのように対処するのかは興味深い。

TITLE: Vandals Destroy 10 Acres Of Big Island Papayas
SOURCE: KITV4
DATE: 19 July, 2011

 オーストラリアの模倣犯という訳ではないが、1週間もおかずにハワイ島の畑10エーカー(約4ヘクタール)に植えられていたGMパパイヤの樹木が、何者かによって山刀で切り倒された。これは、商業圃場への攻撃という意味からは、より悪質なものだ。隣接する3つの畑が被害に遭い、所有する農家は個別だった。被害状況を映したビデオ もある。

 この付近では、約1年前にも8,500本のパパイヤ樹木が同じように破壊されており、犯人はまだ捕まっていない。2回の破壊行為はGM反対の意思表示という見方が有力だが、犯行声明が出ていないため、地元では近隣同業農家による妨害説もある。今回の実行犯に関する情報提供に対し、警察は最高1,000ドルの報奨金を支払うと告示している。

 当然ながら、米国はこの種の犯罪に対しては、エコテロリストと見なすことも辞さず非常に厳しい。例えば、1999年12月31日、ミシガン州立大学の農業ホールに放火して建物や研究装置に100万ドル(約7,800万円)以上の損害(幸いにも人的被害は無し)を与えた毛皮産業とGM作物に反対する(自称)環境保護活動家夫妻に対しては、重い実刑判決が下されている。

 特に、妻(判決当時47歳)は、09年2月に懲役22年という厳しい判決が言い渡された

 引用したN.Y.Timesは、慎み深く?「エコ放火犯」という言葉を見出しに選んでおり、弁護側や一部からは、彼女は01年の9.11. 同時多発テロ事件を受けて制定されたテロ防止法の見せしめ的スケープゴートだという同情的意見もある。

 わが国では03年7月26日、茨城県・旧谷和原村(現つくばみらい市)でバイオ作物懇話会が実験的に栽培していたGMダイズ約10アール分が、反対派農家らによりトラクターで断りもなく鋤き込まれた。加害・被害農家は双方顔見知りだったし、あいまいさを美徳とするお国柄、結局、訴訟には至らずうやむやになった。これが、日本におけるGM圃場破壊活動の唯一の事例である。(Part 2へ続く)

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい