科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

米国GM食品表示アップデート~州の取組みが勢いづき Big Ag は倍返し狙う

宗谷 敏

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 米国のGM(遺伝子組換え)食品表示を巡る国政と州政府、消費者、企業などの動きが、日々目まぐるしい。ジグソーパズルの一片に関する報道の氾濫する中、全体像を俯瞰する記事をものすのは力技だから、滅多にお目にかかれない。2014年4月16日の「Civil Eats」紙は、この難題をかなり上手くこなしているので読んでみたい。尚、筆者であるカリフォルニア州在住のTemra Costa女史は、オーガニック農法とGM表示の(心情的)推進派である。

「GM食品表示アップデート~州の取組みが勢いづきBig Agは倍返し狙う」

 たいていの米国人がGM食品を食べているかどうかを知りたがります。ある世論調査によれば、93%が表示を望みます。しかし、このような表示がスーパーマーケットの棚に現れることを阻止することに全力投入する一つグループがあります。

 Coalition for Safe Affordable Food(「Coalition」) による、州が提案したGM食品表示の台頭に対するBig Foodの如才ない回答振りをご覧下さい。

 Grocery Manufacturers Association (GMA) が2月に立ち上げたCoalitionは、農薬とバイオテクノロジー企業、加工食品製造業者とこの国の GMO の大部分を占めるトウモロコシ、ダイズとテンサイを栽培する農業ロビー団体を含めて、30以上 の私益グループで構成されます。

 そこには、Monsanto社、DuPont社、PepsiCo社やNestlé社のような特定企業の名前がありませんが、彼らはBiotechnology Industry Organization、the Snack Food Association、the National Association of Manufacturersなどに丸見え状態で隠れています。言い換えれば、Big Foodが GMO 防衛戦略を増強したのです。

 これらの取組みが、ここしばらく進行中でした。あちこちの州の表示への取組みに反撃するGMA の計画は、州民表示発議を阻止するために不法に7百万ドルを調達し使用したことに対してワシントン州検事総長オフィスが GMA を告訴して以来、ずっと明白でした。

 昨年秋、食物政策研究者Michele Simonによってリークされた文書が、Coalitionのゴールが明らかにします:

1. 州が主導するGM表示発議をブロックし、「住民投票を破る」;
2. 透明性と情報公開のプラットホームを開発する(つまり、彼らのウェブサイト);
3. 表示の必要条件を含まない連邦の(州に対する)専占を創り出す;
4. 彼らのメンバーのイメージを守り;そして
5. これらのゴールを達成するために長期的な資金調達の仕組みを作る。

 今や、 GMA はリストに沿って活動中です。

 州レベルの表示法案の増加が、おそらくCoalitionのメンバーに協力を促しました。現在 27の州でGM表示を目的とした66本の法案が審議されています。コネチカット州とメイン州は既に法律を通過させましたが、近隣の州が参加するまでいずれの法案も発効しません。メイン州の場合は、周囲の3つの州が類似の法律を通過させなくてはなりません。ニューハンプシャー州は今年法案を提出すると予想されますが、ニューヨーク州とマサチューセッツ州では法案が放置されています。

 両方の州で表示法案が提出されましたが、まだ立法者が進めていません。コネチカット州の法案は、少なくとも2千万人の投票者を代表している周囲の州が類似の法案を通過させるなら、表示が成立するという条項を含みます。言い換えれば、世論が政策立案当局にとって重要です。

 昨日(4月15日)州の上院を通過したバーモント州の法案H.112は、成功する可能性がさらに高いでしょう。もし成立したなら、それは最初に(訴訟によって遅らせられなければ)効力を発するでしょう。カリフォルニア州の表示提唱者は、ちょうど上院(3月26日保健委員会)を通過した S.B. 1381という2番目の試みを持ちます。注目される他の州では、オレゴン州がこの秋表示法案について州民投票をするかもしれません。(Right to Knowのウェブサイトで各州の状況を見てください。)

 「人々が強く欲するものを明確にするGMO義務表示-任意表示ではない-を、州ができるだけ早く通過させることは極めて重要です」と、Californians for GE Food Labelingを支持するグループの一つであるFriends of the Earthの表示提唱者Stacy Malkanが言います。

 一方、連邦法を作るCoalitionの計画も、同じく実行に移されています。Mike Pompeo下院議員(民主党-カンザス州)は、州レベルの取り組みを阻止するであろう「Safe and Accurate Food Labeling Act of 2014」と題された法案を提出しました。はたして、Pompeoと法案共同署名者たちはCoalitionのゴールに共感します。結局のところ、 Pompeo は今年Koch Brothersから最も多くの財政支援を受けた政治候補者です。そして、Koch Brothersが所有するGeorgia-Pacific社はGMA のメンバーです。

 「GM食品に関して、表示のパッチワークの端布をまとめようと試みている多くの州があります。それは食品システムのオペレーションをとてつもなく難しくします」と Pompeo は先日Reutersに語りました。彼は正しいです、異なった州の異なる表示は食品製造業者と小売り業者にとって非常に複雑なシナリオを作るでしょう。

 しかし、それは最終ゴールではないと、ほとんどの表示推進活動家が同意します。むしろ彼らの希望は、米国食品医薬品局(FDA)が全国的な義務表示をするように説得することです。消費者にとって外見上も「質的」にも差異はないと確信するという主な理由から、FDAの現在の見解はGM食品が従来の食品と「実質的に同等」です。約130万人の人々がFDAにそのアプローチを変えるように要求しましたが、ムダな努力でした。

 GMO表示を義務化する2つの連邦法案も、昨年4月に提案されています-Barbara Boxer上院議員(民主党-カリフォルニア州)のS.809とPeter DeFazio下院議員(民主党-オレゴン州)のH.R. 1699です。しかしながら、提案者たちがとても残念がることには、今までのところ法案は議会においてほとんど進捗していません。

 さし当たり、州による取り組みが国民による支持の最強の表明であり、連邦にメッセージを送る最良の方法だと見られています。しかし、Coalitionの財政力は軽視されるべきではありません。GMO表示キャンペーンは、終始一貫して GMA と他のCoalitionメンバーによる資金支出で追い越されました。直近では、ワシントン州のI-522で勝つためにGMA が、表示提案者との比率で4:1の金を注ぎこみました。カリフォルニア州のProposition 37 では、5:1 でした。

 「金は挑戦です」。州の現在のキャンペーンについて尋ねられるとき、Californian’s for GE Food LabelingのメンバーでPesticide Action Networkの広報担当理事Paul Towersが認めます。「私たちはProp 37で『それを持って』はいませんでした、そして私たちは、彼らがこのために注ぎ込める金額に近い額を集めることは、どこの州においてもできないでしょう」。

 それでもTowersと彼の仲間たちは、直ぐにはタオルを投げて降参しません。「私たちが持っているものは、この問題を前進させて選出議員が責任を課すことに尽力している本当に才能があり、連結された市民活動家のグループです」と、彼は言います。(訳文おわり)

 連邦政府(一枚岩ではない)と一部州政府の対立、活動家グループと業界・企業の確執の現状が過不足なくまとめられている。二つ追加したいのは、食品表示を所掌する行政機関としてのFDAの直近のスタンスとバーモント州の状況だ。

 FDAは、上記記事にもある通り終始一貫してGM食品義務表示は不要との立場で、1992年にGM任意表示を推奨する未完のガイドラインを公表しただけだった。しかし、3月27日の連邦下院歳出委員会におけるヒヤリングで、FDAのMargaret Hamburg長官は義務表示への反対を再確認し、任意表示支持を表明するとともに任意表示ガイダンスを近々完成させると陳述した。

 Pompeo下院議員が、現在は企業の任意となっているFDAによるGM作物の安全性評価の義務化や訴訟が頻発している「natural」表示の定義やスコープを決定することなども含むGM食品任意表示法案H.R.4432を議員立法したのは、2週間後の4月9日である。

 バーモント州の法案H.112は、訴訟を起こされた場合の防衛予算支出などを追加した修正バージョンが4月15日 に州上院を26票 対2票 で通過、下院も4月23日 に114票 対30票 (棄権5票) でこれを承認した。GM表 示に積極的な州知事が署名すれば2016年7月に発効するが、予想されている訴訟 が起こされれば遅れるだろう。また、連邦議会でH.R.4432が成立した場合、H.112は無効となる。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい