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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

中国の米国産トウモロコシ輸入拒否~強かな中国の禁じ手か?

宗谷 敏

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 2013年12月4日、中国国家品質監督検験検疫総局(AQSIQ)は、広東州深圳港、福建省、山東省に到着した米国産トウモロコシ5シップメント合計12万トンをシップバック(輸出国への積戻し)したと発表した。これに先立つ11月18日にも、深圳港においては国家出入境検験検疫局が約6万トンの荷揚げをブロックしたと関係筋が伝えていた

 これらの積荷に未承認のGMトウモロコシが混入していたというのが。中国が拒否した理由だ。問題になった品種は、Syngenta社のチョウ目害虫抵抗性GMトウモロコシMIR 162「Agrisure Viptera」で、mVip3A タンパク質(お馴染みのCryタンパク質ではない)を発現するバチルス・チューリンゲンシス菌(Bt)AB88株に由来する改変vip3A 遺伝子を導入している。

 MIR 162は、米国においては2011年から栽培されており、日本では2010年6月11日に安全性承認(デントコーン)され、EUでも2012年10月20日に輸入と食品・飼料使用を承認している。しかし、25品種のGMトウモロコシに(輸入)安全性証明を発行している中国では、MIR 162の安全性は審査中である。Syngenta社は2010年3月に申請を提出したが書類の不備やデータの不足から認められず、2013年11月に再申請が行われたという。

 興味深いのは、中国は2013年7月に深圳港揚げでアルゼンチン産トウモロコシ6万トンをブタと家禽の飼料用に輸入し、米国以外からの初のトウモロコシ輸入として注目を集めた。これに先立つ6月17日、中国はGMダイズ3品種とGMトウモロコシ1系統(Monsanto社の乾燥耐性MON 87460「Genuity DroughtGard Hybrids」)の加工原料としての輸入を認めている。

 因みに、アルゼンチン産トウモロコシのGM作付け比率は84%であり、栽培が認められているのは、MON810、T25、Bt11、NK603、TC1507、GA21、MON89034、MON88017、Bt176(Bt176の認可更新申請が行われなかったEUでは、07年4月18日以降栽培と流通禁止)、MIR604およびMIR162と伝えられている。

 つまり、この時点でもMIR 162は中国未承認でありながら、アルゼンチンにおいては栽培が認められていた。従って、この積荷には潜在的にMIR 162が含まれていた可能性が高い。この時期、南米と中国は穀物貿易を巡ってホンワカムードだったから、ご祝儀輸入に対する検査を省略したのか、検査は実施したが採取サンプルにMIR 162が含まれていなかったのかは不明であるが・・・

 中国は、米国に次ぎ約2億トンのトウモロコシを国内生産しており、2010年に純輸入国(輸出量<輸入量)に転じたものの、2012年度までの輸入量は輸入枠720万トン(国内消費量の3%)を下回ってきた。しかし、2013年度は10月までに既に700万トンに達し、1千万トンに近づくという見方もあった。価格面で見ると、トウモロコシの国際価格は40%程度下落しているが、中国国内では政府の備蓄用に買い上げと旺盛な飼料用需要から高止まりしている。

 今回の相次ぐ米国産トウモロコシ輸入拒否は、対米への政治的思惑と共にこの国の穀物商取引上の悪弊である「値直し」(契約時の価格に比べて輸入時の実勢価格が下回った場合にディスカウントしろとゴネたり、いろいろ他の理由をつけて積戻す)ではないのかと疑いたくもなる。

 これは契約社会の国際商習慣では許されない禁じ手だが、中国の前科は豊富であり、最近ではカナダ産ナタネのblackleg disease(黒脚病)なども利用された。巧妙なのは未承認GMも含めて表面上誠にごもっともな拒否理由であり、隠された真意を疑ってみても証拠は掴めないからWTOにも持ち込めない。中国ビジネスの強かさ(あるいはお行儀の悪さ)に泣かされた貿易実務関係者は多い。

 中国のトウモロコシ輸入は、約10年間で国内消費の80%に相当する5,838万トンを占めたダイズのようなドラスティックな輸入拡大はないだろうが、漸増することは間違いなく年間約1,600万トンを輸入する日本や、韓国、メキシコ、EUなど主要輸入国に割り込んできている。一方、主要輸出国は、ウクライナを除きGMトウモロコシの栽培国である。

 ここで問題になってくるのは、早くも4年前にEUで指摘された非同期承認が国際貿易に与える影響だ。今回の中国による輸入拒否は、輸出国と輸入国間の非同期承認(asynchronous approval、AA)の具現化だと表向き見ることが出来るし、早急に解決を計るべき事案であろう。

 しかし、中国がアルゼンチン産を輸入し、米国産を拒否したように、もしもAAやLLP(low-level presence、未承認GMOsの微量混入)を自国の経済・政治事情に恣意的に利用したとするなら、そして一部途上国がこれに倣うとするなら、国際穀物貿易はまた一つ異なるステージで頭の痛い問題を抱えることになるかもしれない。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい