科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

農と食の周辺情報

米国 食品安全近代化法ようやく動き出す 輸入食品の規制も強化

白井 洋一

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 2013年7月26日、米国食品医薬品庁(FDA)は輸入食品にも国内産と同等の安全対策を義務付ける規制案を発表した。

 ロイター通信(2013年7月26日)が伝え、日本のメディアでも「米国 輸入食品で新規制、国内並みの安全対策を要求、日本企業も対応を求められそう」(共同通信、2013年7月27日)などの見出しで報じている。

 これは突然の出来事ではない。2年半前の2011年1月に成立した食品安全近代化法(Food Safety Modernization Act)を実効性のあるものにするための関連法だ。今回の規制の中味とともにこれまでを振り返る。

2011年1月 食品安全近代化法成立
 オバマ大統領は1月4日に食安近代化法に署名。1938年の食品安全法以来、72年ぶりの大幅改正で、2009年のピーナツバターによる大量食中毒事故などをきっかけに食中毒予防への関心の高まりが背景にあった。

 改正の主なポイントは以下の通り(詳細は農畜産業振興機構の海外情報(2011年1月5日)を参照)。

・事故を起こした食品のリコール(商品回収)などFDAの監督権限を強化する。
・事故が起こってからの対策よりも、事故が起こらないよう予防対策に重点をおく。
・食品を輸出、輸入、製造、加工、包装する米国内施設は2年ごとにFDAへの登録が義務付けられる。
・食中毒など食品安全上のリスクの高い施設へはFDAの強制検査を可能とする。
・輸入食品事業者は、食品安全上の基準を満たしていることを証明する書類の提出が義務付けられる。
・対象はFDAの所管する食品で、農務省所管の食肉、肉加工品、加工卵製品は対象外(2013年7月の輸入食品規制でも、別な規制がある海産物と果汁は対象外となっている)。

 食安近代化法はFDAの監督権限の強化をうたっているが、政府予算削減の中、FDAの予算や検査員の大幅増は期待できないため、その実効性に疑問の声も指摘されていた(農務省農業経済調査局報告、2011年12月)。

2012年8月 消費者団体 FDAを訴える 法はできたが実行しない
 食安近代化法の骨子はできたが具体的なルール作りは進まなかった。2012年8月29日、遺伝子組換え食品反対キャンペーンでもおなじみの市民団体、食品安全センター(Center for Food Safety)
と環境健康センター(Center for Environmental Health)は、「2011年1月の食安近代化法では国民の食の安全を守るには不十分」、「具体的なルール作りも進んでいない、ほんとにやる気があるのか」とFDAを連邦地裁に訴えた(ロイター通信(2012年8月29日))。

2013年1月 FDA 食安近代化法の新基準発表
 FDAは大統領署名からちょうど2年後の2013年1月4日に米国内で販売される食品に関する新基準を発表した。「新たな食品安全規則、事業者の責任強化へ」の見出しでロイター通信(2013年1月4日)が伝えている

 予防対策重視、FDAの監督権限強化など基本姿勢に変更はない。果実、野菜など生鮮食品の規制が中心で、加熱して食べるポテト、卵、豆類などは対象外となっている。小規模販売農家についての規制免除対象もやや広がった。市民団体による訴えの一部はこれで解消されたが、裁判所からはFDAは食安近代化法のすべての関連規則の整備を2014年中に完了するようにとの勧告がだされている。原告の消費者団体も「ルールができたのは一応評価するが、我々に訴えられてからようやくというのでは・・・」と皮肉めいたコメントを出している。

2013年7月 輸入食品規制案のポイント
  FDAの発表(2013年7月26日)では以下のように述べている。

背景 米国で消費される食品の15%は輸入品で、生鮮野菜は20%、生産果実は50%を占めている。米国では毎年6人に1人が食中毒をおこし、約3千人が死亡している。最近も、トルコ産の冷凍ザクロやメキシコ産キュウリで食中毒事故が起きている。

対策 輸入食品を米国輸入時の検疫だけで防止するのは限界があり、2013年1月に発表した国内産の規制と同様に、輸入生鮮食品にも予防を重視した栽培から加工、包装までの段階での対策が必要であり、主に2つの対策をとる。
(1)輸入事業者による計画書の作成
 すべての輸入事業者に、生産から加工、包装までの段階で汚染防止措置をとっていることを確認することを義務付ける。各段階で食品汚染による被害を予測し、被害が予測されるときは防止対策を義務付ける。
(2)第三者監査機関による認証確認
 輸入事業者の提出した計画書などが適正なものであるかどうかの判断は、輸出国の政府機関か認証業務をおこなう民間組織がおこなう。これらの機関、組織はFDAの定めた基準を満たすものでなければならない。

WTO訴訟の新たな火種となる可能性も
 2013年1月に発表された米国内生産者、事業者向けの規制案は年間売り上げ50万ドル以上を対象とし、2万5千ドル以下の小規模農家は規制対象外だ。これは家族農業など小規模農家の負担を考慮したものだ。2万5千ドルから50万ドルの中間層については、農民市場で直接販売する場合や地産地消(同じ州内、275マイル(440キロメートル)以内の移動による販売など)は規制対象外になっているが、どこに売ったか、どのような方法で販売をしたのかを記録し、証明を受ける必要があり、生産者にとっては複雑でやっかいな制度のようだ。

 一方、今回の輸入事業者向け規制案を読む限り、取扱高○○ドル未満の中小事業者は対象外といった項目は見あたらない。すべての輸入事業者が対象であり、いずれの事業者も米国の基準にかなう生産から出荷、加工、包装、輸出までの段階で汚染防止対策をとり、リスクを予測し、それを防止する計画書の提出が求められる。さらにこれらの書類が適性であると証明できる認証機関体制も整える必要がある。この辺が輸出国側と論争になる可能性がある。

 米国への果物、野菜はメキシコや中南米産が多く、最近は中国産も急増している。これらの国が今回の米国の規制案におとなしく従うかは疑問だ。規制案は7月29日から120日間のパブリックコメント(意見募集)を経て決定されるが、米国の輸入業者からの不平・不満も予想されている。たとえ決定したとしても(移行措置期間としてFDAは1年半を提案しているが)、輸出国側から米国の規制制度は科学的根拠を越えた輸出妨害にあたるとWTO(世界貿易機関)に訴えられる可能性も考えられる。

 ところで今回の米国の決定を日本の消費者団体や食品事業者はどう見ているのだろうか? TPP(環太平洋経済連携協定)に参加すると米国の緩い基準が押しつけられて、日本の食品の安全性が脅かされると心配している人たちには悪いニュースではないだろう。米国への輸出品には厳しく、米国からの輸入品には甘くとは、米国も主張できないからだ。もしそんなことを言ってきたら、日本の農水省や厚労省はきちんと反論するだろう(たぶん)。

 今回の米国の規制に限らず、海外の食の安全ルール(法律)は最近大きく変化している。「米国は緩いから心配」とか「EU(欧州連合)並みに厳しくしろ」とワンパタンの主張を繰り返すだけではなく、どこが緩くてどこが厳しいのか、日本のルールはほんとうに世界に自慢できるものなのかなど、きちんと調べておく必要がある。

執筆者

白井 洋一

1955年生まれ。信州大学農学部修士課程修了後、害虫防除や遺伝子組換え作物の環境影響評価に従事。2011年退職し現在フリー

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一時、話題になったけど最近はマスコミに登場しないこと、ほとんどニュースにならないけど私たちの食生活、食料問題と密に関わる国内外のできごとをやや斜め目線で紹介