九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。
昨年12月から開始されている消費者庁の第4回「栄養成分表示検討会」が、4月22日に開催された。今回の論点は「栄養成分表示制度の運用~制度の実効性について~」。事業者等から選出された委員のヒアリングがあった後、意見交換が行われた。今後は、次の2回の論点整理を踏まえ、さらに2回で報告書を取りまとめ、7月下旬に発表される予定になっている。傍聴した内容をお伝えする。
○ヒアリング
当日の委員および参考人の当日資料については、消費者庁のウェブサイトで公開されているのでそちらをご覧いただきたい。
ここではそのポイントについてごく簡単にまとめた。
(1) 「栄養表示制度の海外の研究事例~Consumer Scienceを踏まえて~」(名古屋文理大学 清水俊雄教授)
消費者に正しい情報が提供され、自らの判断に基づき選択できるようになるためには、Regulatory Scienceとともに消費者の行動と嗜好を評価分析するConsumer Scienceがあり、EUで注目されている。この研究の中に、栄養成分を理解するには、正面に信号表示+総合スコア表示が見やすいとする消費者テスト結果がある。
(2) 「事業者の栄養成分表示制度の活用状況と「義務化」への課題・問題点」(食品産業センター 塩谷茂委員)
食品産業センターが行った食品企業の取り組み状況アンケートを紹介。食品企業は栄養成分情報について積極的に情報提供しているものの、その実態は一部の商品のみであり、義務化表示された場合には表示可能な商品は大企業で3割、中小企業では2割にとどまる現状である。栄養成分表示が義務化された場合、分析費用負担の増加はもとより、包装表示スペースが限られるためわかりにくくなる、といった課題がある。また、原料、配合の変更や製品ごとのばらつきにより数値が変動しやすく、表示してもその数値の正確性を担保できない。
(3) 「栄養成分表示制度の運用~制度の実効性について~」(日本チェーンストア協会 仲谷正員委員)
会員企業のアンケート調査を紹介。消費者への聞き取り調査によると、食品表示のうち、栄養成分表示に注意していると答えたのは16%。栄養成分表示の記載は弁当惣菜関連に対して期待しており、参考にしている栄養成分はエネルギーとナトリウム、脂質である。また弁当・惣菜の栄養成分表示の誤差を調査したところ、計算値と実測値、個体間でかなりばらつきがあることがわかった。栄養成分値の正確性の担保が難しい生鮮食品や弁当・惣菜をどう扱うか、参考値としての表示の検討も必要。
(4) 「日本生協連の栄養成分表示についての取り組み」(日本生活協同組合連合会 鬼武一夫委員)
生協連ではこれまで可能な限り栄養成分表示を行い、食塩相当量や糖類の表示、一食量あたりの栄養成分表示を原則としてきた。また摂取目安としては、かつて「日本人の栄養所要量」に対する割合の%表示、棒グラフ表示をしてきたが、2005年、食事摂取基準が策定されたことから、%表示は適切ではなくなり、今では行っていない。また現在は、一食量の表示の運用を改めることも検討している。これらの経験に基づき、栄養成分表示の義務化については問題であるという意識をもっており、目的を明確にしたうえで慎重に検討する必要がある。欧州委員会では義務化について議論は煮詰まっておらず、海外の事例を十分調査して、できるもの、できないものを明確にしたうえで、論点整理をしてもらいたい。
(5) 「自治体における栄養表示基準制度の運用の実際」(東京都 渡部浩文委員)
東京都における監視指導の実態、表示の正確性を担保するための取り組みを紹介し、法令整備に併せて監視指導体制の整備が急務であり、明確な制度づくり、検査体制の整備が課題である。
(6) 「コーデックス「栄養表示ガイドライン」の改定に関する討議の経緯~ 表示成分の拡大と義務化 ~」(ILSI JAPAN 浜野弘昭委員)
現在検討中のコーデックスのガイドラインについて、直近の第38回食品表示部会(2010年5月開催)の概要を説明した。トランス脂肪酸の表示については、摂取状況が国民衛生上懸念される国にあっては、栄養表示においてその表示を検討することとしているが、合意はされていない。また、栄養表示の義務化については、最終的には国が決めるものとして、義務化の課題がいくつかあげられた。コストとベネフィット、消費者教育を誰の責任でやるか、実施にあたっての諸問題の整理がなされなければならない。また表示の読みやすさいついて、信号表示などいくつかが議論の対象となったが、それぞれの国の消費者の理解度に相違があり、国別に決めることがいいとして、形式、順序、大きさ、みやすさ、単位についてそれぞれ考えるべきということになっている。
○意見交換
ヒアリング後、座長が「今後の論点として、栄養成分表示は義務化か任意か、単位はパッケージかサービングか、教育は誰がするか、分析は計算値か実測値か、表示対象は絞るべきか、わかりやすさをどうするか、様々な検討課題がある」として、意見交換が行われた。当日委員から述べられた意見を発言順に紹介する。
・ 表示の数値は、実際の数字に収まっていることを担保するものだが、弁当や外食は難しい。しかし消費者にとってこれらのニーズは高く、大まかな目安がほしい。実際の数値がプラスマイナスで20%以内に入らないというような実態があるので、あくまでも目安ということを前提に制度をつくり、消費者がその数値の意味を認識してもらうことが大事ではないか。そうであれば多少の誤差があることを許容できるのではないか。消費者も学んでほしい。また、色分け表示については、それがほんとうにいいのか。カロリーや脂質の数字は、Aさんにとってはグリーンだけど、他の人は違う。まずは賢い消費者を作ることが最優先で消費者教育が大事。そのうえでコミュニケーションが大事である。
・ 事務局の説明によれば加工食品は7割が表示されているというが、実際に地方の特産物はほとんど表示されていない。本当に何%が栄養表示されているのか、それによってこの先の議論の展開が異なる。
・ 消費者が望んでいるのは多様なので多くの表示、かつ正確な表示を望みたい。日本人として摂取した方がいいものは何か、控えたものは何か、そういう根拠もほしい。消費者は表示の正確さはもちろん、健康に役立つ情報もほしいと思っている。
・ 国によって栄養素の順番も異なり優先事項は異なる。まずはその優先順位の確認も必要。
・ 表示は何を目的とするか、健康増進である。各国によって状況が違う、過剰のもの、不足のもの、最大公約数のもので、認知すべき栄養素を決めるべき。
・ 生活習慣病が増える中で、未然防止のための情報提供として望ましいものは何か。病院の中の栄養指導をしている方の意見も聞きたい。
・ 義務化になると一部の製品しか表示できないという調査結果がある中で、現状では義務化は厳しく、表示の数値の担保が困難である。
・ 現在の任意表示を基本に考えて進めたほうがいいし、現実的だろうと思う。コーデックスで提言があるならそれに加えて新たに入れたらいい。そういう流れを汲みながら、より良い任意表示にしたらいいのではないか。今を基本の成分にプラスαの考え方が実効可能性があるのではないか。
・ 三つ考えなくてはならない。国の狙い、何を目的か、飽和脂肪酸が問題ならそれを加える。もう一つは実施可能性。もう一つは消費者のニーズ、今日の仲谷委員の話で消費者ニーズとしては成分表示はエネルギー・ナトリウム・脂質があり、対象は外食・惣菜・弁当である。表示制度の狙いを整理しないと、話が進まない。
・ 大変多くの意見がでているが、栄養成分表示は何のためにするか、国民の健康のため、生活習慣病予防、食の安全安心、がある。現在任意の5成分、これを最低表示項目として、義務化する方向で考えるというのが基本スタンスではないかと思う。また実測値か計算値かという問題は、義務化した場合にすべて実測値にすると中小企業が対応できない可能性がある。そういう意味で、計算値で対応する余地も残しておいたほうがいい。世界的にも欧米諸国でもそうである。中小企業の場合は、費用対効果をしっかり考える必要がある。義務化した場合の20%のバリアがあるが、ここをどうするか、過剰摂取するとまずいもの、欠乏するとまずいもの、この数値を勘案する必要があると思う。さらにポーションサイズ、100g表示など単位はどうするか。消費者教育などいろんな問題がある。
・ (事務局説明)現行の表示で、任意でも今の基準に収まっていなければ、違反になる。現状の表示でも20%以内に収まっていなければならない。
・ 制度の実効性として、東京都のような検査体制をもっているところはない。したがって表示が適正かどうか確認できないのが問題。検査、データを伴わない取締りで、本当に正しいのかどうか不安がある。年に一回、国立栄研が、収去していているが、唯一これだけである。任意でも義務でもモニタリング体制を強化しないと、信頼度が弱くなる。
・ 義務化について事業者にとってコストにデメリットがあり、レギュレーションとしても難しいということが、今回の議論で非常によくわかった。ベネフィットについて見えづらい。まず義務化ありきというよりも、段階的な目標を踏んで検討した方が妥当ではないか。
・ 義務化されている国で、どう実効性を担保しているのか興味がある。一つの国でもいいので、どういう形で制度を担保しているのか、わかる範囲で示してもらいたい。
○消費者庁事務局より今後のスケジュール
検討会について、本日まで3回にわたって各委員からの発表、関係者からのヒアリングとして論点の整理をして頂いた。今後は、次回第5、6回で論点の整理を行い、7、8回で報告書を取りまとめる。次回はもう一度、栄養成分表示がなぜ必要であるのかというところに舞い戻って栄養成分の位置づけ、さらに表示が必要な栄養成分についての考え方をご議論頂ければと思っている。その際に国民の健康増進からの必要性は必ず出てくると思うが、この検討会でも何度か指摘あったわが国の健康栄養政策の食生活指針や健康栄養21について紹介させて頂く。
これらの施策は厚生労働省で所管しているので、できれば厚生労働省にご出席頂ければと思っているが震災対応に追われているので時間が合えば、ということになる。
さらに佐々木敏委員、赤松利恵委員にお願いしている国民健康栄養調査の再分析にこの時間に間に合えば参考にさせていただきたい。栄養成分表示がなぜ必要かということについて、国民の健康増進の観点からの必要性についてさらにご議論頂く。他に何か必要性について考えることがあるのか、たとえば消費者の商品選択という観点からの必要性があるのかどうか、今日も議論があったが現在の制度が任意であるということで何か足りない部分があるのかご議論頂ければと思う。
もう一つの大きな議論として、栄養成分表示は誰のためのものなのか、もう少し詳しくご議論していただきたい。これはやはり国民全体にとってわかりやすい栄養成分表示であるべきなのか、あるいはこのような表示を読み取る力を持っている人、健康に対する意識の高い人、健康や栄養情報を必要としている人をターゲットにしていくべきなのか、もう少し議論をして頂いて、この表示のあり方について考えていければと思っている。続いて第6回の議論について、これらの加えて制度設計に向けた課題ももう少し議論していければと思っている。本日は執行について議論してもらったが、効果的な執行のあり方、あるいは表示の適用範囲、誤差などの考えについて議論を頂いて、これら論点について報告書をとりまとめたい。
(FOOCOM事務局ちょこっと感想)
一昨年前、福島みずほ消費者担当大臣の鶴の一声で始まったトランス脂肪酸表示の検討から、栄養成分表示の見直し議論は始まった。今回は8回の議論のちょうど折り返し地点である。
この検討会は、来年度から開始される食品表示の一元化に向けて、栄養成分表示の義務化を固める布石として位置づけられている。と、思っていたのだが、今回「義務化は無理です」という意見が相次いだ。「無理です」とする対象品目をどう分ける?分けない?先は見えるようで、見えない。
九州大学農学部卒業後、食品会社研究所、業界誌、民間調査会社等を経て、現在はフリーの消費生活コンサルタント、ライター。