科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

斎藤くんの残留農薬分析

チンゲンサイから基準値を5倍超えるメタミドホスを検出

斎藤 勲

キーワード:

 国内で事故米のメタミドホスが基準の2倍(0.02ppmだが)で騒いでいる時に、メタミドホスが5倍!しかも2.7ppm! 検出されたという報道があった。事件の概要をかいつまんで説明すると、山口県の農協支所直売所のチンゲンサイから、基準を超える農薬アセフェート10.9ppm(残留基準5.0ppm)とその代謝物メタミドホスが2.7ppm(基準0.5ppm)が検出されたというもの。原因は、殺虫剤アセフェートを誤って1.5倍の濃度で使用し、しかも散布後4日後から出荷したためという。農協が自主回収を進めている。本当は、普通に使われる有機リン剤アセフェートを使ったが、使い方が悪くてアセフェートも代謝物のメタミドホスも基準を超過してしまったと報じてほしかったが、農薬の誤使用の問題と販売形態のリスクを考えさせてくれる報道でもあった。

 山口県の農協支所で開かれた百円市で保健所が収去したチンゲンサイ3袋から、アセフェートとメタミドホスが基準値を超過した検出された。原因は、ある1軒の農家(チンゲンサイは1a栽培)がアブラムシ駆除に農薬アセフェート水和剤(アセフェート50%)を散布したが、誤って1.5倍の濃度(通常1000倍希釈)で使用し、しかも散布後4日後から3日間、一袋220g入りを37袋出荷した(散布後21日間は収穫できない)。農薬の適正使用の行政指導し、同じ生産管理のチンゲンサイは出荷停止と廃棄した。

 チンゲンサイは水で洗って油でいためて食べるので、ある程度の残留農薬の減少は考えられるが、そのままでの健康影響をメタミドホスに絞って考えると、体重50kgの大人が1回に55.5g以上食べて、急性指針値(ARfD)に達する濃度となる。

 事故米のkg単位の話と比べると50g程度なら現実味のある話となる。山口県生活衛生課の報道発表の中に「55.5g以上食べると健康に影響を及ぼす可能性があり、症状としては倦怠感、違和感、めまい、軽度の運動失調などが現れることがある」とあるが、法律違反なので回収するもののこのレベルでは安全係数も掛けてあり健康影響はまず起きないだろう。事故米のレベルでは何をか言わんやである。

 08年4月10日の本コラムでも書いたが、メタミドホスは国内では使用できない農薬である。一般的によく使用されるアセフェートが土壌、植物体内で簡単に脱アセチル化してメタミドホスに変化するのは化学としては常識的な部分である。その残留濃度は作物によりさまざまだが、コラムで説明したネギでは散布後3日目程度ではメタミドホスが高い濃度の事例もある。通常検査での残留レベル(0.05ppm位)では、概ねメタミドホスはアセフェートの濃度の4分の1位のレベルが多い感覚である。

 ウリ科のキュウリやニガウリなどの散布残留試験では、メタミドホスの残留レベルは対アセフェート比で10%以下(一部20%)という報告もある(日本農薬学会誌30巻145頁、2005年)。アセフェート、メタミドホスの残留基準の比は5.0ppmと0.5ppmなのでメタミドホスの基準は10分の1で、キュウリなどウリ科植物では妥当な基準比となる。

 しかし他の作物ではその残留比はメタミドホスが高いものもあり、ひょっとしてアセフェートが基準ぎりぎりの残留であった場合、メタミドホスが基準超過という事例が起きないとは言えない。実際は、通常の希釈倍数と散布後収穫までの日数をきちんと守っていれば、基準値をかなり下回る残留値となり、問題となる話ではないが。

 もう1つ厄介なことは、販売形態のリスクである。今回は農協支所の直売所で開催されている百円市で保健所が収去したチンゲンサイで、食品衛生法の残留基準を超える農薬が検出された。実は06年ポジティブリスト制度が施行される前に農協関係者の方たちと話をする機会があり、その時心配していたことである。

 そもそも論として、農協が全農業生産者を把握しているわけでもないが、それでもいろいろな規模の生産農家が農協と関連を持って農業を営んでいる。ある程度の規模のある農家やグループならば、農薬の適正使用、散布履歴管理は当然なされるから心配したことではない。農家も高齢化するなか、適正管理が難しい農家も当然ながら存在するし、いろいろな新しい農薬が出てきて、使う農薬の種類が多くなると必然的に使い方を間違えることも発生する。しかも、そういった野菜や果物が少量生産品を扱ってくれる青空市や今回の百円市のような場所に陳列される可能性が多くなる。

 地産地消や顔の見える商品ということでそういったものがうける時代でもある。しかし、どこまで農協として管理できるか悩みの種でもある。その悩みの種が今回は発芽してしまったということだろう。

 これを機会に、もう一度人気の高い青空市などへ出荷される農家の方の農薬適正管理を、皆が責任を持って温かく監視していく必要があるだろう。生産者にとってはせっかくの楽しみでもあり、生活の大切な手段でもあるこの仕組みを、食品衛生法違反でむざむざ壊してしまう愚挙は皆で避けるようにしたいものだ。

 次回は、少しは進展しているかもしれない中国産冷凍インゲンについて書いてみたい。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)