斎藤くんの残留農薬分析
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
11月8日付けの「松永和紀のアグリ話」で松永さんが、コープこうべの農薬問題への取り組みを紹介していた。文章の最初は「悪名高き残留農薬10分の1ルール」と運用の仕方にややけなし気味の調子の文体であるが、最後はコープこうべ、生協への褒め言葉で終わる、いわゆる読ませる人を納得させる文章であった。その中で、“今後の強化点として「食品の安全」「良好な品質」と共に「生産者の安全」「環境への配慮」も明確にしたことだ。”と書いてある。となると、うち(東海コープ)が2000年からやっているタイトルの「栽培自慢」を紹介させていただきたくなるのだ。
生協は長い歴史を持った活動体である。特に、添加物問題や残留農薬問題ではそれなりの社会的インパクトをもって活動してきた(新参者の私でもそう思う)。食品中の残留農薬問題が久しく議論される中、70年代に少しでも安全・安心な農産物をとの思いから、消費者である組合員が生産現場や生産者の努力を見ながら、お互いの立場を理解しあい交流を深めてきている。90年代も「顔の見える産消提携活動」は進めていたが、農産物の品質を適正に評価する仕組みは持っていなかった。農水省のガイドラインはあったが、その高いハードルを越える産物は果物などではほとんどなかった。
しかし、生産者が「土作り」などさまざまな工夫を行って農薬の使用を減らしている努力を、組合員にきちんと伝え利用を増やしていくことで、生産者の頑張りに答えていくための任意表示として、認証制度を2000年に発足した。生産者との協議を経てできた「栽培自慢」である。スタート時点では168件の認証件数も、現在は約270件と増加して、コメでは50% 野菜25% 果物30%と、組合員の支持も受けている。
02年の中国産冷凍ホウレンソウ残留農薬事件、無登録農薬使用問題を経て、農薬取締法や食品衛生法が、ポジティブリスト制度などにより、その仕組みを大きく変えてきている。しかし、私たち(残念だが当時はまだ生協にいなかった)は、「栽培自慢」という栽培管理の仕組みを先取りして作り上げてきたと自負している(実際のところ、ポジティブリスと制度までは読めていなかった)。
認証の内容は、「農薬削減(散布軽減、残量削減)」「環境配慮」を下に、化学合成農薬と化学肥料を努力して減らしていることと、それらが書面(自主管理とトレーサビリティ)できちんと管理され分かるようになっていることを基本としている。有機栽培(JAS法)、特別栽培のほかに任意表示(東海コープの自主基準)として、農薬削減も地域慣行栽培の使用回数の10%以上(この場合はほかの条件あり)から農薬を使用しない栽培までと千差万別である。現状では30%減、50%減が主流であるが、果物などでは10%減(実際は30%に近いがその間がないため)のものも結構ある。
毎週の生協の注文案内に、4ページにわたり約100種類の野菜果物が陳列してある(最近全体的に紙面作成が上手になってきている)。地場産だけではなく北は北海道、南は九州から毎日商品が運ばれてくる。そうすると、同じホウレンソウでも「栽培自慢」のものと、そうでないものが並ぶ。「栽培自慢」の方がやや価格が高いものが多いが、それでもそちらのほうが注文点数が多かったりするのは、組合員がそれなりに理解し生協を信頼してくれているのだと思っている。ありがたいことである。
05年度に商品安全検査センターで約600件弱の農薬検査を行った。35%の農産物から何らかの農薬残留が見つかっている。果物のほうが検出率は多い。生産者の努力の結果当然ではあるが「栽培自慢」商品のほうが一般栽培品に比べて農薬の検出率は低い。また、検出された農薬残留濃度は約9割が国の定めた基準の10分の1以下(50分の1、100分の1も多い)である。ここにも生産者の努力が結果として現れている。
「コープこうべ」の記事で問題となった「悪名高き残留農薬10分の1ルール」であるが、これは初めの基準にすべきことではないし、押し付けるものでもない。今まで説明してきたような全体的な活動があって、その結果として10分の1という数字は自ずと出てくるものなのである。
農薬に対しては(実際はそうではないと思うが)まだまだ漠たる不安は多い。その時、消費者として自分の身を護るのに何ができるか。それは農産物を作ってくれる生産者を如何に理解し支援できるかにかかっていると思う。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)