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執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこれからどうなっていくのだろう?

斎藤 勲

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食品中の残留農薬分析法は大きく2種類に分けることができる。ある特定(1種類又はグループ)の農薬を対象とする単成分分析法と、多くの農薬を対象として分析を行う多成分一斉分析法である。多くの人は残留農薬分析法というと、後者を思い浮かべるだろう。

確かに食品衛生法の残留基準の検査では、多成分一斉分析法で基準のある農薬、基準のない農薬(一律基準対象)をひっくるめて分析しているし、一つの農薬がそれぞれの食品に様々な基準を持っている法体系ではこの方法が一番適している。多くの地方自治体や検疫所、農業関係、大手の食品メーカーや物流関連企業ではこの方法で食品の安全性を確認している。それでは、前者の単成分分析はマイナーなのかというと、そうでもない。

検疫所などでは、日常的なモニタリング検査(多成分一斉分析法)で基準超過が発見されると、検査頻度を30%に上げて検査して、基準超過があれば命令検査に移行し、輸入業者が各ロットごとに違反農薬について事前に登録検査機関で検査を行う。ここで適正を証明された検査成績書を添付して輸入申請をする必要があり、登録検査機関などの大きな収入源となる。

多成分一斉分析では多くの機関で食品衛生法のコンプライアンスの観点から広く分析が行われているが、行政機関を除き自主検査の場合は、まさに自主的に自分の商品の安全性を確認する作業である。事件や事故が発生すると検査機関はてんやわんやの状況となるが、最近のように残留農薬に関して大きな問題もなく社会の関心も低下し、フードプロセスチェーンがそれなりに機能してくると違反はまれな状況だ。となると、どうなるか。経費削減から、検査の外注と検査件数の縮小である。

●雑賀技術研究所の「残留農薬分析サービス終了のお知らせ」に驚き

そんな中、和歌山にある雑賀技術研究所が今月末をもって残留農薬分析事業を終了することがホームページに掲載された。

そこには「近年では一斉分析技術の普及や企業 のリスク管理体制の整備が進んだことから、社会における分析サービスの需要は減少し、弊所が担うべき社会的役割も失われつつあると感じております。」と分析を辞める同じ理由が書いてある。残留分析関係者の間では、驚きをもって受け取られている。

雑賀技術研究所は、無洗米機や、近赤外分析法を利用して連続的に糖度をはかるシトラスセンター等が有名だが、残留農薬分析でも存在感のある組織であった。1996年頃だったと思うが、私がまだ衛生研究所にいたころ、雑賀から一通の封書が届いた。それは残留分析にかかわるアンケート調査で、残留分析の立ち上げを考えており、分析法やどんなものを分析しているか等を聞かれて返信した記憶がうっすらある。その後、実際に残留分析をスタートさせると、従来の個別分析、グループ分析から一斉分析法「MAPS(雑賀農薬一斉分析法)」を立ち上げ受託分析を行うなど、注目度の高い分析会社となった。

さらに2003年には中国山東省青島に青島食品安全研究所開設に技術協力して、当時課題となっていた中国の輸入食品問題も含めて、分析で積極的に関与されたことは今でも記憶に新しい。残留農薬問題が社会問題となる中、多くの分析機関が発足し、業務拡大をして需要に対応してきた。そういった面では平成の30年間は食品中残留農薬分析の全盛期だったかもしれない。

●残留農薬分析の関心の低下が招くのは…

この10年くらいフードチェーンをはじめ品質管理の仕組みづくりが進み、生産現場での農薬管理もすすめられ、イレギュラーによる一律基準違反などはまだ散発するが大きなトラブルは発生せず、食品メーカー、取引業者の残留農薬に対する危機感、対応は当然低下してきた。輸入食品検査の検疫所を含め違反事例にかかわる登録検査機関の命令検査等限られた需要はあるが、以前のような食品メーカー、取引業者が積極的に残留農薬の検査を行う頻度は下がってきた。

当然、食品中残留農薬分析の窓口を開いていても閑古鳥が鳴く場所も出てきた。こんな状況では競争入札で頑張っても赤字が積み重なる機関も出てくるし、機器の更新もできない悪循環に陥る。

そんな厳しい状況の中、雑賀技術研究所の告知である。他の食品分析や問題のあるアレルギーの検査は積極的にされるようだ。食品分析の中心的存在であった農薬分析が座を退いたということか。

しかし、食品中残留農薬分析はフードチェーン管理の重要な柱であることを忘れないでほしい。品質管理は現場マニュアルと圃場管理、品質管理チェックなど文書管理・点検で日常は成り立っているが、人がやることにはヒューマンエラーや捏造はつきものである。検査結果は正確に対象物質の状況を反映するので、その適正な分析結果をきちんと評価できる体制があれば、早めの対応でむしろ信頼アップにつなげるレベルの高い品質管理が可能となる。自社販売商品の分析で微量の残留農薬が検出された時、問題のない数値でもそれを基にその商品のトレーサビリティーを行ってみると、フードチェーンがしっかりしていれば、海外原料でも何時どの圃場で散布された農薬が検出されたのかは確認できるはずだ。

顧客からのお申し出の声と、適切な分析対応を基本に据えているところなら、結果として食品の事故・事件などで信頼をなくし、かつ無駄で大きな出費をすることはないと信じている。

執筆者

斎藤 勲

地方衛生研究所や生協などで40年近く残留農薬等食品分析に従事。広く食品の残留物質などに関心をもって生活している。

新・斎藤くんの残留農薬分析

残留農薬分析はこの30年間で急速な進歩をとげたが、まだまだその成果を活かしきれていない。このコラムでは残留農薬分析を中心にその意味するものを伝えたい。