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執筆者

近田 康二

食肉加工メーカー、養豚企業勤務、食肉・畜産関連の月刊誌等の記者を経て、現在はフリーの畜産ライター。

知っておきたい食肉の話

「シャルキュトリー」ってなに?

近田 康二

キーワード:

ソーセージや生ハム、サラミもシャルキュトリーの仲間

フランスで食肉加工・調理食品全般を指す「シャルキュトリー」が日本でも普及しつつある。数年前からフランス料理店でメューとして定番化するところが出始め、最近ではジビエや熟成牛肉を提供する高級焼肉店でも「シャルキュトリーの盛り合わせ」がみられるようになってきた。

手づくりソーセージ店でブータン・ブラン(白いソーセージ)やブータン・ノワール(血のソーセージ)、ジャンボン・ド・パリ(ボンレスハム)、パンに塗って食べるリエットを品揃えするところも珍しくないし、シャルキュトリーを全面にうたう店舗も登場している。

各種パテの盛り合わせ

これまで日本のハム・ソーセージなど食肉製品はドイツ製法のものが主流を占めていたが、フランスのシャルキュトリーに加えて、イタリアのサルシッチャ(粗挽きソーセージ)、スペインのフエ(白カビサラミ)などがレストラン、高級スーパーで提供、販売されており、食肉加工品のバラエティ化が進んでいるといえる。

●シャルキュトリーcharcuterieとは

シャルキュトリーcharcuterieとはフランスにおいて食肉加工品全般の総称。chair(肉)+cuite(火を入れる)が語源といわれる。冒頭にあげた製品のほかハム、ソーセージ、パテ、テリーヌ、生ハムなどが代表的なアイテムで、原料の中心は豚肉だが、猪や鹿などジビエ(狩猟で得た天然の野生鳥獣肉)などを使うこともある。これらを販売する店もシャルキュトリー、加工の技術を持つ職人がシャルキュティエcharcutierと呼ばれている。

これにかなり近いのが近隣国にあり、イタリアではラテン語のサルsal(塩)から派生したサルメリアsalumeria、南ドイツではメッツゲライmetzgerei 、法律的にはフライッシュライfleischereiと呼ばれ、職業として認知されている。

「サルメリア」は生ハムなどを売っている店をいい、メッツゲライあるいはフライッシュライは家畜を屠畜して精肉とハム・ソーセージなどの加工品を作る食肉販売店のことをいう。フランスではシャルキュティエより若干取り扱う範囲が狭いレストランの料理人がメニューのひとつとしてシャルキュトリーを作ることもある。

フランスにおけるシャルキュトリーは、塩漬けや乾燥、燻製などにより肉の保存性を高める手段として発達し、その歴史はギリシャ時代までさかのぼるといわれている。材料は、「塊肉」、「挽き肉」、「内臓および血」と大きく3つに分類され、製法もまた、「非加熱」、「加熱」、「発酵・熟成」、「燻製」……と数タイプに分かれる。その組み合わせの数だけシャルキュトリーは存在すると言ってもよい。職業としてなかなか確立しなかったが、15世紀に豚肉を加工して販売する職業がシャルキュティエとして認められ、16世紀には豚のと畜も認められるようになった(現在は行わない)。

現在、フランス国内では品質認証の証明書も発行され、また作り手の腕を競うコンクールも開催されている。フランスの食肉加工品としてのシャルキュトリーは450種を超え、その数はフランス食文化を代表するフロマージュ(チーズ)と肩を並べる。

●日本シャルキュトリ協会の活動

日本のシャルキュトリー普及に向けて大きな牽引力となっているのが、6年前に設立された「日本シャルキュトリ協会」(クリストフ・ポコ会長=「ルグドゥノム・ブション・リヨネ」のオーナーシェフ)。ホテル・レストランの調理人などプロ向けセミナーや愛好者のパーティを企画するなど活発に活動を展開する。

「日本では、まだ十分普及しているとはいえず、『シャルキュトリー』の言葉を知る人も少ない。これからの日本の食文化をより豊かにするために、フランスのシャルキュトリーの文化を紹介し、国内に広め、フランス本国との食文化交流を深める」ことを目的として、2013(平成25)年7月に設立された。フランス大使館公邸で行われた発足式にはクリスチャン・マセ駐日フランス大使(当時)も駆けつけ、盛大に門出を祝った。

協会ウェブサイトによれば、具体的な活動として①フランスから講師を招聘してのプロ向けセミナー、②一般向けレシピセミナー、③パーティの開催、④情報発信(Webサイト、facebook)などを実施し、シャルキュトリーの普及・定着、拡大に向けた事業を行っている。

パテ・アンクルート

今年度の大きなイベントがプロ向けの「パテ・クルート世界選手権アジア大会2019」。日本国内でシャルキュトリーを作り、販売している人 (レストランや製造販売店のシェフや職人など)が対象。

パテ・ド・カンパーニュ

「パテ・アン・クルート」(Pâté en croute)とは、パテをクルート(パイのようなパリッとした皮)で包んで焼いて仕上げたもの。シャルキュトリーの中でも古典的かつ最もガストロノミックな(料理としての格が高い)「パテ・クルート」は高い技術とセンスを要するシャルキュトリーのひとつといわれており、これの製造技術を競うもの。今年で5回目の開催となる。

年々参加者が増え今年は70を超える応募があり、提出されたルセット(作り方)、 材料表、パテ丸ごとと皿盛りの写真による第一次審査が7月16日に行われた。「パイ生地(クルート)、ジュレ、ファルス(詰め物)の3つの要素が審査評価対象になるが、今年はさらにレベルがあがった印象がある」(事務局)という。審査した結果、12人のファイナリストが選ばれ、10 月 2 日にフランス大使公邸で行われる決勝に臨む。表彰式の後はスペシャル・ソワレ(レセプション)も予定されている。

優勝者は12月にフランスで開催される「パテ・クルート世界選手権2018」にアジア代表として出場権が与えられる。昨年の世界選手権では時田啓一氏(品川プリンスホテル)が準優勝に輝いき、一昨年は塚本治シェフ(セルリアンタワー東急ホテル)が審査員特別賞を受賞するなど、日本人の技術レベルの高さが評価されている。

●各業態からシャルキュトリー分野へ参入

こうした活動もあって、さまざまな分野の業態からが相次いでいる。フランスから輸入される生ハムやサラミなどのシャルキュトリー、日本の食肉加工メーカーが作るシャルキュトリー、手づくりソーセージ店のシャルキュトリー、レストランのメニューにあるシャルキュトリーと多様な商品が存在する。以下にシャルキュトリーを提供する特徴ある企業、店舗を紹介する。

フランス伝統菓子の第一人者として知られているオーナーパティシエ 河田勝彦氏の店舗「 AU BON VIEUX TEMPS 」( オーボンヴュータン 、有限会社かわた菓子研究所)が2015年4月、環状8号線沿いの東京都世田谷区尾山台に移転、グランドオープンした。新装なった店内には父親の作るスイーツに続く2.5mほどのショーケースには、パリのシャルキュトリー専門店で1年間修業してきた子息・河田力也さん(同社取締役)が作るブータン・ノワール(血のソーセージ)、ソシソン・セック(サラミ)、ジャンボン・ド・パリ、パテ・アン・クルートなどが並ぶ。売場脇にはイートインコーナーが設置されており、その場で食べることもできる。フランスでは菓子とシャルキュトリーが一緒に販売されることは珍しくないが、日本ではまだ馴染みがないだけに、初めてのお客はびっくりするのも無理はない。

養豚業からの参入する事例もある。岩手県二戸市で「折爪三元豚・佐助」を生産する久慈ファーム(母豚400頭規模)も6年前からシャルキュトリーの製造・販売に取り組み始めている。専用工場を建設、久慈剛志社長自らフランスに研修に行き、パテ・アン・クルート、フロマージュ・ド・テッドなど商品力を増強。現在十数アイテムを数える。ネットで販売する一方、東京で開催の外食向け展示・商談会への出展、百貨店の催事の出展など営業活動も活発化させている。

吉田さんが執筆した「シャルキュトリーの本格技術」

京都の「シャルキュトリーリンデンバーム」(京都市左京区東丸太町)の店主・吉田英明さんは京都でレストランを経営していたが、10年前にシャルキュトリー専門店に業態を替えた。ヨーロッパで修業した吉田シェフが手作りするのは、仏・アルザス地方仕込みのシャルキュトリー。季節食材を取り入れながらクオリティの高い商品を作るため研究を重ねており、日本シャルキュトリ協会主催の 第1回フランス・シャルキュトリコンクールではトップの成績で金賞を受賞した実績もある。吉田さんの技とセンスの集大成ともいえる教本「シャルキュトリーの本格技術」が今年1月に旭屋出版から出版。後に続くものへのノウハウ公開も惜しまない。

芦屋店(兵庫県芦屋市宮塚町)と六甲道店(兵庫県神戸市灘区高徳町)の2店舗を展開する「メツゲライクスダ」もシャルキュトリーのテイクアウト店。ヨーロッパ各地で修業を重ねた店主・楠田裕彦さんが工房で手づくりする、ソーシスフュメ(スモークソーセージ)やテリーヌのほか店内で調理する日替わりのフランス総菜(トレトゥール)もショーケースいっぱいに並べる。

「La Boucherie Goûtons 」の店頭に立つオーナーシェフの郷卓也さん

芦屋店ではイートインも設置。2013年フランス国内の最優秀シャルキュティエ(肉食加工品職人)を決める「concours Chefs charcutier-traiteurs」に特別招待選手として出場している。

「おいしい豚肉料理」を提供するビストロ「La Boucherie Goûtons (ラ・ブーシュリー・グートン)」(東京都中央区日本橋富沢町)はオーナーシェフの郷卓也さんがフランスで2年、国内で17年修業後、2015年5月に独立し、オープンしたレストラン。人形町と小伝馬町の中間、下町の雰囲気が残る地域で、「フランス修業中に感じた“日常に溶け込むビストロ”は日本と共通する街場の雰囲気……生まれ育った東京の下町から発信する”日常の中のビストロ”に気の合う仲間が集い、豚肉料理やシャルキュトリー味わって頂きたい」と郷さん。材料の豚肉はすべて国産、しかも満州豚、マンガリッツア、中ヨークシャーといった肉質の優れた稀少品種ばかり。静岡県富士宮市の養豚企業と契約 、骨付肉で1頭買いしているのが大きな特徴といえる。コスト的には有利だが、全部の部位を使い切る技術がなければできない相談だ。さまざまなシャルキュトリーを作ることができる郷さんならではの仕入方法といえる。「開店5年目を迎えるが、おいしい豚肉を入手できるメリットを活かして日本でももっとシャルキュトリーを広めていきたい」としている。

フランスでは規定書(CODES DES USAGES)に沿って作られるが、主原料の豚肉にも、副資材や添加物にも日仏の違いがある。日本人の舌になじみ、定着・進展するかどうかは見通せないが、一過性のブームに終わってほしくないと思う。最近のレストランにおけるシャルキュトリーの普及ぶりは目を見張るものがあるが、中には「これってシャルキュトリーっていえるの」といったものも散見される。それにしても、いまから30年前、おそらく日本で初めてシャルキュトリーを本格的に紹介する教科書「フランスのシャルキュトゥリ」(発行元:(株)食肉通信社)の編集に携わったものとして感慨深いものがある。フランス、ドイツ、イタリア、スペインなどバラエティに富む食肉加工品が出回ることで、食肉マーケットの活性化、ひいては豊かな食生活につながることに期待したい。

執筆者

近田 康二

食肉加工メーカー、養豚企業勤務、食肉・畜産関連の月刊誌等の記者を経て、現在はフリーの畜産ライター。

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