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執筆者

近田 康二

食肉加工メーカー、養豚企業勤務、食肉・畜産関連の月刊誌等の記者を経て、現在はフリーの畜産ライター。

知っておきたい食肉の話

三元豚や多産豚?豚の生産現場で起きていること(前)

近田 康二

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スーパーの精肉売場のPOPやとんかつ専門店のメニューで、よく見かけるのが「三元豚」の表示。何か特別な豚肉だと思われがちだが、日本国内で生産されている豚肉のほとんどが三元豚である。こう説明すると、「えっ、ほんと!高級ブランド豚肉ではないの?」と驚く人が少なくない。

今回は、知っているようで知らない豚の品種や繁殖の話題、いま大きく変化しつつある豚の生産状況の一端について2回に分けてお届けする。。

●3つの品種を交配させた「三元豚」

ランドレース雌:一社)日本養豚協会提供

大ヨークシャ―雄:一社)日本養豚協会提供

デュロック種雄:一社)日本養豚協会提供

日本国内で飼養されている種豚(繁殖用の豚、雌は母豚ともいう)の純粋種は、ランドレース(略称=L)、大ヨークシャー(ラージホワイト、W)、デュロック(D)、バークシャー(B)の4品種が大半を占める。

昭和40年頃までは中ヨークシャーが大勢をなし、昭和40~50年代にはパンダと白黒逆の色合いのハンプシャーという品種もいたが、生産性の低さや肉質面から日本では姿を消した。現在、食卓にのぼる豚肉は、これらL、W、Dの純粋品種同士を組み合わせて(交配して)生まれてきた豚(雑種)が多いのだが、どうしてわざわざ雑種にするのか。

その理由は、それぞれの純粋品種を組み合わせることで、それぞれの良い特徴を肉豚(にくとん=肉になる豚)に持たせようという考え方からだ。さらに、生物には雑種強勢(ざっしゅきょうせい)効果というものが働いて、純粋種よりも雑種の方が強健になるという要素もある。

雑種強勢とは、雑種である子の能力が、両親よりもすぐれている現象のことをいい、発育や強健性(病気のかかりにくさなど)といった形質にだけでなく、繁殖力にも効果があらわれる。親同士が遺伝的に離れていれば離れているほど雑種強勢は起こりやすくなることが分かっている。

各品種の特徴を具体的に挙げると、ランドレース(L)は、発育が極めて早く、子供をたくさん産み子育てがうまく、胴が非常に長いのが特徴。胴が長いということは商品価値の高いロースが長いことを意味する。大ヨークシャー(W)は、発育が早く、子供をたくさん産む品種。赤肉率も高い。そしてデュロック(D)は、発育がとても早く、味の良い赤身肉に特徴がある。L、W、Dの3品種を組み合わせて生まれてきた豚、つまり「三元交配豚=三元豚」は、親である3品種の良い点を受け継ぐとともに、雑種強制による強健性、繁殖性も併せ持つことになる。換言すると、早熟性・多産性を有し、哺育能力に優れ、おいしい豚肉が生産されるわけであり、「いいとこ取り」した豚といえる。

LWDの肥育豚

●「三元豚」のつくりかた

もっとも多い組み合わせはLWDだが、実際にどのように交配するのかというと――

まずLの雌とWの雄を交配してLWを生産する。このLWのうち雌を母豚(ぼとん)にDの雄を交配するとLWDが生まれる。LとWの遺伝子情報がそれぞれ25%、Dが50%の三元豚である。当然ながら雄も雌も生まれるが、いずれも肉用として約6ヵ月間肥育し、と畜される。ただし雄は肉質がやや硬く、独特の臭い(雄臭)があるため子豚のうちに去勢する必要がある。ちなみに最後に掛け合わせる雄(この場合D)を養豚業界ではその役割から「止め雄(とめおす)」と呼ばれている。

現在、LWDの三元豚は国内生産豚の7割以上を占めているとみられ、三元豚は「普通の豚肉」ということができる。もちろん、独特のエサや飼育管理方法で育てられている三元豚は「銘柄豚」や「ブランド豚」として扱われていることも多い。さらに、止め雄にバークシャーや中国系稀少品種の金華豚を使って、さらにおいしさを追求した肉質重視のブランド豚肉も存在する。

●「黒豚」は純粋のバークシャー

黒豚

一方、ブランド肉として人気の「黒豚」はどうか。これはバークシャーを「黒豚」として流通させる場合で、雑種にしない。バークシャーは他の品種と掛け合せてしまうと、本来もっている独特の肉質(細かな肉繊維、口溶けの良い脂肪など)が損なわれてしまうからだ。バークシャーは4本の足先、鼻先、尾の先の6個所が白いことから「六白」とも呼ばれている。バークシャーの飼養頭数は肉豚全体の5%程度と少なく、しかもそのうち7割が鹿児島県に集中している。

公正取引委員会および消費者庁長官の認定を受けて食肉業界が自主的に設定している表示ルール「食肉公正競争規約」でも黒豚として販売できるのは、純粋のバークシャーだけと定められている。

●豚肉自給率は50%前後

昭和40年度に100%であったわが国の豚肉自給率は、46年度の輸入自由化に伴い、増減を繰り返しながらも徐々に低下傾向で推移し、平成11年度以降50%台で推移していた。国内生産量は近年おおむね横ばいで推移しているものの、平成29年度は好調な豚肉需要や国産品からの代替需要などにより輸入量が増加したことから過去最低の49%。

増加する豚肉需要に国内供給が追いついていけない格好となっているのだが、この大きな要因は飼養戸数の減少である。これに歯止めをかけるのが難しいことからさらに生産性を追求した豚肉生産が喫緊の課題といえる。後編に、国際競争力を強化する手段の1つとして、高いスペックに育種改良された種豚の導入、人工授精を利用した繁殖成績の向上など生産性を追求した豚肉生産の現場を紹介しよう。

執筆者

近田 康二

食肉加工メーカー、養豚企業勤務、食肉・畜産関連の月刊誌等の記者を経て、現在はフリーの畜産ライター。

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世の中は空前の肉ブーム。でも生産や流通の現場はあまり知られていません。食肉一筋の畜産ライタ―が、お肉のイロハを伝えます