GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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現欧州委員会の5年間の任期は09年10月31日に切れるが、GMO関連案件は山積している。前欧州委員会が、任期切れ直前に大車輪でアジェンダ処理に邁進した先例もあるが処理手続き自体は厳格に定められているため、粛々と進めるだけというクールな見方もできるだろう。今回は、不協和音を発しながら回るEU最高意志決定機関の動きを追う。筆者の過去稿なども適宜ご参照下さい。
<GMOの輸入と栽培承認作業>
09年2月25日、環境閣僚理事会は、瑞SyngentaのBt-11と、米Pioneer Hi-Bred International社(米DuPont 社の子会社)と米Mycogen Seeds(米Dow AgroSciences社に帰属).の1507系統(Herculex-1)の栽培承認に失敗した。これらは、07年11月に欧州委員会Stavros Dimas環境担当委員(ギリシャ)が内乱 を起こした曰く付きの品種だ。
欧州委員会からの栽培承認提案を支持したのは、英国、スウェーデン、フィンランド、ルーマニア、スペイン、エストニアの6カ国(QMV:特定多数決方式の得票数91票)、反対はデンマーク、スロベニア、アイルランド、ギリシャ、フランス、キプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、ハンガリー、オーストリアおよびポーランドの12カ国(同127票)、棄権がベルギー、ブルガリア、イタリア、チェコ共和国、スロバキア共和国、ポルトガルおよびオランダの7カ国(同95票)、欠席がドイツとマルタ(同32票)で、賛否とも定数2/3(同255票)に達しなかった。
おっつけ欧州委員会はデフォルト承認するだろうが、現実的にMON810しか栽培が許されていない現在のEUの構図は歪だ。反対派が主張するMonsanto社の種子寡占を結果的に助長しているし、農家の種子選択や標的外害虫の圧力増など環境面からも好ましいことではない。
09年3月10日、欧州委員会は、独Bayer CropScience社の除草剤(グルホシネート)耐性GMナタネT45の食品・飼料への利用と輸入を今後10年にわたりデフォルト承認した。T45は、09年1月19日の農業閣僚理事会において賛成12カ国、反対14カ国、棄権1国(アイルランド)で承認に失敗していた。
これにより、今までブロックされていたカナダからのカノーラ(油糧種子)のEU向け輸出が解禁される。バイオディーゼルなどに一定の需要が見込まれるため、食用カナダナタネの大量輸入国である日本にとっては、輸入競合先出現でありがたくはないかもしれない。また、これを歓迎してのカナダ農家によるナタネ作付面積拡大が、コムギの栽培をさらに圧迫するシナリオもあり得るだろう。
ところで、EFSA(欧州食品安全機関)は、休むことなく新規GMOの安全性確認作業を続けており、承認プロセスの遅れは独BASF社などが訴訟を起こすほどの怒りを買っている。承認プロセスのレビューはありうるシナリオだが、希望する結果とは異なる方向に向かうリスクも高く、欧州委員会もうかつには手をつけられない状況だろう。
<加盟国のGM作物栽培禁止解除作業>
GMO承認作業以上に、欧州委員会が手こずっているのが、予防原則、セーフガードなどを楯にGMトウモロコシ栽培を禁止している域内各国に対するそれらの解除作業だ。WTO裁定とも絡んでくる問題なので、欧州委員会は米国などの顔色も見ながら、フランス、オーストリア、ポーランド、ハンガリーおよびギリシャなどの抵抗勢力一掃に躍起である。
加盟国のGM栽培禁止が認められるためには、科学的エビデンスを必要とされており、欧州委員会の諮問を受けたEFSAは、いずれの国にも禁止に足る科学的根拠はない、と個別に答申している。しかし、完全に敵対姿勢 に回った環境閣僚理事会のブロックに遭い、いずれのケースも難航しているのが現状だ。
09年2月16日、フランスとギリシャに対するMON810栽培禁止解除の欧州委員会提案を審議した食物連鎖と動物保健に関する常設委員会は、合意に失敗した。9カ国が賛成、16カ国が反対、ドイツとマルタが棄権した。この結果、案件は環境閣僚理事会へ移るが、同じ結果を辿るものと予想される。
なお、09年1月23日にフランス食品衛生安全機関(AFSSA)も、08年10月30日のMON810栽培禁止には科学的根拠がないというEFSAの意見を認めていることが明らかにされた。しかし、フランス政府はこれらを無視し続ける。09年2月9日付仏Figaro紙は、Nicolas Sarkozy大統領が自国の原発推進政策を推進する肩代わりにGM栽培禁止をトレードオフしたとの、かねてから噂のあった見方を掲げている。EUにおけるGMOは、常に政治なのだ。かわいそうなのはEFSAである。例えばヘルスリスクの方で、Ermakova博士のラット・スタディのようなジャンク研究の査定までやらされ、その評価があまり尊重されないのではたまらないだろう。
さらに、09年2月18日付Bloomberg紙は、ドイツもMON810の栽培認可を取り消すかもしれないとのドイツ農相のコメントを報道し、米Monsanto社を大慌てさせた。09年3月31日に政府が公表予定のMON810栽培に関するモニタリング報告書が鍵を握るらしく、この動向も注目される。
09年3月2日開催された環境閣僚理事会は、欧州委員会からの20日以内にオーストリア(MON 810と T25)とハンガリー(MON 810)のGMトウモロコシ栽培禁止措置を解除させる提案を否決した。欧州委員会提案を支持したのは、英国、フィンランド、オランダ、スウェーデンおよびエストニアの5カ国のみであった。欧州委員会の解除提案がはね返されたのは、オーストリアについては3回目、ハンガリーについては2回目になる。
<加盟国の共存法設置推進作業>
欧州委員会は、域内各国のGM国内栽培の鍵となるGM、在来、有機の3農法を共存させる措置の整備に関し、03 年7 月にガイドラインを発表した。欧州委員会のスタンスは、この問題を安全性から切り離し、農家の権利と経済性にフォーカスしており、各国の環境の固有性から共通の共存規則(法)を策定しない。
ガイドライン自体は法的拘束力を持たないが、各国が立案した法案に対しては欧州委員会のチェックが入る。27カ国中現在までに共存法を成立させているのは、オーストリア、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、ポルトガル、ルーマニア、スロバキア、スウェーデン、チェコ共和国およびオランダの15カ国に留まる。
オーストリアなどからは、共通の共存規則策定を望む声もある。栽培を禁止している国として一見矛盾した動きに見えるが、国内であまりに論争的な立法を避け、欧州委員会の外圧によって実施する、という免罪符が欲しいのだろう。欧州委員会内部にも、それを望む声もあるようだ。
しかし、共存政策の産みの親でもある欧州委員会Mariann Fischer Boel農業担当委員(デンマーク)は、共通の共存規則の困難さを熟知しており、まずこれには乗らない。来月には欧州委員会から各国共存法の実施に関する報告書公表が予定されており、同時にガイドラインに対する見直しも行われる、と09年3月13日付 Reuters は伝えている。
以上、3つのアジェンダを眺めてきた。欧州委員会のプロGMO姿勢を象徴しているのが、08年10月に域内のGMO受容を推進する全27カ国の秘密会議を組織したJosé-Manuel Barroso欧州委員会委員長(キプロス)だ。実は、Barroso委員長の再任という線もあるらしく、これに対し仏Sarkozy大統領が猛反発しているという。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)