GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
2007年7月20日、EFSA(欧州食品安全機関)GMOパネルから一通の声明が公表された。研究者・専門家にとっては常識だとしても、このGM飼料は畜産製品に影響を与えないという公的権威による声明はかなり重要な指摘だと筆者は感じたが、日本のメディアは無視(というか、おそらく気がつかなかったのだろう)し、海外報道でも専門紙的性格の媒体が当座小さく取り上げただけだった。8月3日になってようやくReutersがカバーしたので、今週はこれを取り上げる。
参照記事1
TITLE: No GMO from feed found in meat or eggs: EU agency
SOURCE: Reuters
DATE: Aug. 3, 2007
背景から眺めてみよう。EUでは、04年内に実施が義務付けられた欧州規則No.1830/2003により、0.9%を超えるGM成分を含む食品および飼料に対し表示とトレーサビリティの義務化が導入された。しかし、GM飼料を給飼された家畜や家禽由来の肉、乳、タマゴなどの畜産製品は表示義務対象外とされた。
これに不満を抱くGMO反対派はこれを欧州GMO規制のアナだと主張し、07年2月にはGreenpeaceが100万人分の署名を添えて畜産製品へのGM義務表示を求めるリ誓願を欧州委員会に提出誓願を欧州委員会に提出した。これを受けた欧州委員会は、飼料中のGM遺伝子やその発現するたんぱく質が、家畜の組織や乳畜産製品に移行する可能性についてEFSAに諮問した。今回のEFSAの声明はそれに対する答申である。
EFSAは19の個別の関連する研究を分析した結果、「今までの、家畜に対する多くの実験的研究が、組み換えDNAの断片あるいはGM植物由来のたんぱく質が、ブロイラー、ウシ、ブタあるいはウズラのような畜産動物の組織、液体または食用製品から発見されなかったことを示す」と、この可能性を明確に否定している。なお、参照された研究には、「プラスミド効果」を確認するものとしてGMO反対派に良く引用されるR. Schubbertらの一部研究(1997年)や、StarLink騒動の時、日本の科学飼料協会が農水省の委託で実施した組み換えDNA移行調査実験(02年)なども含まれている。
上記Reutersにはないが、EFSAはGM食品からのDNAがヒトによって吸収されるかどうかについても言及している。「GMダイズを摂食した健康な被験者の健常な消化系統を通過したあと、組み換えDNAは残存しなかった」「摂取後のDNA短片やペプチド細片への迅速な分解が動物とヒトの消化系統で観察される」。当然のことながら、手術なので胃腸を切除した(この部分を伏せてGMO反対派に良く引用される)被験者では、消化系統通過後にGMダイズの遺伝子を発見したという英国Newcastle大学の研究者らによる論文(04年)も参照されている。
EFSAのGMOパネルは、先月のCRIIGENによるMon863ラットスタディ再分析を一蹴したのに続き、Greenpeaceの社会的騒乱を狙ったプロパガンダとそれに踊らされる不見識な一部メディアを、科学的知見を武器に連続してブロックし存在感を誇示した形である。
さて、関連してEUの飼料需給についての経済的考察が、上記Reutersでは簡単になされている。EUの飼料製造業者が高たんぱく質の原料をダイズ(カス)やトウモロコシの米国などからの輸入に頼るから、非GMOの飼料を供給することは不可能だというものだ。
このことに関連し、日本やEFSAが安全性を承認・確認済みで米国では商業化されている米国Dow AgroSciences社と同Pioneer Hi-Bred社(DuPont社の子会社)のGMトウモロコシHerculex RWのEU承認(現在申請中)の遅れも、一部では大きな懸念材料となっている。07年5月には、Herculex RWを含む飼料が、アイルランドにおいてEU未承認GMOの混入として摘発されてしまった。
米国から毎年80万トンのトウモロコシ飼料を輸入しているアイルランドの穀物飼料協会や北アイルランド穀物貿易協会からは、アイルランド政府が欧州議会において、Herculex RW認可賛成を主導するよう、相次いで警鐘が鳴らされた。Herculex RWのEU承認の遅れは、09年までにEU域内での飼料価格を25%上昇させ、EUの畜産製品の輸出競争力を失速させるだろうという指摘である。
FoodScienceの読者は既にお気づきだろうが、これらの問題解決に向けた国際的な取り組みの一つが、日本が議長国を務めるCodexバイオテクノロジー応用食品特別部会で現在検討されているAPの処遇に関する議論だ。第7回特別部会は、来る9月24日から28日まで千葉県において開催されるが、こちらの成り行きが注目される。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)