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世界のGMイネ事情〜Ventria社の認可、LLRICE601事件後遺症など

宗谷 敏

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 先週末は、USDA(米国農務省)がVentria社の医薬品用途GMイネの安全性を認める方向で2007年2月28日付官報告示を行ったニュース(07.3.2.AP)が数多くカバーされた。一方、食用のGMコメでは、世界のあちこちで06年8月のLLRICE601事件の負の遺産が依然尾を引いている。そのあたりを整理して眺めてみたい。

 07年3月30日までパブリックコメントにかけられているこのUSDA認可が実現すれば、Ventria社はカンザス州におけるGMイネの試験栽培が規模を拡大(約3000エーカー)して可能になる。あちこちの州から抵抗に遭い本格的試験栽培を諦めてきたVentria社の放浪も、漸く経済的見地から誘致に熱心だったカンザス州に安住の地を見つけるようだ。

 LLRICE601の後遺症については、昨年末にアジアをまとめたが、米国のコメ所でも事情は深刻だ。06年11月24日にはUSDAが、LLRICE601の環境安全性を認め、栽培や販売を可能とした(もちろんBayer社に商業化の意志はない)が、海外販売先の風評被害に対する懸念は沈静化しない。

 農家がBayer社に対し集団で損害賠償訴訟を起こしているのが、アーカンソー州やミズーリ州だ。これらの州では、ヨーロッパなどからの懸念を払拭するため、GMコメのコンタミゼロレベルを目指す。そのために、LLRICE601がコンタミを起こしたとされる品種の今シーズンの作付けを州として禁止する動きになってきており、CheniereやClearfield-131などの有力品種が販売できない種子会社は代替品種確保に追われている。

 カリフォルニア州でも地域農家が試験栽培も含めてGMイネの完全モラトリアムを求めており、州議会でもGMO導入から発生するいかなる損害賠償も特許の所有者(開発メーカー)に責務を課す議員立法が行われている(07.3.4.AP)。モンタナ州でも同様の議員立法が試みられたが、07年3月3日の地方紙によればDead(廃案)となった模様だ。

 米国からの輸入米(長粒種)すべてに検査証明を義務付けているヨーロッパだが、英国では07年2月21日、環境保護団体のFriends of the Earthが、LLRICE601が国内市場からいまだに完全に取り除かれていないのは英国食品安全管理局(UK Food Standards Agency)の怠慢だとする行政訴訟を起こした。しかし、高裁判断はFSAを批判しつつも最終的にはこれを認めなかった(07.2.27.ENS)。06年12月5日ロシア政府は、パキスタン、インド、タイ、中国及びエジプトからの輸入米約2000トンからLLRICE601を検出したとして、コメ輸入を一時禁止措置に踏み切った。

 アジアにおいても、宗教界から反対運動に参戦のフィリピンをはじめ、Greenpeaceなどが精力的に反対運動を主導・展開して、騒ぎは納まる気配がない。最近では、アラブ首長国連邦など中近東にまで、Greenpeaceの煽り効果が及んでいる。

 LLRICE601後遺症の話題から離れれば、害虫抵抗性GMイネを04年から世界で唯一商業栽培しているのがイランだ。05年の4000haから計画通りには伸ばせないようだが、ISAAAの06年度レポートでも、5万ha以下として名を連ねている。

 フィリピンでは、除草剤耐性GMイネLLRICE 62の食品・飼料用途での販売・使用(栽培を含まず)に関するBayer社からの申請が検討(07.2.15. Reuters)されており、反対派が耳目をそばだてている。一方、中国では、中国国家農業GM作物バイオセーフティー委員会が、4度目となるGMイネ商業化を見送った(07.2.25. Xinhua)と伝えられた。

 インドでは、商務省から遺伝子工学認可委員会(GEAC)に対し、香りの良い伝統種であるバスマチ米の栽培地域では、GMイネの試験栽培を避けるよう依頼が提出された(07.2.24.Financial Express )。タイでも何万種もあると言われるイネ伝統品種を保護・保存しようとする動きが顕著になってきている(07.2.9.AFP )

 最後に、新技術開発の話題。ドイツHamburg University とインドUniversity of Hyderabadの科学者が、フラボノイドを増やし抗酸化作用が従来のコメより22%高いGMコメを共同開発した。突然変異種から導入したアントシアニン生合成系酵素(anthocyanidin synthase (ANS) enzyme)を過剰に発現させることで、これを達成したという(07.3.2. Food Navigator )。

 以上、駆け足でGMイネとコメを巡る最近のニュースを概観してきたが、コムギと共に主食糧に対するGMが絡むトピックが賛否共々増えて来ていることは間違いないところだろう。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)