GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
遺伝子組み換えが成功したかどうかを調べて選抜するための抗生物質耐性マーカー遺伝子は、最終製品に残存してしまうためGM食品の安全性論争の的となってきた。米国の研究者たちが、どうやらブレークスルーの糸口にたどり着いたらしい。
遺伝子の水平転移の可能性は極めて低いことが知られてはいるものの、否定はできない。そのためCodexバイオテクノロジー応用食品特別部会でも安全性評価方法を含めて主要議題の一つとして検討された結果、なるべく代替技術を用いるよう勧告されている。なお、我が国では厚生労働省の「遺伝子組換え食品Q&A」のD-11項に抗生物質耐性マーカー遺伝子の安全性評価についての説明がある。
最後にマーカー遺伝子を除去することも含めて、代替技術はいくつか開発されたが決定的なものは見当たらないのが現状である。新たに米国テネシー大学のNeal Stewart教授らが開発したのは、バクテリアの代わりにシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来の抗生物質耐性を発現させる遺伝子Atwbc19をマーカーとして使用する方法だ。
参照記事1
TITLE: Scientists hope to ease GM fears
SOURCE: BBC, by Richard Black
DATE: Aug. 21, 2005
参照記事2
TITLE: Replacement found for bacterial DNA in transgenic crops
SOURCE: Nature, by Roxanne Khamsi
DATE: Aug. 21, 2005
アブラナ科のシロイヌナズナは世代時間が短く栽培も簡単、DNA 導入が容易であるなどの特徴から遺伝学的研究の実験材料として人気が高く、00年には高等生物としては始めて全塩基配列解読が終了、公表されている。テネシー大学チームは、Atwbc19をタバコに導入した結果、ホスト植物に抗生物質耐性を与えることに成功したという。
Atwbc19 遺伝子は、E. coli由来の抗生物質耐性遺伝子よりも3倍大きいため、植物体由来であることと併せて、微生物への水平転移するリスクを軽減する。このため市民団体が抗生物質耐性マーカー使用を禁止するよう要求するなど論争的なEUにおいて、GM食品への懸念を和らげる効果が期待される。なお、EUでは抗生物質耐性マーカーはなるべく使用を控えるようCodex同様勧告されているだけで、日本の一部反対派が主張しているように禁止されている訳ではない。
Natureでコメントしているカリフォルニア大学デービス校の微生物学者も、この点に同意する。たとえ微生物への遺伝子転送が起きても、植物体由来の遺伝子は微生物内で抗生物質耐性を発現させることはないだろうというのだ。 英国のGM作物研究所Rothamsted Researchの研究者もBBCヘのコメントで、重要な前進だと評価する。
科学者たちの高評価の一方、GM反対運動の急先鋒であり英国を中心に活動するFriend of the Earthは、依然辛辣だ。現在、市場に出ているGM作物はバクテリア由来の抗生物質耐性マーカー遺伝子を既に持っているだろうから、これは重要性を持たないと述べている。
Stewart教授自身も述べている通り、シロイヌナズナ遺伝子から作られたタンパク質がヒトの健康に悪影響を持たないことを証明しなくてはならないし、タバコ以外の食用植物への導入実験など、この技術の実用化までにはまだクリヤーすべき課題がある。一挙に壁を乗り越える歴史的ブレークスルーは、それほど頻繁には世に現れない。科学技術の歴史も大部分はステップバイステップである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)