GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
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シュワちゃんの映画でもおなじみ「終わらせるもの」を意味するターミネーター(terminator)は、バレンタインデーにまことにふさわしくない言葉ではある。しかし、2月7日から11日までタイのバンコクで開催された国連の生物多様性関連の会合では、この技術を巡る議題が焦点となった。
参照記事1
TITLE: Experts focus on `terminator gene’
SOURCE: Bangkok Post
DATE: Feb. 09, 2005
ターミネーターテクノロジーとは、GURTs(Genetic Use Restriction Technologies:遺伝子利用制限技術)の一種で、遺伝子操作により種子を発芽できなくする技術である。テトラサイクラインなどの化学薬品処理により稔性を自由に操作できるトレイター(Traitor:裏切り)テクノロジーはターミネーターで総称されたり、区別されたりする。尚、開発の動向など技術的な側面は、日経BP社刊「日経バイオビジネス」3月号に掲載された「ターミネーターは死なず」をご参照頂きたい。
ニュートラルな技術そのものとして見れば、非常に優れたアイディアの具現であることは間違いない。しかし、結果的に農家の自家採種権を封殺し、大企業の種子支配を決定的にするものだと環境保護グループを中心に批判が殺到した。この時、反対派のRAFI(Rural Advancement Foundation International)が、フランケン食品と同じノリでターミネーターテクノロジーという蔑称を奉ったのである。
特に98年、USDA(米国農務省)と共同でこの技術分野に米国特許を取った種子会社Delta and Pine Land社の買収を、Monsanto社が公表した時反対の声はピークに達し、Monsanto社は同技術の開発凍結を発表せざるをえなかった。なお、買収劇の方は、ワタの種子市場支配率が独占禁止法に抵触する可能性があり、不発に終わった。
さて、冒頭に戻りこの技術と国連との関わりについて少し述べる。大本は93年12月に発効したCBD(The Convention on Biological Diversity:生物多様性条約)にある。02年4月にオランダのハーグで開催されたCOP6(生物多様性条約第6回締約国会議)において、ブラジルからGURTsのようなGM関連技術はGMO農産物利用を促進させ、GURTsの試験や商業化は、将来的に途上国原住民の生活への脅威になりうるという懸念に基づく勧告案が提出された。
ブラジル勧告案には、GURTs使用を評価するための国家的規制のフレームワーク策定、実際の試験を含む調査の促進、小規模農家や原住民の農業の多様性に悪影響を与える商業的利用の禁止などが盛り込まれている。なお、EUは珍しくこれに反対のポジションをとったという。
この勧告案に対する検討は、AHTEG(Ad-Hoc Technical Expert Group:アドホック技術専門家グループ)に委ねられ、生息域内保全に係わるCBD第8条中の(j)項作業部会のSWG(Sub Working Group)IIに、追加議題「小規模農家、原住民、地域社会ならびに農民の権利へのGURTsの潜在的影響」が設けられ論じられてきた。
03年12月にカナダのモントリオールにおいて開催された第3回生物多様性条約第8条(j)作業部会では、AHTEGから報告書が提出されたが、有効な結論に至らず、以後の作業部会において引き続き検討されることとなった。
こうして、作業部会直下のSBSTTA(Subsidiary Body on Scientific, Technical and Technological Advice:科学的、専門的および技術的アドバイスに関する補助的組織)が実務的な検討作業を継続しており、冒頭のバンコクにおける会合は、第10回SBSTTAである。
結局、第10回SBSTTAは、さらなる研究と未来の協議が必要とされるということで同意し、小規模農民に対するGURTs の影響可能性に関する提案をまとめることについては失敗した。そして専門家による新たなワーキンググループが組織される模様だ(05.02.10. Bangkok Post)。最終的な結論が求められるCOP8(生物多様性条約第8回締約国会議)は、来年ブラジルで開催の予定である。
ところで、ETC Group (Action Group on Erosion, Technology and Concentration)は、前述のRAFIが改称した環境保護派NGOである。そのETC Groupは、第10回SBSTTAで、カナダ政府代表団がGURTsの国際的モラトリアムを阻止するため、GURTsを制限や禁止するいかなる提案にも反対するよう意図している秘密文書を入手したと騒いだ。
参照記事2
TITLE: Canadian Gov. Pushes Terminator at UN Meeting
SOURCE: ETC Group
DATE: Feb. 07. 2005
GURTsは、今後の製薬植物栽培などにとってキーテクノロジーの一つとなりうる可能性があるため、カナダのポジションはいかにもありそうな話ではあるが、どうやらカナダが拒否権を発動するまでもなく結論は流れてしまったようだ。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)