GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
今週と来週は2回に分けて、この1月にGMOワールドで起きた主な出来事を地域別に整理して俯瞰してみたい。これで2005年のGMOワールドが予測可能だとも思わないが、少なくとも傾向的には網羅されているように感じられるからだ。まず北米・南米および欧州篇から。
1.北米
米国では、1月13日に、アンチバイテクのNGOであるThe Center for Food Safety (CFS)から公表されたMonsanto 社の農家に対する知的所有権訴訟問題に関する報告書がまず目を引いた。なぜMonsanto 社ばかりかと思うが、トウモロコシなどパフォーマンス的に毎年必ず種子を購入しなければならないハイブリッド種の開発が難しいダイズが主力商品であることは考慮すべきだろう。
また、1月20日、Monsanto 社に対して、一部株主から投資リスクを避けるためGM製品の適切なリスク評価を行うよう要求が出された。そのMonsanto 社は1月24日、果実や野菜種子の大手メーカーSeminis社買収の意向を発表し、これも耳目を集めた。
有機農業が盛んなカリフォルニア州やバーモント州では、GM栽培に対して警戒感が根強く栽培反対運動が形成されている。GM栽培を禁止するカリフォルニア州4番目の郡を目指すソノマ郡では、環境保護グループが10年の禁止令をはかる住民投票を求めて、4万5千人以上の署名を集めた請願書を1月6日提出した。バーモント州でも有機栽培農家はGM栽培に戦々兢々である。
カナダにおいても、ポテトの主産地であるプリンスエドワード島で、ブリティッシュ・コロンビア州パウェルリバーに続き2番目のGMフリーゾーンを求める運動が展開されている。
米国農家578戸を対象に実施された世論調査の結果、90%以上が製薬農産物栽培に強い興味を示していると、1月20日のReutersが伝えている。別の記事には、普通のトウモロコシの相場が現在1ブッシェル(25.4キログラム)当たり2.50ドルなのに対し、バイオファーマシューティカル・トウモロコシは89ドルで売れるとの試算があった。こうなるとさしずめ21世紀の錬金術で、農家の関心の高さも頷ける。
2.南米
1月13日、ブラジルでは、GMダイズの栽培と販売に関する暫定法案が公表された。同日、リオグランデドスル州の農協が起こしたMonsanto 社へのGMダイズ技術料支払いを拒否する訴訟で、裁判所が技術料は種子に対するもので収穫物に課するべきではないとの裁定を下した。
1月26日から31日まで、ブラジルのポルトアレグレで開催された「世界社会フォーラム2005」には、グローバリゼーションに反対するGreenpeaceなど多くの環境保護グループが結集し、Monsanto 社にデモをかけるなどして気勢を上げた。
アルゼンチンでは、Monsanto 社の悲願だったGMダイズ技術料徴収に向けて、1月下旬農業省でも漸くガイドライン策定など問題解決への動きが出てきた。
3.欧州
現在のところEUにおける最大のキーワードは「共存」である。欧州委員会の新農業委員のBoel女史(デンマーク)は、1月20日のドイツ紙のインタビューで、前任のFischler氏(オーストリア)が03年7月に示した概念的共存ガイドラインより、さらに踏み込んで具体的な共存ガイドライン策定に意欲を示した。
共存を巡る各国別の動きでは、デンマーク、ドイツ、オランダなどと共に、イタリアが1月25日共存法案を成立させた。ただし、いずれの国内法も運用細則まで揃った時点で、欧州委員会のチェックを受けなければならない。ヨーロッパの消費者へのGM受け入れ調査に基金拠出すると1月6日発表するなど、GM推進に熱心な欧州委員会が実質的な禁止法とも言われるドイツ共存法に対してどうコメントするのか興味深い。
認可手続き関係では、Monsanto 社の除草剤耐性GMトウモロコシGA21の輸入と食品への利用についての是非を問う食品安全に関する専門委員会の投票が、さらに科学的データが揃うまで延期されたと1月25日発表された。
欧州委員会は、フランスがGM食品や環境問題で共同体遵守事項を守らないとして、1月12日欧州裁判所への提訴手続きに入った。そのフランスでは、1月25日Greenpeaceがアルゼンチンからの(GM)ダイズ輸送船を洋上で妨害する反対運動を行った。国内のGM試験圃場破壊で有名なJose Bove氏の農民連合とも、共闘が成立したらしい点は注目される。また欧州委員会の怒りに恐れをなした訳でもあるまいが、フランスでは新たに6つのGM作物の野外試験栽培を行うと、JRC(欧州委員会共同研究センター)から1月30日リリースされた。
英国では、バイオ燃料ブームを見越して原料ナタネの作付け増大が見こまれている。環境面からも注目されるバイオ燃料開発は、昨今の原油価格高騰から世界的に拍車が駆かっており、EUも例外ではない。
トウモロコシの作付けを控えていたハンガリー政府は、Monsanto 社の除草剤耐性GMトウモロコシMON 810の種子販売を暫定的に禁止すると発表した。MON 810は欧州委員会により、域内すべての国での販売が認可されている。
1月25日、スイスは、GM食品表示規則の閾値を、99年7月から実施してきた1%からEU規準の0.9%に変更し、3月1日から実施すると発表した。
ローマ法王はGMへの慎重な姿勢を崩さないが、ローマンカトリックがGMを世界から飢えをなくす一手段として公式に位置づけた場合、その精神的影響力は計り知れないものがある。米国もバチカン懐柔には熱心だし、1月24日のこの司教の演説など見ると、バチカン内部にもGMやバイオを支持するグループが着々育ちつつある様子が伺える。
来週の(下)は、アジア、豪州およびアフリカなどの予定です。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)