GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
3月31日USDA(米国農務省)は、 04年の米国農作物作付け予測を公表した。それによれば、GMO作付け比率はダイズ86%(03年度81%、以下同じ)、トウモロコシ46%(40%)、ワタ76%(73%)と米国内において依然続伸している。どうして米国農家はGMOを植え続けるのだろうか?
参照記事
TITLE: Farmers expected to increase biotech planting
SOURCE:AP, by Jim Paul
DATE: Mar. 31, 2004
折しも米国農業会連盟(AFBF)から4人の農家が来日し、福岡、大阪、札幌及び東京で「バイオ農作物のメリットを探る-農業者から見た環境と生産へのメリット-」というフォーラムが、米国大使館などの主催により開催された。筆者も4月2日の東京会場で傍聴する機会を得たので、そこで述べられた彼らの主張の一端を紹介しながら、なぜ彼らがGMOを植え続けるのかについて考察してみたい。
まずGMOの健康リスクに関しては、環境がメインテーマだったこともあるが、既に終わっている話だという壇上の雰囲気に終始した。その背景説明として、(幸せなことに米国では)規制当局や農家に対する国民の信頼性が強く、自分たちも一人の消費者であり、ましてや家族の健康に危ないようなものを作る訳がないと語られた。後段の質疑応答で日本の一部農家は自分たちが消費する作物は別に作り、農薬まみれの農産物を出荷するという話が出た時には「信じられない!」と首を振っていた。
環境面のメリットでは不耕起栽培(No-Till Method)が特に強調された。除草剤耐性ダイズは、生育中に除草剤で雑草を枯らすことが可能なため雑草の種子が残らず、翌年天地返しの必要がない。このため深刻な問題である風水による肥沃な表土の流亡や、農薬などの流入による河川の汚染が防げる。
除草剤の散布回数の減少や、収量の増加は開発メーカーの謳い文句でもあり耳新しい話ではないが、実需者である農家の口から語られるとより説得力がある。さらにトラクターなど営農機具の使用回数減少に伴う化石エネルギーコスト削減と環境への負荷低減も大きなメリットだという点は充分頷ける。
この4名は、テキサス州、インディアナ州、オレゴン州及びオクラホマ州という異なる地域の農家である。広大な国土の気候・風土や農法、主要農産物は当然ながら各々異なる。またGMOも除草剤耐性ダイズと害虫抵抗性トウモロコシやワタでは、開発目的や商品コンセプトが当然異なる。
それ故にGMO談義で筆者がいつも懸念しているように、総論と各論がごちゃ混ぜになるのではと当初心配したが、その辺りは上手く論じ分けられているように感じた。また北海道で除草剤耐性ダイズの試験栽培に挑戦した農業従事者である角田誠二氏のスピーカーとしての参加は、様々な彼我の比較という意味から非常に興味深い視点を提供していた。
非GMOや有機農産物への交雑に関しては、自家受粉植物と他家受粉植物の相違から説き起こして、緩衝帯設置など規制によりカバーされていること、交雑のリスク自体は別にGMOだけの問題だけではないことなど、GMOと有機両方を栽培している農家から丁寧に説明されていた。
あまりのGMO礼賛に「デメリットはないのか?」という不満気な一般紙記者からの質問が飛んだ。「不勉強なメディアが増幅する風評被害こそが最大のデメリットである」という答を期待したが、「8年栽培してきたが安全性で問題は起きていない」「交雑は緩衝帯を設けることにより管理されている」といった穏当な答え方であった。
彼らが言いたかったのは、おそらくGMOに固有のリスクやデメリットはないという意味だろう。交雑はGMOであろうがなかろうが等しく起きる。育種方法の進化の一つであり、しかも食品史上初めて分子レベルまでの安全性が確認されているGMOだけがどうして「汚染」などという無神経な言われ方をしなければならないのか、といったいらだちも多少感じられた。
なぜGMOを植えるのかという答は、実は案外簡単だ。農家にとってのそれは、あらゆる市場原理・経済原則に共通する経済性、収益性の向上である。米国農家の様々な説明はすべてそこへきれいに収斂する。農業も経済戦争の側面を持つ時代であれば、ヨーロッパはじめ他の農業国はいろいろ難癖をつけながらも、この技術を根本的には無視しえない。
米国農家を連れてきて、なぜGMOを植えるのか説明させろというのは筆者も長らく主張してきたことで、それがようやく今回実現したことは喜ばしい。ただ、会場を埋めたのはほとんどがメディアと業界関係者であり、一般消費者の方々や反対運動をされているグループが見当たらなかったのは残念なことであった。ディベートは双方にとって有益であると信じるからである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)