GMOワールド
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
こちらの記事は以前に、日経BP社のFoodScienceに掲載されていた記事になります。
「ネーチャー」11月20日号に掲載されたこの論文のリードはこうだ。「アフリカの活動家たちは、裕福な合衆国とヨーロッパの支援者たちから支持を受けて、GM農産物のメリットに関する戦闘にがんじがらめになっている。キャンペーンの背後の人脈、政治と金脈を追求する」。これは、なかなか面白そうではありませんか。
参照記事
TITLE:GM Crops: A Continent Divided
SOURCE:Nature, by Ehsan Masood
DATE: Nov. 20, 2003
長目な記事だが、概要は次の通り。アフリカはGM食品受け入れを巡る戦いの最前線の一つである。ジョスリン・ウェブスターをリーダーとするプロ・バイオテクのNGOアフリカ・バイオ協会はアフリカにおけるGM農作物の普及啓蒙に努力しているが、反対派の運動も熾烈である。
アフリカ・バイオ協会は、GM農産物は飢餓に対する解決を提示すると信じる多くのグループの連合組織であるが、モンサント社などバイテク企業からも資金提供を受けている。一方、反対派も環境主義グループを中心に結束を固め、ヨーロッパとアフリカで推進派と対峙している。
南アフリカは、GM商業栽培が行われている唯一の国である。エジプト、ジンバブエ、ケニア及びウガンダはGM作物の研究を行っている。しかし、他の諸国ではまだ新しい問題であり、GM農業管理のための規則を決めているのはエジプト、南アフリカ及びジンバブエの三カ国にすぎない。
各国政府は、GMの環境やヘルスリスク研究のためと称して、先進国から資金を浴びせかけられている。昨年の地球サミットにおいて、米国政府は途上国のアグリバイオをサポートするため1億ドルの拠出を約束した。USAID(米国国際開発庁)も、バイオセーフティ政策立案と研究支援に1500万ドルを交付すると発表した。
今年10月には、マイクロソフトのビル・ゲイツが創設した慈善団体ビル&メリンダ・ゲイツ財団が、2500万ドルのGM技術研究プロジェクトの一部として400万ドルを途上国の栄養改善目的に寄付した。同月、ドイツはアフリカ諸国がバイオセーフティ法を強化するために230万ドルの補助金拠出を承認した。
米国とEUの貿易論争という背景から、2003年9月11日に効力を発したカルタヘナ議定書を軸として見た場合、USAIDとドイツの補助金は特に重要である。USAID の補助金は、GM技術は安全であり、ただGM食品を望まないからとGM輸入を拒絶することは許されるべきではないという米国の官・民グループの見解を反映することに使われるだろう。
しかし、8月に開かれたアフリカ国家の指導者たちによる会合では、カルタヘナ議定書の必要条件よりさらに厳しい規則も追加できるであろうという意見が支持された。ドイツの補助金は、特定の理由を必要とせずに、GM輸入を阻止することを可能とするような規則を策定するのを助けるだろう。
このアフリカの規則策定の頭脳でありヨーロッパからの資金援助を画策しているのは、エチオピア環境保護局長官であるテウォルド・イグジアベー博士である。彼は、ヨーロッパに英国のマイケル ・ミーチャー前環境大臣を含む強力な支持者と協力的なNGOを持っている。
イグジアベー博士自身は完全なアンチGM論者ではないが、途上国の飢えという画一的なイメージが、飢えや貧困を悪化させるだろう農業スタイルを押しつけることに使われることに憤慨すると語っている。
反GMキャンペーンは00年にピークに達し、ヨーロッパやアフリカ諸国の政府は、その一部はイグジアベー博士にリードされて同盟を結成し、国連において米国と穀物輸出国のグループを撃ち破ってカルタヘナ議定書を成立させた。
この敗北に学んだプロGM側は、カリスマ的なアフリカの科学者やGMを信じる農民と政府を探し求め、熱心に組織した。主要例は、ケニアの植物学者で農家出身のフローレンス・ワンブグ博士である。彼女は学位取得後、一時セントルイスのモンサント社のラボに在籍し、同社とも強いコネクションがある。
情熱的でやや強引な活動家であるワンブグ博士は、積極的にロビー活動を展開しイグジアベー博士の主張との対決姿勢を明確にしている。アフリカ・バイオ協会もこれに連携して、アフリカのGM推進農家を招いて講演させるなど、英国や各地で消費者とメディアのための「GMの良い物語」を演出している。
アフリカ・バイオ協会の姿勢から考えると驚くべきことだが、その資金供給のすべてが強力なプロバイオ組織からだけ来ている訳ではない。最大の寄贈元の1つは、裕福な米国の博愛主義組織であるロックフェラー財団だ。しかも、ロックフェラー財団は、GMOに警戒的な姿勢の消費者組織などのNGOに対しても、同じように補助金を支給している。
ロックフェラー財団の食物保全長官であるゲーリー・トーニーセン氏は、大衆が情報にアクセスできるGM論争については、推進・反対の両サイドを支援すると言う。またGM技術に関しては、安全で持続可能な食糧供給のための全体的な戦略においての1つのコンポーネントにすぎず、アフリカの飢餓への回答だと思わないと述べている。
ロックフェラー財団のアプローチは、2015年までに世界的飢餓を半減しようと国連アナン事務総長が組織した国際特別委員会の考えに調和している。特別委員会は、4月にその最初の報告書を公表したが、一部のGMプロジェクトに関しては、バイオ工学が新しい機会を開いたということに同意している。
しかし、貧しい人々の飢えを解消させることについては、GMが現在の障害の多くに対して有効ではないかもしれないことも指摘する。ワンブグ博士自身が特別委員会のメンバーでもあり、プロGMの活動家たちはこれらの調査結果に疑義を唱えるのは難しいかもしれない。
ウェブスターもGMが万能ではないことには同意するが、もし反GMロビーが成功するなら、将来のために禍根を残すだろうと主張する。「今技術にノーと言うことはできるが、本当にそれを必要としたとき、技術は用意ができていないことになるだろう」。
アフリカのGM論争が、今後どうなるかを予測するのは難しい。しかし、ワンブグ、ウェブスターとイグジアベーが、この戦いの中心に居残ることはおそらく間違いないであろう。以上で抄訳終わり。
「エル・アラメインの前に勝利なく、エル・アラメインの後に敗北なし」と言われるように、戦史家の多くは第二次大戦におけるヨーロッパ戦線の勝敗の分岐点を、北アフリカのエル・アラメインの戦いに置く。英国のモンゴメリー将軍が、ドイツ機甲師団を率いて「砂漠の狐」と恐れられた知将ロンメル将軍を破った一戦である。
「ネーチャー」の科学的というよりはすぐれて政治的な論文を読みながら考える。GM戦線では将来どこがエル・アラメインになるのか分からないが、それでも歴史は繰り返すのかと・・・。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)