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GMOワールド

なぜ気に入らないか分かるか?

宗谷 敏

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11月10日と11日の2日間にわたり、バチカンのローマ教皇庁正義と平和評議会が「GMO:脅威か希望か?」という題目で公開シンポジウムを開催した。ここに至る経緯については、8月18日付の「GMOワールド●宗教だっていろいろ」を参照いただきたい。

参照記事
TITLE:Vatican Ponders Morality of Biotech Foods
SOURCE:AP, by Nicole Winfield
DATE: Nov. 12, 2003

 このシンポジウムには、科学者、健康問題の専門家、国連当局者、農業者のグループなどから代表者が招かれ、それに教会関係者も加わり67名が参加した。ローマ教皇庁は、この会議で得られた知見を基にGMOに対する公式見解を公表するとされている。
 しかし、これらの人選には正義と平和評議会委員長であり、バチカンきってのGMOサポーターでもあるレナート・ラファエレ・マルティーノ大司教の見解が色濃く反映されており、討議も推進派に有利な展開だったため、果たして教皇庁にとってバランスのとれた意見であったのか疑問視する一部の参加者もあった。
 この会議における反対派の主張に耳を傾けてみよう。02年8月、GMOを理由に国連の食糧援助を断ったザンビアで活動するイエズズ会の二人の修道士(一名は博士号を持つ科学者でもある)は、共同声明文を提出した。
 「教皇庁がGMOの利用を認めるなら、神が創造された万物の素晴らしさを損なう」「自然は自然であるが故に神から存在を認められ、愛を受けている」などの主張をベースに、教皇庁はGMOに対して予防的なアプローチを採るべきだと訴える内容である。
 また環境保護団体「グリーンピース」の科学アドバイザーであるドリーン・スタビンスキー博士も、GMOは世界の飢餓を改善できず、むしろ環境にリスクを与えるものだと述べた。
 「飢餓はその国の食糧生産量の問題ではなく、世界的な政治・経済問題であり、土地分配の不公平や市場へのアクセスを改善し、食糧を安価で輸入できるようにしなければ解決しえないだろう」というのが、スタビンスキー博士の主張である。
 一方、技術者、政府関係者、実農業者などGM支持派からの主張は、数の上でも勢いでもこれら反対派の論述を圧倒した。会議の主催者マルティーノ大司教も教皇庁の公式見解の公表には数年かかるかもしれないとしながらも、最後の演説で彼はGM技術に依然好意的であり、そして科学者には研究を続けるよう激励した。
 何もGMOだけで世界の飢餓が救われる訳ではないというのは、反対派の言う通りである。しかし、先週来日していたISAAA(国際アグリバイオ事業団)のクライブ・ジェームズ会長などの主張にも見られることだが、予測される飢餓の回避のために可能と考えられるあらゆることを行うべきで、GMOも実現可能性を持つ一つのツールであることは間違いない。
 そして将来的に飢餓が増大するという現実的リスクは、GMOの仮想リスクよりも確率的には高い。反対派のよく言う「食糧は余っている、分配の問題にすぎない」というのも一面の真理ではある。しかし、こう主張する人たちは「では、具体的にどうすればいいのか」を、残念ながら述べられないのである。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)