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執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

FAOが動いたけれど~GM成分微量混入がもたらす貿易上の混乱

宗谷 敏

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 2014年3月13日、FAO(国連食糧農業機関)は、GM(遺伝子組換え)作物の世界的普及による食料・飼料貿易上の混乱が近年増加しており、この問題に対する国際的な取組が必要とされるとし、GM作物の是非については議論の対象とはしないTechnical Consultationの開催事前調査報告書を発表した。

 FAOの報告書では、非GM作物へのGM作物の微量混入に対しLLP(low-level presence)という言葉が当てられている。LLPは、狭義には研究目的で試験栽培中のGM作物の商品作物への混入を指すが、FAOはより広範な意味で用いているようだ。これは「Codexガイドラインによる食品安全性事前評価をベースにして少なくとも1カ国で承認されたGM作物の低レベルの発見」であるが、「CodexがLLPを正確に定義している訳ではない」と説明されている。

 もう一つAP(Adventitious Presence)というGM原料物質の非GM農産物への偶発的な、技術的には不可避の混在-所謂意図せざる混入を指す言葉もFAO報告書では併用されている。こちらもCodexガイドラインによる「食品安全性事前評価をベースにして国で認可されなかったGM農作物の意図的でない存在の発見」だと、ここでは説明されている。

 例えば、オーガニックのような非GM作物に混入したGM作物が売買双方で承認済みなら、それは単にビジネス上の問題に過ぎない。この事例では、GMカノーラのオーガニックカノーラへの混入と賠償責任の所在に関し、オーストラリア国内で隣合わせる農家同士が西オーストラリア州最高裁で係争中(Marsh vs. Baxter)であり、判決が注目されている。

 FAOが指摘する問題は、主に輸出国では承認済みの混入GM作物が、輸入国では未承認だったという場合に起きる貿易事故だ。2009年9月にEUの共同研究センター(Joint Research Center、JRC)が公表した報告書では、これらの原因を、新規GM作物に対する国毎の承認の「非同期承認(asynchronous approval、AA)」、開発国のみでの使用を目的とし輸出を意図しない「隔離的海外承認(isolated foreign approval、IFA)」、研究目的GM作物の「微量混入(狭義のlow-level presence、LLP)」などに分類している。

 FAOがアンケート形式で纏めた事前調査報告書を見てみよう。EUを含むFAO加盟193カ国中75カ国が回答を寄せた(回答率38.86%)。75カ国中25カ国が2002年から2012年(一部2013年を含む)までに198件の事故例を報告している。2001/2~ 2009年までの8年が60件だったのに対し、2009年~2012年(一部2013年を含む)の直近5年では138件で急増している。

 年別発生件数のグラフを参照すると70件以上が記録された2009年が突出している。これは小口な貿易件数の多いカナダ産アマニ(FP967、「Triffid」)が大きく寄与したと推測される。逆に、2002年当時の米国産トウモロコシ(CBH351、「Starlink」)の場合は、各輸入国の水際検査態勢も十分に整ってはおらず、潜在的件数はもっと多かったのではないかと想像される。しかし、トレンドとしては、FAOが憂慮するように増加傾向にあることは間違いない。

 事故に関係した輸出国は、米国、中国、カナダの3カ国が45~35件で80%弱を占め、ドイツ、アルゼンチン、タイ、イタリア、ベルギー、フランス、パキスタン、ブラジル、コロンビア、インド、南アフリカ、ベトナム、チリ、クロアチア、フィリピン、ルーマニア、セルビア、台湾およびオランダと続く。

 商品別件数では、アマニ(50件以上)、コメ(40件以上)、米菓や麺類などコメ製品(30件以上)、トウモロコシ(30件)とパパイヤ(20件以上)の5品目が約90%を占め、ペットフーズ、ダイズおよびダイズ製品、カノーラと油糧種子、その他が続く。発見した輸入国が執った処置は、廃棄または輸出国へ積戻しということだった。

 FAOのアンケートの関連質問は詳細なものだが一部を抜粋すると

*(75カ国中、以下同じ)30カ国が、研究または商業のためあるいは両方の目的で、GM農作物を生産している。
*17カ国が、GM農作物に関する食品安全性、飼料安全性あるいは環境規制を持たない。
*55カ国は、未承認のGM作物に対しゼロ・トレランス政策を持つ。
*38カ国が、GM農作物の低レベルの存在に起因する貿易リスクに対し異なった政策を考慮している。
*ゼロレベルの許容度政策、低閾値政策と「ケースバイケース」などの異なったオプションが、このような政策を設定するときに用いられた。
*37カ国は、ラボや装置を所有しないためGMOs を発見する能力に欠け、
*一般的にたいていの国では、適用可能な低レベルGMO 政策、まだ有効な法律や規則がない。

 FAOのTechnical Consultationは、3月20、21日にローマで開催された。結果についてはまだ公表されていないが、FAO、IFPRI、Codex、OECD、UNEP、WTOなどの関係諸機関と各国およびNGOsなどステークホルダーによるプレゼンテーション資料は、上記のアジェンダから閲覧できる。

 実は、閾値はもとよりLLPやAPの定義さえ満足な合意が得られてはいないという状況で、この問題に対するコンセンサスの形成や国際統一的なガイドラインもしくはルールの確立は、背景と現状を知れば知るほど気が遠くなりそうに難しい。

 2009年のJRCの警告に国際社会は全く有効に反応できなかったし、これに先立つ2006年に世界の叡智を結集したかに思えるCodexバイオテクノロジー応用食品特別部会(TFFBT)においても、米国からのLLP対策協議提案が、EUはじめ入り交じった各国の思惑から、「データ及び情報の共有に関する指針」に矮小化され、具体的対策は各国にお任せといういわば骨抜きにされて、リスク評価ガイドラインの付属文書3に落とし込まれた。

 そういう経緯と環境下で、直ちに解決への糸口が見いだせないにしても、FAOが改めて問題提起した意義は大きい。例えば、各国の閾値政策の有無に関する質問に対し、日本が寄せた回答「閾値あり、飼料への安全性未承認GM作物の使用は原則禁止だが、もし飼料の安全性事前評価システムが日本と同等もしくはそれ以上の国においてすでに承認されていたなら、重要な LLP 作物の存在は最高1%まで認められる」は、対症療法だとしても他国から注目されるべきだろう。

 これは、帰結的意味として国内畜産産業の壊滅を招く米国からの飼料原料輸入を止めないための農水省の見栄を捨てて実を採った英断(もしくは苦肉の策?)だが、もちろん自国未承認GMOsの食品への混入に対する厚労省の姿勢は、ゼロ・トレランス維持(承認済みGMOsの非GM製品への混入は表示のための閾値5%)だし、環境安全性に関しては特に閾値が設けられていない。これだけでも複雑だ。

 FAOは、LLP問題を各国が論ずるための基礎工事的性格を持つ「GM Foods Platform」を2013年7月1日に公表した。GM作物のOECD、作物・国別のデータベースやCodexの安全性評価ガイドラインなど関連資料へのアクセスをまとめて可能にしている。蝸牛の歩みではあっても、安全性と経済性の両立を目指して超難問の解決に向けた努力が緒についたことは評価されるべきだろう。

執筆者

宗谷 敏

油糧種子輸入関係の仕事柄、遺伝子組み換え作物・食品の国際動向について情報収集・分析を行っている

GMOワールドⅡ

一般紙が殆ど取り上げない国際情勢を紹介しつつ、単純な善悪二元論では割り切れない遺伝子組 み換え作物・食品の世界を考察していきたい