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EFSAとUSDAに注目–Mon863再分析レビューと米国の作付面積公表

宗谷 敏

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 先々週の本稿で取り上げた通りCRIIGEN(Committee for Independent Information and Research on Genetic Engineering)がMon863の90日間ラットスタディを再分析した結果、ラットに健康危害が認められるとジャーナルに発表した。しかし、2007年6月28日、EFSA(欧州食品安全機関)のGMOパネルは、CRIIGENの再分析手法をレビューした結果、否定的声明を公表した。一方、翌6月29日にはUSDA(米国農務省)・NASS(全米農業統計局)から米国の07/08年度作付面積がリリースされ、GM作物栽培面積比率は依然続伸している。

EFSA声明:CRIIGEN再分析手法をレビューした結果、これを否定

 EFSAからの声明や本件をEFSAに諮問した欧州委員会へのEFSA回答、CRIIGEN再分析手法のEFSAレビューについては、関連情報を的確にフォローされている国立医薬品食品衛生研究所安全情報部主任研究官畝山智香子氏の6月29日付食品安全情報blogに詳しいのでそちらをご一読願いたい。

 EFSA声明の抄訳、畝山氏のコメントとも完璧であり、筆者としては直接的にこれらに付け加えるべきことはないが、脇から2、3コメントしておく。先ず、6月14日付共同通信と、ろくに背景調査もせずに右から左ヘとそれをカバーした一般紙や地方紙は、EFSA声明についてもきちんと掲載して紹介して頂きたい。

 FoodScienceにも健筆を振るわれている松永和紀氏の「メディア・バイアス?あやしい健康情報とニセ科学」(光文社新書)は、マスメディアの科学報道に対する危うさと問題点を余すところなく指摘している好著だが、一般読者の不安感を煽りっぱなしで「うちらはCRIIGENからこういう発表があったという『事実』を伝えただけですが、なにか?」の頬被り姿勢では、フジテレビの「あるある」や社会保険庁を責める資格さえない。

 去る3月13日、ベルリンにおいてGreenpeaceは、Mon863ラットスタディ再分析に関する記者会見をCRIIGENと共催し、これを受けてGreenpeace Japanも「食品として認可済みの遺伝子組み換えトウモロコシに毒性が発覚」とホームページで「断言」している。しかし、CRIIGEN再分析手法のEFSAレビューをさらに覆す科学的根拠を示せないのであれば、NGOによる科学を装った情報テロ、Monsanto社に対する営業妨害目的の企業テロ呼ばわりされても致し方あるまい。

 こういう姑息な煽りの手段を梃子にして、いくら署名を掻き集めてきても行政からは無視されるのがオチだろう。これでは怪しいErmakova博士を連れてきて自爆し、完全に世間からの信用を失墜した遺伝子組み換え食品いらない! キャンペーンのお粗末な二の舞である。Greenpeace Japan執行部は、もっとサイエンスリテラシーのあるスタッフを揃え、感情論を排して正しい科学的情報を提供し、それに立脚した反対運動を考えるべきだ。

 なお、先々週の拙稿で、わが国の食品安全委員会はEFSAからの報告待ちかもと書いたが、実は4月16日開催の第47回遺伝子組換え食品等専門調査会で、会議は非公開ながら本件にはアグレッシブに取り組んでいる。EFSAと同様、統計学の専門家によるCRIIGENの再分析手法レビューを行っているようなので、こちらの結果も待たれる。

 比較的幅のある生物学的有意差を認めず、より厳密な統計学的有意差を当てはめて攻めるGM反対派の手法は以前にもあった。古くは2000年9月、わが国において、GM反対派がMonsanto社のラウンドアップレディーダイズの申請書類を書き写してきてNGO御用学者に再分析させた結果、一般ダイズとの比較で加熱後の成分に有意差が認められる(毒性が失活していない)などと騒ぎ立てたが不発に終わった。
USDA/NASS公表:ダイズ、ワタの作付面積が大幅に減少、GMO比率は続伸
 さて、注目を集めた米国の07/08年度作付面積だが、エタノールブームに乗るトウモロコシは、3月30日付予想から3%増の9288.8万エーカー(約3715.5万ヘクタール)で対前年比19%増となった。割を食った形のダイズは、3月予想から4.5%減、6408.1万エーカー(約2563.2万ヘクタール、95年以来最低)で対前年比15%の大幅減となった。ワタも3月予想から9%減の1105.8万エーカー(約442.3万ヘクタール)と対前年比28%の大幅減となった。コムギは3月予想から5.5%増の6,050.5万エーカー(約2420.2万ヘクタール)で、対前年比でも5.5%増を示した。

 GMトウモロコシの作付け比率は73%に達し、対前年比12%の大幅増となった。トレイト別では、害虫抵抗性が21%、除草剤耐性が24%と前年から各々4%と3%減ったが、トレンドになっている害虫抵抗性と除草剤耐性とのダブルやトリプルのスタック品種が28%と前年から13%の大幅増を示している。

 除草剤耐性GMダイズの作付け比率は91%に達し、対前年比2%増加した。トランス脂肪酸表示義務化が誘因となった米国Monsanto社のVistive(脂肪酸組成変更は交雑育種、除草剤耐性を付与すればGM)などの低リノレン酸ダイズ群は、200万エーカー(約80万ヘクタール)以上と推定されている。

 GMワタの作付け比率は87%で対前年比4%増、トレイト別では、害虫抵抗性が17%、除草剤耐性が28%と前年から各々1%減と2%増、スタック品種は42%と前年から3%増となっている。

 ダイズの作付面積減少は、主産地である中西部の特に反収の高い諸州における落ち込みが激しいため、生産量の減少は栽培面積よりさらに大きいというアナリストの見方もあり、Non-GMダイズの手当ては今後ますます困難になっていくものと予想される。(GMOウオッチャー 宗谷 敏)