科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体

執筆者

池田 二三高

1941年静岡県生まれ。65~2001年、静岡県農業試験場、病害虫防除所などで農作物害虫の発生生態や防除法の研究に従事

虫愛でる爺

ウリキンウワバ 傘を作って身を隠す害虫

池田 二三高

キーワード:

Anadevidia peponis imago

ウリキンウワバの成虫。前翅に金色の斑紋がある

Anadevidia peponis larva

ウリキンウワバの幼虫。突起が多く、シャクトリムシ状に歩く

Anadevidia peponis larva2

ウリキンウワバの被害葉。萎れて傘状になる

Anadevidia peponis larva3

ウリキンウワバの被害葉に残された幼虫の囓食痕

 今年の秋、静岡県では台風15号が突然上陸し、農業分野でも大きな被害が発生しました。知人からも、家庭菜園が壊滅的な被害を受けたと落胆の電話がありました。
 しばらくしてその知人から「その後持ち直したキュウリの葉が、次々と萎れてお辞儀をしちゃうが、何の病気だろうか」とまた電話。しかし、どうも症状のイメージがわかないので、その家庭菜園に行き観察した結果は、病気ではなくウリキンウワバの被害でした。

 ウリキンウワバは、幼虫がウリ科野菜の葉を食べる害虫です。特に珍しい種類ではなく、キュウリやカボチャ、メロンなどの葉が伸びている間は、いつでもどこでも幼虫を見ることができます。

 この幼虫の食害方法はちょっと変わっていて、小さな幼虫は葉裏から食害しますが、成熟して大きくなると突如、葉柄近くの太い葉脈2,3本を囓って傷付けます。葉はその傷口から萎れて傘のように垂れます。知人が病気ではないかと疑った状態ですが、この中で幼虫は数日間葉を食べて蛹になります。

 幼虫1頭の食害量はしれたものですが、傘になった葉は、たった幼虫1頭でも全部枯れる大きな被害となります。1株あたり3頭でもキュウリは減産となる大害虫です。

 若齢幼虫は体も小さいので目立ちません。食害量も少ないので葉の食痕も目立ちません。ところが大きくなると目立って鳥などの天敵に見つかってしまうかも知れません。萎れて傘になった葉の中にいれば鳥にも気づかれないでしょう。我々も気づきません。害虫たちは、天敵から様々な方法で身を守っています。それにしてもこのウリキンウワバの傘はお見事です。しかし、感嘆ばかりしてはおられません。キュウリを立派に作るなら、ウリキンウワバの策略にくれぐれも騙されることなかれ、でしょう。

執筆者

池田 二三高

1941年静岡県生まれ。65~2001年、静岡県農業試験場、病害虫防除所などで農作物害虫の発生生態や防除法の研究に従事

虫愛でる爺

定年退職後も静岡県を中心に各地で害虫防除を指導している筆者が、虫の発生や生態、被害を受けた作物を見事にとらえた写真でつづる虫エッセイ