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連載陣とは別に、多くの方々からのご寄稿を受け付けます。info@foocom.netへご連絡ください。事務局で検討のうえ、掲載させていただきます。お断りする場合もありますので、ご了承ください
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酵素サプリメントについて、横山 勉さん(元ヒゲタ醤油(株)品質保証室長で発酵食品の開発に関わり現在は横山技術士事務所所長。食品技術士センター元副会長)に投稿頂きました。
●行き過ぎた広告に消費者庁が課徴金
さまざまな健康効果をうたって販売を伸ばしている酵素サプリメントだが、消費者を著しく誤認させる広告が目立つ。消費者庁は2020年3月17日、「生酵素」サプリメントを飲めば酵素の成分で簡単に痩せるかのように表示して販売したジェイフロンティア株式会社に対して、景品表示法違反として課徴金2億4988万円を納付するよう命じた。消費者庁のプレスリリースには、有名タレントが酵素エキスの威力でスッキリ大変身した写真が掲載されている。
また同日、株式会社ジプソフィラに対しても「生酵素」と称する食品の痩身効果を合理的根拠なく表示したとして、課徴金命令を課している。酵素食品は消費者に多大な期待を抱かせるようだが、これはいつ頃からなのか。
●1980年代に知られるようになった酵素栄養説
五大栄養素は炭水化物・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラルである。これらに加えて、酵素が重要な栄養成分と説く「酵素栄養説」をご存じだろうか。食品から酵素を摂取することにより、健康効果が期待できるという考え方である。
提唱者は米国のエドワード・ハウエル氏である。1946年に執筆した専門書を基にして、1980年代に一般向け書籍を出版し、広く知られるようになった。本説を要約すると、酵素は潜在酵素と食物酵素に大別される。前者はヒト体内で作られるが、上限がある。普段から後者の食物酵素を摂取していれば、潜在酵素を補うため健康が維持されるという。具体的には、非加熱の食品や発酵食品の摂取を推奨している。
これには科学的根拠はない。食物に酵素が含まれていても、胃液の低pHとプロテアーゼのペプシンによりほとんど失活する。運よく小腸にまで辿り着いても、基質特異性の異なるプロテアーゼにより止めを刺される。この説がいうように、ヒトの健康に、食品中の酵素が寄与することは考えられない。
ただし、現在の日本でも、酵素栄養説は根強い人気がある。本説を広めたのは、Tクリニック病院長のT氏であろう。一般向けの著作が多いが、「酵素」を扱った書籍についてコメントする。
頭脳明晰な方なのだろう、文章は流麗で読みやすい。多くは正しい内容で、引用文献を示しながら、自信満々に綴っている。ただし、プロテアーゼによる分解には触れずに、胃酸の低pHで食物酵素が失活しても、小腸で復活するものがあると記している。また、一般消費者が受入れ易い砂糖有害説やトランス脂肪酸などの問題も積極的に紹介している。
現代医療の効果に疑問を感じていれば、患者から信者になっても不思議ではない。クリニックでは酵素を謳った医療行為の他に代替医療に力を入れている。治癒効果は医師への信頼感が大きな要素になる。偽薬の効果が無視できない所以である。通っている者には一定程度の効果があるだろう。
●酵素栄養説をベースにした酵素サプリが氾濫
重ねて注目したいのは、酵素栄養説をベースにした酵素サプリの氾濫である。よく知られる例に、M酵素やS酵素がある。前者は多くの植物性原材料を長期発酵・熟成した発酵食品という。高濃度の糖類と低温により腐敗を防いでいるようだ。活性のある酵素の有無はわからないが、発酵食品には違いない。工場見学にも積極的で、マーケティングは上手である。
S酵素にもコメントしよう。まず、名称のS氏だが、健康に関わる書籍をシリーズで出版しており、この中で酵素サプリを推奨している。関連書籍も多くT氏の書籍同様、かなりの市民に支持されている。
この書籍では牛乳有害説など科学的な誤りを含んでいる。牛乳乳製品健康科学会から、質問状が出されているが、適切に回答した様子はない。なお、酵素サプリの中身は、蒸煮した穀類に麹菌を生育させた麹を乾燥させたものである。活性ある酵素を相当程度含んでいるだろう。酵素サプリには活性ある酵素が含まれないことがあり、活性(アミラーゼ)があることを実験で証明しているようだが、実験と言ってもビーカー内である。体内の変化ではない。
●有効性が確認されている酵素も
酵素サプリは活性ある酵素を含んでいても、効能は期待できない。ただし、消化管内ならば、何らかの作用があってもよい。食品ではないが、胃腸薬中の消化酵素がその例である。同様な例として、Q社の酢酸菌酵素がある。アルコールを分解するため、血中アルコール濃度が低下するデータがある。筆者も試しており、酔いにくい実感があった。アルコールの弱い方には朗報であろう。
もうひとつの例外に触れておこう。日本ナットウキナーゼ協会という団体がある。納豆菌が持つ特殊酵素にナットウキナーゼなど、いくつかの機能性物質を原料とする健康食品について市民に情報を提供している。ナットウキナーゼは経口摂取でも血栓溶解効果を確認する報告が存在する。胃内環境への対策は可能で、適切なコーティングにより、小腸まで届けるのは難しくない。
酵素は高分子のタンパク質であり、腸管関門を通過できないというのが普通の考え方である。ただし、一部は活性を保ったままで血液中に入り、やがて分解消失する。この間に血栓に作用してもおかしくない。現在(2020年3月)、ナットウキナーゼを活用した機能性表示食品が1点(2019年11月届)存在する。機能性表示は「血圧が高めの方に適した食品」である。
酵素サプリを含む多くの健康食品は基本的に不要なだけでなく、とり方によっては健康リスクが無視できないと考えている。それが、一流新聞の見開きで、酵素サプリの広告が堂々と掲載されるのもどうか。大新聞のお墨付きになり、少なくない読者が信用してしまうだろう。メディアにも問題がある。
嘆いていても、始まらない。このような投稿や書籍執筆など可能なことを実行したい。また、サイエンスカフェなど、対話型のコミュニケーションも有効だろう。酵素サプリや健康食品について、筆者も何回か話したことがあり、今後も活動を継続するつもりである。
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