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斎藤くんの残留農薬分析

2度の中国訪問で垣間見えた食などの格差

斎藤 勲

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 最近、中国へ行く機会が2回あった。上海でも帰りは2時間余りで帰って来られるようになったが、中国は本当に近くて遠い国であることを改めて実感した。街中で買い物をすると、外資系の飲食店が出すコーヒーやアイスクリームなどはそれぞれ30元(450円)ぐらい。かたや、ホテルの1階にある、それほど悪くない食品売り場ではおいしい肉まんが2元(30円)で売っている。レストランの料金もピンキリで、メインの通りから2、3本入ったレストランで食べると、地元ビール2本と、4〜5皿食べ物を頼んで、料金は118元(1800円)。思わず片言の日本語を喋る従業員に10元チップをあげてしまうぐらい安く感じた。そうかと思えば立派なレストランでは1000元を超える……なぜか途中の価格帯がない感じだ。中国に食の安全を頼っている部分が多い日本人にとっては、そうした中国の背景もいろいろと知っておくべきかもしれない。今回は、上海で開催されたワークショップや、青島で開催された交流会での体験をご紹介しよう。

 10月末に上海で初めての日本、中国、韓国の農薬学会が共催した日中韓農薬科学ワークショップが開催された。120人くらいが参加し、東アジアにおける農薬問題を話し合う貴重な場だ。農薬の創薬、構造活性相関、生化学、製剤、環境科学などの分野で発表がなされた。今後、残留分析や分析データ評価の分野にも広がることを期待したい。

 開催された会場は上海南部の華東理工大学のため、私は人民広場近くのホテルから地下鉄で上海南駅に向かった。上海の地下鉄はかなり整備されてきており、切符もパネルタッチ式で楽に買える。ここでは、4元(60円)の地下鉄料金がかかった。そうして上海南駅に着いてから紙に行き先を書き、「ここへ行きたい」という中国語を使ってタクシーに乗った。あとは何も話せないので会場までは無言で走り、料金は12元から16元(240円)ほどかかった。会場では多くの大学の学生たちが事務局を担当していたが、英語も話せて賢そうな顔に見えた。

 11月17〜20日は、青島で2009日中農薬残留分析交流会を開催した。その交流会は昨年も同じように開催されていて、日本からは13人くらいが参加し、北京、上海、青島の国家検験局本部、農業科学院、上海市検査センター、機器メーカー・飲料メーカーの工場、日系食品検査センターなどを訪問、意見交換した。それが有意義な経験だったため、今年も開催することとなったが、今回は日本から40人弱が参加、現地日系、外資系関係から60人程度、中国側から20人程度の参加で、ホテルの会場はほぼ満席の状態になるほど盛況であった。日本側からは残留分析の仕組み、分析法、輸入食品の検査現状などの紹介、中国側からは農業部の方が、GB法など国家の定める方法などどんな方法で残留分析がなされているか、また改良点の報告があり、農業科学院の方が中国における農薬規制、農薬検査の最近の結果報告とそのコントロール、青島検験局の方は検疫の仕組み、検査の内容などの紹介があり、日中双方での実情を紹介し合った。中国側からの報告は、現地で働いている日系企業の人々にもとても参考になったようである。

 交流会の2日目は1日がかりで莱陽市(らいようし)にある龍大グループの圃場や検査センター、工場を見学した。龍大は日本企業のノースイなどとも合弁企業を持つ大きな食品製造集団で、敷地にはボーリング場やホテル、商店街、保育園まであり、十分生活できてしまうほどの広さを持っている。龍大グループでは最近衛生管理された豚の生産が伸び、かなりのシェアを占めていると説明があった。ということは、中国全体としては豚を育てるための飼料であるトウモロコシ、コウリャン(モロコシとも呼ばれるイネ科の穀物)、大麦などが急激に必要になるのだろう。また、山東省では一般的に使われているがラッカセイ油の生産も伸びているとのことであった。

 圃場管理は、郊外の検験局が認めた圃場で、チンゲンサイやコマツナが栽培されているのを見学した。圃場の農薬散布管理や、使用する農薬の一括管理などは、さすが龍大といった感じで、風上の散布の場合は防護ネットを立てたり、見学者にやっていることをきちんと見せたりする仕組みができている。近くの農民の住宅もだんだん新しいものが作られており、中には冬の隙間風防止には必需品であるアルミサッシが入った家も結構多くなっていた。
 昨年、検査センターは別会社として外部検査も受けられるように運営を変え、微生物、残留農薬、添加物、動物用医薬品、カビ毒など検査項目も拡大している。以前は2階にあった農薬検査、機器分析室も、3階フロアーに拡大されており、いろいろな機関からの認証を伝える看板も多く掲示してあった。3日目に青島検験局検査センターも見学したが「立派」の一言に尽きる。そうした数多くの検査機器を有効活用して頑張ってほしい。

 参加者の多くは、検査部門の方が多いので、食品原材料管理や加工食品製造工程の見学はかなり印象的だったようである。今回は調理品のお弁当などに入れられる1トレイに6種類の小さな惣菜を載せたものを見学した。原材料の部分と、加工の部分は別の部屋なので、続けて見学するにもいちいち服を着替え手洗い、手袋の洗浄、ローラーかけ、エアーシャワーなどを経なければならず、中にたどり着くまでが大変である。当たり前だが見学者にも同じレベルが要求される。

 食べ物を作るというよりも、まさに品質管理の徹底した商品としての食品工場という感じが、多くの見学者にとってショックだったようだ。私たちの何気ない一つ一つの毛髪などの異物混入クレームが集約されると、こういった商品の品質管理がおのずと求められ、それを中国の従業員の方たちにやってもらっている。どこの工場でも同じだと思うが、工場にいる女性たちは1日中立ち仕事で10時間くらいは働いているのだろうから、当然要領の悪い子、虚弱な子は振るい落とされてしまう。ふと、そんな子たちはどこへ行くのだろうかと考えてしまう。

 帰りの空港で時間があり、友人と喫茶店でコーヒーを飲んだ。それがなんと、ブルーマウンテンが88元(1320円)、私が飲んだココア(もどき)は65元(975円)もしたのだ!授業料と思えば仕方ないが、食品工場で働く彼女たちに寄付をしたほうがよっぽど意味があるお金だったのではないかと悔やまれた。また、お土産にクッキーを買ったのだが、表にはレーズンが入ったクッキーとサクランボの絵が描かれていたのに、中には無地のクッキーが入っていた。中国ではまだこうしたギャップが通用するのかと驚いた。
 私たちのような外国人が、工場などで農薬管理や衛生管理を徹底させて食品を製造させている事実があるのに対し、ひとたび郊外に出れば、名産物の莱陽梨を箱に載せて売っていたり、路地裏では韓国チヂミのような焼いた食べ物を売っていたりする事実もある。その2つが共存しているのが中国という国なのだ。冷凍ホウレン草の残留農薬、冷凍餃子事件、粉ミルクメラミン事件、北京オリンピック、上海万博など報道で目にする部分の裏で毎日生活している人々の暮らしも見ておかないと、毎年変化する中国の実態はなかなかつかめない大きな国である。(東海コープ事業連合商品安全検査センター長 斎藤勲)